五十二話 城野李梨花の午後のひととき
あたし、城野李梨花は学校の近くにある喫茶店に来ていた。あたしの学校は新学期始まって数日は実力テストで午前中だけの日課になってる。あたしはその空き時間を利用して喫茶店に来ていた。美羽羅も誘おうと思ったけどあいつは生徒会の仕事で忙しいからやめておいたわ。しかも生徒会長、そういや妹の方も生徒会長やってるんだっけ。姉妹揃って生徒会長とか、ブルジョアな上カリスマもあるなんてホントむかつくわね。別に家が金持ちだからってその家の子は悪いわけじゃないけど何かむかつくわ、こっちは普通のサラリーマンに育てられてるっつうの。
「マスター、いつもの」
「あいよ!」
あたしはいつものブレンドを注文する。街へ行けばチェーン店のコーヒーショップやレストランもあるけどまだまだ個人の喫茶店もチラホラあり捨てたもんじゃない。最近じゃコンビニでも旨いコーヒーらしいけどやっぱ喫茶店で飲んでこそのコーヒーよね。木製家具や壁の茶色を基調とした色合い、そしてクラシックのBGMが流れる店内。うーん、たまんない。
「あいよ、李梨花ちゃん。いつものブレンド」
「どうも」
マスターからブレンドを受け取る。この店にはかねてから通っており店長には名前も覚えられている。ま、女子高生が一人で喫茶店でコーヒーとか珍しいから初対面でいきなり名前聞かれたんだけど。
ブレンドを口に含むとコーヒー独特の苦味が口の中に広がる。くぅー、この一杯のために生きてると言っても過言じゃないわ。
「李梨花ちゃん、最近どうだい?そろそろ学校も新学期だろ」
「まー、ぼちぼちですね。今実力テストやってます」
「あー、去年もそんなこと行ってたね。どう調子は?」
「微妙ですね、普段あたし勉強しないんで」
「あはは、そうだよね。李梨花ちゃんはそういうタイプだったね」
あたしはどっちかという一夜漬けで定期テストとかやるタイプかしら。こつこつ地道に勉強とか合わないのよねー。
扉が開きカランカラーンと新たな客が店に入る。
「いらっしゃい、ご注文は何にしましょうか」
マスターはあたしから新しい客に目を移し注文を聞く。
「いつもの………と、失敬、ここに来るのは初めてでした。ウインナーコーヒーを一つ下さいませんか」
ウインナーコーヒーて確かクリームをダバダバにかけた甘党一派が飲みそうなやつじゃない、よくもまあそんなものを。まあ無理にストレートで飲む必要はないんだけど。ウインナーコーヒー頼むとかどんな客とか気になって見てみるとそいつは予想だにしなかった人物だった。
「あんたは………」
「おや、これまた奇遇ですねぇ」
ウインナーコーヒーを頼んだ新しい客はあたしがよく知った人物だった。名前はテンザ、あたしの両親を殺したやつで秘密組織の幹部、で間違いないはず。地位なんて些細なことよね。
「なんであんたが」
「私がコーヒーを飲んでいけないのですか?」
「悪くないけどなんでウインナーコーヒーよ、そんないかにも英国紳士て格好しときながら 」
そう、こいつの格好は白いタキシードにシルクハット、茶色いステッキとかいう紳士じみたものだった。これで悪の組織の幹部とか服のチョイスからあたし達一般ピーポーとは考えてることが違うわね。
「私は甘いコーヒーが好きなんですよ、何か問題でも?」
「あるわよ!なんであんたみたいなおっさんがウインナーコーヒーとかいう甘いもん飲んでんのよ!ここは男らしくブラックでしょ、悪の組織らしくブラックでしょ!」
「なんて偏見、横暴にもほどがありますよ」
「上等じゃない、やる?やっちゃう?」
「いいでしょう、今日のコーヒーはあなたを倒しからにしましょう」
あたしはゴクッ、ゴクッとコーヒーを飲み干しテーブルに叩きつける。コーヒーを嗜むマナーとしてはよくないけどこの際仕方ない、目を瞑ろう。
「マスター、お会計!」
さっさとこいつ倒して今日はゆっくり家でくつろいでやる。
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