四十四話 彩音靆紗栄子、親子対決!
「ねえ母さん、死にたいの?」
彩音の虚ろな目が迫る。
「え?」
「死にたいの?」
紗栄子はゾクリとした。この少女は自分を見ているようで見ていない、何か別のものを見ているようにしか見えないのだ。
「死にたいんだ。じゃ、殺すよ」
彩音の鎌を持つ力が強くなる。鎌を止めるナイフがガタガタと震え彩音の力に耐えられなり吹っ飛ぶ。
「あっ……」
紗栄子はナイフを取りに行こうとするがそれが命取りになった。武器のない無防備な紗栄子を彩音が襲ったのだ。
「あぐっ」
魔導システムの防御能力を突破し腕の肉が直接裂ける。鮮血が飛び傷口からドクドクと血が流れる。
「あ、あ……」
紗栄子は恐怖を感じ後ずさりする。迫る彩音、その姿はユラユラと揺れており幽霊の類を思わせた。
「あなた達、見てないで助けなさい!正義の味方なんでしょ!」
紗栄子が司達に向かって叫ぶ。
「お嬢様、いかがしましょう?」
大吾が沙紀絵に問いかける。
「いや、あれはあのなんつうか………」
沙紀絵が言い淀む。彩音の方はあまり見れていない。
「気持ちは分かるよ、正直僕も恐い 」
司が沙紀絵の肩に手をかけるが大吾に睨まれ思わず引っ込める。
「あたしは自分で殺さなくてラッキーて思うくらいよ 」
「右に同じく」
李梨花と美羽羅の考えはかなり残酷だった。
「でもいいんですか本当に、親子同士殺し合うことになってません?」
美海が意義を唱える。
「それはないよ、死人が出る前に乱入してくる人がいるから」
司が美海の懸念を否定する。
「乱入?誰がです?」
「美羽羅ちゃんの二段変身、彩音ちゃんの魔導システムの防御を突破する魔力、これだけ強い魔力が出てればやつが引き寄せられても無理はないと思うんだ」
「やつ?」
「魔力に引き寄せられるって…………まさか!」
司の言う人物に何度も覚えがあった美羽羅がその正体に気づく。
「いや誰よ」
「分かるように説明しろよ」
やつではなく早くそいつ名前を出せという顔の沙紀絵と李梨花。
「え?」
「ん?」
司と美羽羅は本当に分からないの?という顔で首をかしげる。
「もしかして、魔王院ありさのことですか?」
美海がやつと呼ばれるものの正体を察する。
「魔王院………」
「………ありさ」
沙紀絵と李梨花が息を飲む。
魔王院ありさ、司と融合している天使のアマツカや美羽羅がかつて対峙したアンダーウィザーズの怪物王女だ。ありさは倒したかと思われたが以前他の魔法使いと共に再び相見えた。その時は運よく倒せたが今回は果たして……。
一方、彩音はゆっくりと地獄の鎌を携え紗栄子に迫っていた。
「くっ」
紗栄子は地面に手をかざすと地面から二つの影が現れる。影は紗栄子の姿になりナイフを構え分身となる。分身が彩音を襲い、その間に紗栄子は自分のナイフを回収する。
「邪魔」
彩音は紗栄子の分身をかわしつつ鎌を振り回し分身に鎌を入れる。すると容易く消滅してなくなる。
「まだまだっ」
紗栄子は再び手をかざす。分身が再び出現し襲いかかる。
「しつこい」
彩音は新しい分身も消していくが数が多く間に合わない。分身の数は次第に増えていきその中に埋もれる形となってしまう。
「彩音!」
「お待ち下さいお嬢様、あそこに突っ込むのは危険です!」
「邪魔すんなよ、親友のピンチなんだぞ 」
沙紀絵が魔導システムのデバイスを手に飛び出そうとするが大吾に止められてしまう。
「じゃれてる場合?!あたしは行くわよ」
「わたしも!」
李梨花と美海が先に動こうとする。
「いや、多分大丈夫じゃないかな」
「ええ、むしろ彩音の魔力が上昇してるのを感じるわ」
『え?!』
またもや止められる。他の仲間が彩音のピンチに焦る中、司と美羽羅は冷静なままだ。
彩音を覆う紗栄子の分身達が内部から裂け、魔力の鎌が飛び出す。鎌は右回りに動き紗栄子の分身を消滅させていく。
「な、わたしの可愛い分身がっ」
紗栄子が驚く。そして鎌は全ての分身を消滅させていく。
「ハァ、ハァ…………」
彩音は体力が切れたのか地面に膝をつく。
すると突如司達は凄まじい魔力を感じた。それは身体がもう震えだすほどである。いや、それだけではない。その場の空気でさえ震えだす。周囲のビルや窓全てがビシビシと悲鳴を上げてるかのような錯覚をさせる。
「この感覚、まさか………」
李梨花はその感覚に容易に思い立った。
「この妙な胸騒ぎはいったい………」
特別な力を持たない大吾ですら感じる威圧感だ。
「第ニ戦の始まりてとこかしら」
美羽羅が強い魔力の感覚に頭を抱えながらもニヤリとする。
「この前は運よく大丈夫でしたが今回は上手くいきますかね」
美海がふとよぎった不安を漏らす。
「おいやめろ、それ言ったら死亡宣告みてえじゃねえか」
沙紀絵が美海の言葉に悲鳴を上げる。
「彩音!お前は下がっていろ!」
司の顔つきが神秘的なものになり人格がアマツカに変わる。
「構えろ、来るぞ、やつが」
アマツカが仲間に呼びかける。
「わりいな大吾。あたし、やんなきゃなんないんだ」
沙紀絵が真面目な顔で大吾に語りかける。
「分かりました、しかし命だけはお大事にしてくださいよ」
「ああ!」
大吾は沙紀絵の顔を見ると呼吸を整え彼女と同じような顔になり彼女の無事を祈る。
『魔導演奏!』
『魔法演奏!』
美羽羅と美海は新型のリミッターを解除した第二形態へ、司はいつもの天使の力ではなく専用の魔導システムでの姿へ、李梨花と沙紀絵は通常の魔法使いの姿へそれぞれ変わっていく。
美海の使う魔導システム、スメラギの第二形態は美羽羅のハヤテと同じく全身アーマーを装着した形になっている。下半身が第一形態のスカートの上にさらにいくつもの花弁が連なったスカートのような形に、上半身は胸元から下半身との境目のあまりない位置まで覆うプレートアーマーに縁取りと石のついたリボンのついたものになっている。さらに肩や腕、ブーツも花弁のような形状となっている。
「彩音!なぜ下がらない?!そこは危険だと言ってるだ!…………まさか!」
アマツカは再び彩音にその場から離れるよう呼びかけるがなおも動かないがその理由にすぐさま気づく。
「忘れてたけどあいつもあたしと同じ敏感体質なのよね、ほっとくとまずいわよ」
彩音と同じ感覚を持つ美羽羅が言う。彩音と美羽羅は魔力の気配に敏感で彩音はまだ慣れていないのか特に一部の強すぎる魔力を感じると身体が震えその場から動けなくなるのだ。
「待って、彩音もだけどあの人も身体震えてない?」
李梨花が紗栄子を指さす。そこでは紗栄子が腕を抱え足をすくませていた。
「彩音の体質は母親譲りというわけか」
アマツカが顎に手を当てる。
「冷静に分析してる場合?!上見なさいよ、来るわよ!」
李梨花が今度は正面の空を指す。上空にポツリと点が浮かびこちらに近づいてくる。
次回魔王院ありさも再登場




