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魔導奏者りりかさん  作者: 兵郎
六章 天使の翼をなくした少年編
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四十九話 天城司の日常

沙紀絵編feat彩音編も終わり新しい話。今までと差別化して一部除いて司の一人称です



僕、天城司は公立の天王洲中学校の二年生だ。最近まで天使の力を持ってたり魔獣っていう怪物を退治してたり普通じゃ信じられないことをやってたけど今は天使の力もなくなって普通の日常を送っている。五年前に両親が死んで親戚の叔父さんの家で暮らしてる。


今日から学校は新学期、久しぶりの学校だ。学校への通学路をいっしょに歩いてるのは黒羽彩音、怪物退治をしていた関係の知り合いで今はいっしょに暮らしている。


「よっ司、久しぶり!元気してたか?」

道沿いの家から現れたのは五年前からの知り合いで一年生の時は同級生だった二宮豊太郎だ。家も近くいつも僕に絡んでくる。


豊太郎が片手を上げる。

「別にどこも悪くないよ、大丈夫!」

僕はいつも通り笑顔を向け腕を上げ豊太郎の手に合わせる。パシーンと小気味のいい音がしてハイタッチがかわされる。


「彩音も元気してたか?」

彩音ちゃんにも片手を上げハイタッチを求める豊太郎。

「元気ー!」

『いえーい!』

ハイタッチを交わす二人。


「今日から新学期だな」

「うん、今年も同じクラスになるといいね 」

僕は豊太郎と話し出す。豊太郎とは出会ってから学校ではずっと同じクラスで別々のクラスになったことはないほど、男同士なんだけどちょっと運命感じちゃうね。


「はいはーい、今年はわたしも同じクラスがいいと思いまーす」

彩音ちゃんが手を上げて言う。

「だってよ」

「うん、出来ればみんないっしょがいいね」


「ところでお前何かあった?声に覇気がないていうななんていうか………」

豊太郎が妙な心配をする。


「べ、別に何もないよ。いつも通りだと思うよ」

別にショックを受けることはあまりないはず。強いて言うなら天使じゃなくなったくらいだけど別に力がなくなったくらいどうってことない、普通の暮らしに戻るだけだし。


「ならいいや。けどあんま無理すんなよ、ヤバくなったら俺に言えよ、俺たち親友だろ?」

豊太郎が自分を指差しニカッと歯を出し笑う。この顔を見てると本当に彼と親友で良かったと思える。


「はぁ………」

反対側を見ると彩音ちゃんがため息をついてこちらを睨んでいた。


「な、なにさ?」

「べっつーに?相変わらず能天気だなーて」

戸惑いながら聞いてみるが彼女は仏頂面のままだ。


「おっはよーございまーす!」

しばらく歩いていると道の向こうから自転車を押した女の子が現れる。海浦美海、僕らと同じ学校の三年生で彩音ちゃんと同じ怪物退治の関係で知り合った子だ。僕達とは通学路が違うんだけど早めに家を出てわざわざ僕達に合わせてくれている。


「今日から新学期です!クラス替えですよクラス替え!みなさんと同じクラスになれるといいですね!」


「え、美海ちゃんと………同じクラス?」

何か変だ、少し首をかしげてしまうような。


「いや、ですか?」

美海ちゃんがえーショックー!という風に顔の前に手を出す。


「いやっていうか君、僕達と学年違うよね。あと三年生はクラス替えないんじゃなかったっけ」


「あ、ああー!そうでしたー!わたしと司達は学年違うんでしたー!同じクラスには絶対なれなですー!しかも今年はクラス替えもないですー!」

美海ちゃんが頭に手を当て仰け反りオーバーリアクションで驚く。


「美海ちゃんてホント面白いよなー」

「そうだね、なんか癒されるよね」

「うん、可愛い」


美海ちゃんは僕達より年上で学年も上なんだけどどうも敬語を使う気になれない。中学三年生にしては背が小さく子供っぽいところがあるため年上に見えてしまう。 家が大きい会社をやってるため学校でも有名で今年は生徒会長もやってるんだとか。怪物退治もやってるのに生徒会長何かやって大丈夫なのかと思うけどブレーン達が優秀なのか美海ちゃんが不在の時も上手くやれてるらしい。


「あ、彩音さん、ちょっといいですか?」

美海が彩音に手招きする。

「なに?」

彩音ちゃんが近づくと小声で話し出す。僕と豊太郎には聞こえていないみたいだ。


「あいつら、なに話してんだ?」

「さあ、ガールズトークじゃない?」

「なるほど」



男二人、特に司には聞かれないよう注意し話し出す美海。

「あの彩音さん、最近司さんどうですか?」


「うーん、普段家事やってる分にはいいんだけど何かたまにボーッとしてるていうか変ていうか……」


「やっぱり、アマツカさんが抜けたのが大きいんでしょうか」

司は以前までアマツカという天使と融合し魔獣という怪物を退治していたが今はアマツカも天使の力も司の中には存在していない。


「だよねー。でも、これでいいんじゃない?元々二人は違う二人だったんだし」


「本当にそうでしょうか。アマツカさんが司さんの別人格として現れたのはつい最近ですが二人は五年間の間ずっといっしょにいたのは確かです。そのアマツカさんが急に抜けたら司さんにはやっぱりショックだと思います」


