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魔導奏者りりかさん  作者: 兵郎
五章 ヤクザの娘さんとそのボディーガード
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四十話 沙紀絵対大吾 出会ってはいけない二人


「そうだよ魔法使いだよ魔法使い!早くあっち戻らないと、ほら司、行くぞ!」

ルシフェルに言われオフィスでの会議を思い出す沙紀絵。


「待って沙紀絵ちゃん、そんな急がなくていいから。後から佳代子さんから話聞けるから」

慌てる沙紀絵を引き止める司。


「でも敵がどんな奴か知っとかないと」

「だからそれもあとで………」

「難ならここで見せようか?」


「は?」

「え、見れんの?」

司と沙紀絵の会話にルシフェルが割り込み驚く二人。


「組織のサーバーにアクセス出来ればデータベースにある組織で使った過去の映像がいつでも使用になっているんだ、知らなかったのか?」


「へー便利だな」

「あいにく僕らは戦い専門なんでそういうのは疎いんですよ」

素直に関心する沙紀絵と違い司は皮肉を返す。


「折角だ、ここで見るか」

「ちょっとルシフェルさん?」

「借りるぞ」

「まあ、いいですけど」

アリエルの前に入りパソコンを操作するルシフェル。アリエルは一瞬戸惑うがそのルシフェルの早さにすぐに何も言わなくなる。


「タンマタンマ!ちょっとタンマ!」

もう少しで目的の映像が流れるというところで慌てて引き止める司。


「なんだ君は、急に慌てて」

「あ、いや別に今ここで見なくてもいいかなーて」

ルシフェルが訝しげにこちらを向くが司はしどろもどろになってしまう。


「何か見られたら不味いものでもあるの?」

「何か変だぞお前」

アリエルと沙紀絵にも怪しまれてしまう。


「確かに君の班のオフィスでも見れそうだが折角だ、私達も魔法使いの戦闘というのに興味が出てきてね。ここで見ても構わないかい?」

「まあそれなら………いいですけど」

ここに来て押し切られてしまう司。


そしてパソコンのスクリーンに映像が流れだす。しかしルシフェルによってすぐに止められてしまう。


「一ついいかい司くん?」

スクリーンの一帯を指差しルシフェルの目が細くなる。一見笑ってるように見えるがよく見ると目の奥は笑っていない。


「はい?」

司はスクリーンに近づくが何のことか分からない。


「他の二人はいいんだ。彩音はまだシステムを強化していないし美羽羅のもまだシステムが不完全だから問題ない。けど、君のこれはなんだい?君に渡したやつは美羽羅や美海のと違って肉体への負荷はあまりかからないはずなんだがね」

新型の魔導システムは強化システム自体は完成しているもののまだ不完全な部分があり以前模擬戦をやった際に肉体への負荷が異常にかかり使用後しばらく動けなくなったことがあるのだ。


