五話 魔法使い御三家と黒羽家崩壊
黒い魔法使い彩音を逃がした翌日、司達の組織の副総帥室に五人の人間が集まっている。一人はこの部屋の主海浦川太郎、三人人は組織の一員である天城司と城野李梨花、海浦美海、もう一人はヤクザの娘花村早紀絵である。五人はそれぞれ二人がけ一人がけ用のソファーに座っている。
「で、昨日のあれは結局何者なんです?」
李梨花の疑問に川太郎から資料が渡される。
「見たまえ」
「えっと………、黒羽彩音16歳、血液型はA型……、学校は公立のやつで……あれ?こいつだけお嬢様じゃない!」
資料を読み進める中他二人の魔法使いとの違いに驚愕する李梨花。
「海浦家と花村家、そして黒羽家は魔法使いの家系として日本に発生したが黒羽家はどうも成立当初から戦い自体乗り気じゃないらしくてね、組織を作って怪物と戦わず必要時にのみ協力してたらしいよ」
川太郎が解説する。
「魔法使いなのに戦いが嫌とか変わってるんですね。というか魔法使いの家系て日本には三つしかいないんですか?」
「さあ?探せばいるんじゃないか。少なくとも発生当初関東で有名なのは我々三つの一族だけだ」
李梨花の疑問にざっくり答える川太郎。
「じゃあ可能性としては他にも魔法使いはいると?」
「そういうことになるな」
「ところで李梨花さんは魔法使い、というか魔導システムについてどれくらい知ってます?」
司が逆に聞く。
「中世ヨーロッパに出来た魔法少女風パワードスーツで武器が色々あったり頑丈に出来てるてくらいね。というかパワードスーツの要素なかったらあたしはもう死んでるわね」
李梨花は佳代子から聞いたことに自らの経験を合わせて現在の知識を説明する。
「パワードスーツ以外は魔力の増幅と使用だね。使い方は力をイメージして増幅、さらに魔法の形をイメージすると発動て感じです」
「え、魔法てそんな簡単でいいの?」
「簡易的なものに限定されますが。複雑なものを使うなら適当に言葉並べて呪文唱える必要あります。ようはイメージを集中して出来れば魔法になるてことですね」
「へー、魔法て面白いわね。今度練習してみようかしら」
「昨日から気になってたんだがなんでこいつは魔法使いなのに魔法使いのこと全然知らないんだよ、青い魔法使いは美羽羅がやってたはずだろ」
ある程度李梨花に説明が終わったところで早紀絵が疑問をぶつける。これには李梨花自身が答える。
「簡単に言うと元々使う人が家を追い出される羽目になって急遽別の人が使ったけどそれも駄目でまた別の人が使ったら強かったて話らしいわ」
「あー、そういえばあいつあんたのこと嫌いだったっけ」
早紀絵が川太郎を見ながら言う。
「特別な家の娘を育てるというのは結構大変でね……」
川太郎が自嘲気味に呟く。
「さてと、そろそろ本題に入りましょうか。美海ちゃん、昨日の人達から事情聞いてるよね」
司が切り出す。
「あ、はい。話によるとあの人達彩音さんをナンパしようとしたら変身してきて鎌を出したので逃げる内にやられたて感じらしいです」
「自業自得じゃん」
美海の説明に冷めた目になる李梨花。
「ところがそうもいかんのだよ」
川太郎の悩ましい言葉。
「どういう意味です?」
李梨花が質問する。
「見たまえ」
川太郎は新聞の切り抜きをテーブルに置く。
「ただの新聞じゃん、なんでこんなやつを?」
「殺人事件かなにかでしょうか」
「しかもどれも猟奇殺人の記事みたいね」
不思議がる早紀絵と美海をよそに李梨花は記事の共通性に気づく。
「これがその発端かな、彩音さんの言ってた彼女がお父さんを殺した事件」
司が表紙に大々的に記されている記事を見つける。
資料の総合すると二週間前に彩音が父親を殺して以降度々殺人事件はおき被害者の身体の一部を切断して回っていると記されている。
「傷跡から凶器はどれも刃渡り40センチほどて書いてあるから黒い魔法使いの鎌とも合致するね」
司が彩音との共通性も述べる。
「じゃあ、やっぱり……」
彩音が残虐な行いをしたと知りショックを受ける早紀絵。
「そう、黒羽彩音が一連の事件の首謀者の可能性が高い今、彼女を放置するわけにはいかない。捕獲、もしくはそれが不可能なら討伐を命令する」
川太郎が結論を言う。
