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魔導奏者りりかさん  作者: 兵郎
五章 ヤクザの娘さんとそのボディーガード
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四十八話 こうして天城司は天使と別れる



手術室に紗栄子が運ばれ手術中のランプがつく。


「お前の母ちゃん、よくなるといいな」

沙紀絵が彩音に言う。

「うん」


「なあ、この間言ったこと覚えてるか?」

「なにそれ?なにか言ってた?」


「家族ってのは大事なんだから秘密とかなしで腹割って………あれ、こんなこと言ったっけな」

沙紀絵は何か大事なことを言いかけるが何を言おうとしたか分からず首をかしげてしまう。

「沙紀絵ちゃん馬鹿でしょ」

「馬鹿っていうなよ、てめえこそ馬鹿だろ」

「なにそれ、記憶力悪い人に言われたくないしー」

「ああ?それはてめえもいっしょだろうが」


「あの馬鹿二人はほっといて、大丈夫司?悪いとこない?」

李梨花がアマツカと分離した司を心配する。

「さっきの戦いのダメージとかあるけどそれ以外は……」


「アマツカ、あなたもどこか変なとこない?」

美羽羅もアマツカの方を心配する。

「いや、問題ない」


「美羽羅お嬢様、お久しぶりです!わたくし、以前海浦家で侍女をしておりましたフヨウと言います。覚えていらっしゃいませんか」

今度はフヨウが美羽羅に話しかける。


「いや、誰だっけあなた。フヨウ?名前はどっかで聞いたことあるような………」

美羽羅が目を細めうーんと唸るが思い出せない。


「おい悪魔、初対面ではないとはいえそのような態度を取るとは新手の詐欺か?お前は魔王院ありさの使用人じゃなかったのか」

アマツカが怪訝になる。


「違うんですアマツカさん!この人五年前まではうちで働いてたんですけど五年前を境にいなくなってたんです。それでついさっきメイド服を着たフヨウさんを見たらうちでメイドやってたこと思いだして……」

美海が説明する。


「はあ、さっぱり分からん」

「右に同じく」

「ガクッ。ちょっとあんた達ねえ!」


「みんな、わたしは大丈夫だからみんなは先に帰ってていいよ」

彩音が言い出す。


「なに言ってんだよ、お前の母ちゃんなんだから一人にさせられるかよ。あたしも残る」

沙紀絵が帰りたがらない様子だ。

「意味分かんないし、こういうのは別に友達といっしょにいる必要ないの。ほら行って」

「なんだよ、彩音はあたしのこと嫌いなのかよ」

「なんでそうなるの、別に嫌いじゃないから」


「沙紀絵、こういうのは一人でいた方がいいの。彩音のためにも一人にしてあげましょう」

美羽羅が言う。

「うー、分かったよ」

沙紀絵が頭をガシガシとかく。


「いいか、お前の母ちゃんが起きたらちゃんと仲直りしろよ」

「はいはい、分かってるって」


「それでは皆さん、お家までお送りしますよ」

大吾が言う。

「いえ、先に本部の方に寄って。今回の件報告しなきゃなんないし、特に司とアマツカはこんなだし」

組織に所属していないと言いながらも律儀に今回の事件の顛末を報告しようとする美羽羅。



ー ー ー ー ー ー ー ー ー



組織の本部、総帥室に集まった美羽羅達はそこで今回の顛末を話した。副総帥室というのもあるがそちらはソファーと机がある程度でこちらは長机が複数入るほど広い。

「いやー、すごい話を聞かせてもらったわい。あの魔王院ありさを倒すなんて流石は魔法天使てところかの。ふむ、魔導奏者がもう少し増えればそっちでも善戦出来たかの」

アロハシャツに長い白髪と髭の老人、海浦水吾郎がソファーで髭をいじりながら話を聞いていた。美羽羅と美海の祖父にしてウィザードマテリアルを指揮する総帥である。


「水吾郎殿、問題はこいつの方なんだが」

アマツカが司を指さす。


「こいつに最早魔獣共と戦う力はない、組織にはもう必要ない存在だ。どうする?」


「おいアマツカ!そんな言い方はないだろ。こいつだって今まであたし達の仲間として頑張って来たんだ、それなのにそんな突き放す言い方………」

沙紀絵がアマツカの胸ぐらを掴む。


「ふん、事実だろう」

アマツカは意に返さない。


「いいんです、沙紀絵さん。もう、魔獣のこととは関わりません。このビルにも、もう来ません。今まで、ありがとうございました」

頭を下げ部屋を出る司。


「待てよ」

それを沙紀絵が立ち塞がり止める。


「いいのかよそれで!お前、あのありさとかいうやつに家族を殺されてるんだろ!それなのに仇討たなくていいのかよ、悔しくないのかよ!本当にこのままここをやめちまっていいのかよ。なあ、考えなおせよ」

