六十話 第三の夢
「ヴァミラ!」
「李梨花さん!」
友達の司と豊太郎が叫ぶ。視線の先にはドラゴンのヴァミラと魔法使いの李梨花さんが動けなくなっている。
周りには蜘蛛みたいな怪物がうごめいていて二人に迫ろうとしている。自分の身体を見ると糸で縛られていた。横を見ると司と豊太郎も糸で縛られていた。
怪物が口を開きながらわたし達に迫ってくる。恐い、恐い、恐い、死ぬの?あたし達、いやだ、死にたくないよ…………。あ、来る、来る、ああ………。
「はあ、はあ、ゆ、夢?」
ここでわたし、藤田さなえの意識は覚醒した。夢にしては本当みたいだった。こ、恐かった、正夢、とかじゃないよね?豊太郎も夢でドラゴンに会ったとか言ってたけど。
制服に着替えて下の階に降りる。
「おはよー、さなえ。朝ごはん出来てるわよー」
リビングに入るとお母さんが朝ごはんを作って待っていた。お父さんはいない、わたしが小さい頃に死んじゃってお母さんが一人でずっとわたしを支えてくれた。
「おはよう、お母さん」
わたしは努めて笑顔で挨拶を返す。さっきの悪夢を悟られないように。
「さなえ?何かあったの」
「え?」
もしかして顔に出てたかな、友達には普段からさなえちゃんはいつもポーカーフェイスだねって言われるのに。
「だって今のあなた、元気ないじゃない」
「やっぱり分かるんだ」
「当然でしょ、何年いっしょに暮らしてると思ってるのよ。あんた、いつも同じ顔してるけど微妙に違う時だってあるじゃない。お母さん分かるのよ」
驚いた、自分では顔に出さないようにしてたんだけどな、流石お母さん。
「大丈夫、ちょっと恐い夢見だけだから」
今度はきっと不自然じゃない、自然な笑いだと思う。
「そう、よかった」
それが通じたのかお母さんも安心したように笑ってくれた。
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