「待ってくれ!これには多分わけが……」
しかし早紀絵が待ったをかける。
「だとしても黒羽彩音が現に君たちの目の前で人を殺そうとしたのは事実だろう?」
「それは、そうだけど……」
「わたしもかつて魔獣退治の同志だった男の娘を殺すのは心苦しい、わかってくれ」
悲痛な面持ちの川太郎を相手に早紀絵も何も言えなくなる。
部屋の人間達が複雑な心境の中、誰かがドアをノックのする。
「入りたまえ」
「失礼します」
「ご婦人……!ご無沙汰しています」
川太郎の声で現る来訪者。
「え、誰?魔法使い御三家の関係者?」
突然の来訪者に李梨花が戸惑う。
「黒羽紗栄子、彩音の母さんだよ」
早紀絵が婦人を紹介する。
すらっと後ろで伸びた髪を中央をヘアクリップで留めている。ロングスカートにカーディガン、目元にシワが寄りつつあるおとなしさを感じさせる顔は往年の夫より一歩下がる妻を思わせる。
「早紀絵ちゃん久しぶり、元気してた?」
「お、おう。あんたはちょっと疲れてそうだけどな」
「娘の件で色々あったからそれなりにね……」
早紀絵と挨拶を交わす紗栄子。
「それで、えっと……彩音のことなんだけどさ……」
早紀絵がおもむろに切り出す。
「ごめんなさい、あなたには辛い役目を押し付けるかもしれないわね」
「紗栄子さん……、いや、いいんだ、覚悟なら出来てるよ。あいつが間違ったことをしてるなら友達のあたしがとめてやらないとな」
紗栄子の言葉にさきほどの迷いなど微塵もないように答える早紀絵。
「ありがとう、早紀絵ちゃん……」
「時に娘さんはそもそもなぜ父親を殺害したのです?以前はそのようなことをする人には見えませんでしたが」
司が紗栄子に彩音の猟奇殺人の始まりの動機を聞く。
「あれはある意味夫の自業自得なんです」
「ほう、なにかわけありのようですね」
「夫は元々乱暴な性格で昔からことあるごとにわたしに暴力を振るってきたんです。それである時その現場を見た娘と夫が争い、その際に娘が包丁を取り出し夫を刺したのです。その後の娘は夫の身体を包丁で何度も刺し、切り刻んだのです、それも狂ったように笑いながら。あとは、みなさんの知る通りです」
紗栄子の話を聞きながら場に空気は一気に冷えた。サスペンスドラマでしか聞かない生々しい話を実際に目撃者から聞かされては怯えるしかない状況である。
「はあー…………。子供て、DVの見過ぎで急になにかにめざてることてあるんですね」
司が顔を上に向け目を片手で覆った状態で呟く。
「なんだよそれ、彩音はなんも悪くないじゃん。全部彩音のクソ親父のせいじゃねえか」
「いや、後半明らかにおかしいでしょ。DVの見過ぎで壊れたの入れても」
友人の彩音を想う早紀絵が怒りを顕にする一方李梨花が冷静に突っ込む。
「なんだか、可愛いそう、ですね。あんな風にお父さんを殺してしまったからもう戻れない、誰かを殺すことででしか自分でいられないのかもしれませんね……」
美海が同情気味に呟く。
「紗栄子さん、来てくれて感謝します。娘さんのためにも彼女を止めて見せます」
「ありがとうございます。娘をどうか、お願いします」
川太郎が力強く紗栄子と会話を交わす。
「おい、彩音を止めるのは友達のあたしだかんな」
「僕も一応友達なんだけどね」
「あたし彩音とかいうやつの友達じゃないけど魔法使いだしね、やらせてもらうわ」
「あ、わたしは友達でも魔法使いでもありませんがサポートくらいはやれます」
盛り上がる一同。
「みんなありがとう、あの子はいい友達を持ったわね」
紗栄子が涙ぐみながら感謝の言葉を述べる。
「お礼なんていいですよ、それよりもいつものクッキー下さいな」
そう言って司が紗栄子に迫る。
「ちょっと待ってね……、あったあった。はい、みんなで食べなさい」
ガサゴソとバックを探していた紗栄子はバスケットに入ったクッキーを取り出す。
「いえーい、さあさあ食べよう食べよう」
テンションの高い司。
「あんた最初からそれが目当てでその人呼んだでしょ」
李梨花が冷めた目で司を見る。
「いやいや、ついでですよついで。彩音さんに関する情報は聞いた方がいいですし」
「うわー、嘘っぽい」
そう言いつつ李梨花も紗栄子の持ってきたクッキーに手を伸ばす。