「アマツカは、どう思ってるんだろうね」

「さあ、あの人ご飯食べるのも自分の部屋で済ましてますし家にもほとんどいませんから何考えてるかなんてさっぱりです。人間自体あまり興味なさそうです」


「会う機会も前より減ってるしねー」

「はい……」





ー ー ー ー ー ー ー ー






学校に着いた僕達は美海ちゃんと別れて自分達のクラスに入る。クラス替えでは運がよく豊太郎や彩音ちゃんと同じクラスになれてちょっぴり嬉しい。


ホームルームが始まる前の時間を利用して豊太郎がノート、というか自由帳を広げると鉛筆を出して絵を描き始める。シャッ、シャッと鉛筆が紙を滑る音が鳴る。他のクラスメイトも気になるのか僕や彩音ちゃん以外の人達も集まってくる。よく見ると既に描き進んでたのか翼とか顔とかドラゴンみたいな輪郭が見える。


「しゃっー、出来たぜ!これが俺の、ヴァーミリオンドラゴン!」

絵が完成したのか豊太郎が両手を上げ大きな声を出す。


「やめてそういうの!変な人に見えるから、てか絶賛クラスメイト達が引いちゃってるからやめて」

さっきまで沢山いたクラスメイト達が豊太郎から距離を取る。


「すまんすまん、思わず気合い入っちまって」

自分の奇行を何とも思ってない豊太郎。中学二年生だから中二病でも大丈夫ていう変なギャグはやめてよね!


「あれ、豊太郎くんまたこれ?」

彩音ちゃんが出来た絵を指す。見ると普通の中学生には絶対描けないくらいの細かい絵でドラゴンの形をしていた。色は塗ってないけどすごい迫力、そのまんま紙から出て来そう。でもこれ、彩音ちゃんの言う通りところどころ前に何度か見たやつとおんなじ形してるんだよね。


「何か最近こいつばっか描きたくなってなー」

「何それ、マイブームなの?来てるのそれ?」

「ま、そんな感じ?夢にまで出ちまってしょうがねえんだよ、折角だし絵にしてみようかなて」


因みに豊太郎は小さい頃から絵を描くのが好きらしく家に大量の落書きノートやスケッチブックがある。初めて見た時はちょっと引いたね、普通小さい頃の落書きとか捨てちゃうんだけど豊太郎の場合全部残してるからかなりのダンボール箱いっぱいに入ったのが何個もあるんだ。


「夢に出るて変わってるね、ひょっとしてヴァーミリオンドラゴンて名前も夢に出てきたの?」

彩音ちゃんが聞く。

「いや、前から」


『前から!?』

ゾゾッとした。これには流石に僕らも引くしかない。


「ごめん、もっかい言って。最近夢に同じドラゴンが出てて?しかもそれ実は小さい頃に考えたやつで?意味分かんない、何があったらそうなるのさ」


「いや、俺にもわかんねえよ。何か急に夢に出てくるようになったていうか」


「前世の記憶?はたまた異界との繋がり?」

「なんだそりゃ?」

「なんでもない、忘れて」

前にいっしょにいた天使の記憶の夢見たせいかな、豊太郎の話聞いてちょっとおかしくなったみたい。


「おはよう」

僕らより大分遅れて新たな客が教室に現れる。ボサボサの髪に目のしたについた大きな隈、だらしなく皺のついた制服を来ている。この子、一応女の子なんどけどな、女の子ていうか新種のゾンビに見えるよ。名前は藤田さなえ、豊太郎と同じ僕とは五年来の付き合い。


さなえが豊太郎の絵を見る。

「そのドラゴン、可愛い」


「いや可愛くねーし、こいつはかっこいい系なんだよ、可愛いとかありえねし」


「可愛い」

「いやかっこいい」

「可愛い」

「かっこいい」

その繰り返し。子供かっ!もう中学二年生なんだからそういうみっともない言い争いやめてよもー。


キーンコーン、カーンコーン


あ、チャイムが鳴った。そろそろホームルームだ、席につかないと。さなえと豊太郎はまだ争ってる、ほっとこう。


「はい、ホームルーム始まるわよー。みんな席についてー」

新しいクラス担任と思われる若い女の先生が手を叩き生徒に着席を促しながら現れる。なのにさなえと豊太郎はまだ争ってる、いいのかそんなんで。


「ほらあなたも早く席について、ホームルーム始めるわよ」

「ごめんなさい」

案の定注意されてた。

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