「僕の場合肉体ではなく精神への負荷が尋常じゃないんですが。それに下手に強い力を出すと万が一敵の幹部に見られた際に狙われる可能性があるんですよ」

新型魔導システムを使って初めて模擬戦を行って以降司自身は一度も魔導システムを使っていない。


「言い訳じみてるがまあいい、よしとしよう」

スクリーンに身体の向きを戻し一時停止していた映像を再び再生させるルシフェル。


と、その前にその中の一人を沙紀絵は指差す。

「ちょっと待った。なあ、この緑の鳥男のとこ拡大とか出来ねえか」

マズイ!遂に知られてはいけない秘密に沙紀絵が手をつけてしまう。司は焦るが今さら何も出来ずただ心臓をバクバクさせるしかない。


「敵側の魔法使いの方ですね、ちょっと待って下さい」

アリエルがマウスでカーソルを操作し画面を拡大、鳥男の顔を表示させる。


「っ、こいつは………!」

沙紀絵がアップになった鳥男、大吾を注視しその正体に気づき息を飲む。


「どうして、どうしてこいつが………」

沙紀絵が声を震わせ画面を見る、その目は今にも泣き出しそうだった。


「はあ、だから見せたくなかったのに」

司がため息をつく。途中からこうなるのは分かっていたが実際に予想していた結果になるとやはりいたたまれない。


「なるほど、そういうことか」

ルシフェルがそれを見てなんとなく事情を察する。


「で、お二人はどういう関係なんです?」

アリエルが細かい話を聞く。


「幼なじみで執事、らしいよ」

くたびれた表情のまま司が答える。


「なんですかそれ、ヤクザとはいえ名家の娘てそういう運命的なの引き寄せる能力でもあるんですか」

アリエルが名家の特殊な事情とそれが生み出す少女漫画のような設定に若干引いている。


沙紀絵は口を一文字に結ぶとパソコンから離れ走りだしてしまう。


「二人ともすいません、ちょっと僕行ってきます」

「あ、はい」

「なんかすまんな私のせいで」

大吾の映像を流すきっかけとなったルシフェルが謝る。


「いえ、気にしないで下さい。じゃあ」

ルシフェルとアリエルへの挨拶も早々に司も沙紀絵を追い部屋を出ようとする。と、去り際目の前に先ほどアリエルが見せたホーミングライフルが目に入る。


「これ借りるよ!」

「あ、どうぞ。まだテスト段階なのであとで使い心地知らせてくれると嬉しいな」

「分かったー」



「ごめん美羽羅ちゃん、沙紀絵ちゃんに事情を知られた!」

廊下を走りながら美羽羅に電話をし事情を説明する司。


『はあ!?だってあなた達はアリエルのところで発明品見てたんじゃなかったの?!それがどうして!!』

電話の向こうから怒ったような声が響く。無理もない、こうならないために美羽羅達は気を使い沙紀絵を今回の件から遠ざけたのだ。


「ルシフェルさんが組織のサーバーを通して映像を見せたんだ、それで見られた」


『迂闊だったわ、その人までは気が回らなかったわね……』

美羽羅の怒りが落ち着くが同時に失敗に悩み自分を責めたように司への怒りから自分自身への怒りに変わる。


「とにかく、僕が先に行くから美羽羅ちゃん達も沙紀絵ちゃん探すの手伝ってくれるかな」

『分かったわ、他の人達も当たってみる』



ー ー ー ー ー



夕方を過ぎ夜になった頃、街を走り大吾を探す沙紀絵。

「志村ー!志村ー!出てこい!近くにいるんだろ!」

走りながらひとしきり大吾を呼ぶと膝に手を置き息を切らす。その時、ビルの屋上を見るとチラッと緑の人影が映る。沙紀絵はもしやと思いその場所へ向かう。


ビルの屋上でいよいよ出会う二人、今出会ってはいけなかった二人。

「志村!」

息を切らしながら沙紀絵が現れる。


「待っていましたよお嬢様」

ようやく会えたという風な大吾。


「お前、どうしてそんな姿に……」

「お嬢様にわたしの力を認めさせお嬢様に頼られるわたしになるためです」

沙紀絵に悲しそうな顔で問い詰められるがあくまで淡々と答える大吾。


「頼られるてお前………はっ、あたしの、あたしのせいなのか?」

言葉を紡ぐ沙紀絵が大吾がこうなった原因が自分にあるのではと思い始める。


「お嬢様が気になさる必要はありません。しかし、お嬢様にはわたしと戦っていただきます。そうでなくては目的が達成出来ませんから」


「あたしが戦えば、お前はその力を手放してくれるんだな?」

「はい、その予定です」


沙紀絵は覚悟を決め、魔導システムのデバイスを取り出す。

「魔法演奏」

デバイスのボタンを押すと同時に呟き魔法使いとしての赤いゴスロリ衣装に変わる。


大吾が翼をはばたかせ風を起こすと沙紀絵は後ろにジャンプしビルのフェンスに足をかけると杖を斜め後ろに向け炎を発射する。炎の衝撃で跳躍し大吾の上に移動する。


「燃えろ!」

火炎弾を発射する沙紀絵。大吾は鳥の頭の嘴部分から音を発生させる、すると火炎弾が振動を浴び打ち消される。


「ぐわぁぁぁぁぁ!」

火炎を相殺した音の波は沙紀絵を直撃する。ダメージを受け屋上の地面に落下し倒れる沙紀絵。仰向けに倒れてる状態の沙紀絵に大吾が近づき腹部を鳥の鉤爪の着いた足で踏みつける。


「ぐぅっ」

悲鳴を出す沙紀絵。


「これで分かったでしょうお嬢様、わたしの方があなたなどよりずっと頼りになると」

大吾が踏みつけた足を沙紀絵の腹でグリグリと押し付けながら言う。


パキュンパキュン!


突如エネルギー弾が飛び大吾に当たる。


「全く、小さい頃から妹のように可愛がってた子に何やってるのよ。こちら美羽羅、沙紀絵とターゲットを確認、戦闘態勢に入る」

ビルの階段側からボウガンを構えた美羽羅が現れ左の耳を指で触りながら喋る。新型の場合魔導システムのデバイスでも連絡は可能だが緊急時や戦闘時には左の耳に埋め込まれたインカムを使用した方が早いのだ。

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