司の肩に両手を起き説得する。


「僕はあなた達とは違うんです、たとえ仇がいても力を得てまで討とうとは思いません。それに、僕みたいな人が怪物と戦うなんて無理なんです。今まではたまたま力があったから怪物と戦ってきただけで本当の僕にそんな勇気なんてありませんよ」

司が自信なく答える。


「では」

沙紀絵を避け出口に向かおうとするがその先に沙紀絵が回り込む、再び避けるがまたもや回り込まれる。その繰り返し。


「あの……」

帰るに帰れず困ってしまう。

「帰さないぞ、お前がここを辞めないて言うまで帰さないぞ」

ムスーとした顔のままあくまで立ち塞がる沙紀絵。

「ええ………」

ますます困ってしまう司。


「そこまでにしなさい」

美羽羅が沙紀絵を注意する。

「でも……」

「でもじゃない、司が困ってるでしょう?」

「分かったよ……」

渋々食い下がる沙紀絵。


扉を開け再び頭を下げ部屋を出ていく司。

「司のバカヤロー!コンジョーナシー!」

廊下に響く沙紀絵の罵倒。


「たく、しょうがないわねー。ちょっと行ってくるわあたし」

李梨花が頭をガシガシとかきながら椅子から立ち上がる。

「李梨花?」

「沙紀絵、あいつのことは、あたしに、まーかしとけ!」

沙紀絵の肩をポンと叩き親指で自分を指しながら大仰に言う。

「お、おう!」

何だか分からないが力強く頷く沙紀絵。


「というわけであたし先に上がりまーす」

右手を上げながら去る李梨花。

「ちょっと李梨花!待ちなさい!」

美羽羅が止めるがもう遅く既に李梨花の姿は消えていた。

「何なのかしらあの子ー」

李梨花の突拍子のない動きに美羽羅が首をかしげる。


「わたしが初めて魔法使いになった日もそうだったんですよね。李梨花さんにわたしが使う予定だった魔導システムを取られてお父さんと喧嘩して出てったら追いかけて来て」

美海が以前あったことを説明する。


「変わってるわねー」

「いいじゃん、助け合いは大事だろ」

なぜか沙紀絵が胸を張る。

「あなたのところは組共々仲良そうね」

「お前は違うのか?」

「ほら、父親があんなんじゃない?」

川太郎を指さす美羽羅。

「あー」

何か納得したような沙紀絵の声。


「僕?」

「お父さんて組織のことにかまけてあたし達娘のこととかあまり気にしないでしょ?」

どうしてという顔で自分を示す川太郎に美羽羅が理由を指摘する。

「仕方ないだろう、魔獣退治のためにはある程度強い組織が必要なんだから」

「よく言うわよ」



ー ー ー ー ー ー



「司ー!」

組織のビルを出ようとしていた司を李梨花が呼び止める。

「李梨花さん?」


「司、あんたはもう魔獣退治はしなくていい。けど、あたし達の仲間であることには変わらないわ。たまにでいいからここにも顔出しなさい、コーヒーぐらい出して上げる。沙紀絵だけじゃなくて他の連中だってあんたを待ってる。あんたは、一人じゃない」


「李梨花さん…………。ありがとうございます、また来ます」

司は李梨花の話を聞くと笑顔になりビルを後にする。


「と、その前に」

李梨花は魔導システムを取り出し魔法使いの姿に変わる。さりげなく司の背後に近づくとちょうどお姫様抱っこをする形になる。


「り、李梨花さん!?」

急に抱きかかえられ戸惑う司。


「今日はもう遅いんだから男の子とはいえ一人で夜道を歩くなんて危険よ、あたしが送っていくわ」

沙紀絵を探しに行った時はまだ夕方だったがもう日は落ち夜になっていた。


「李梨花さん…………。送ってくれるのは嬉しいんですけど…………何か恥ずかしいです」

司が頬を赤らめる。


李梨花は一瞬バイクにしとけば良かったと思うが今日はあいにく組織からの直通バスで来ていたためそんなものはない。それよりも司の態度が気に障った。

「乙女か、あんたは!いいから黙って道案内する!」


「え、ちょ、李梨花さん!急に飛ばないで!あ、なんか恐い」

司の悲鳴が空にこだまする。

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