三十八話 天使と人間と魔法使いと
「新型を手に入れたくせに対象に逃げられるとか何やってんのよあんた達、情けないったらありゃしないわ」
組織のオフィスに戻ったばかりの司達が佳代子に毒突かれる。
「しょうがないでしょう。相手が早かったんだから」
美羽羅が言い返す。
「これに懲りたら組織に無断で動かないことね。少数精鋭は不測の事態に弱いんだから」
佳代子が以前に美羽羅に勝手に動いたことの意趣返しをする。
「あ、ごめんなさい、今回勝手に動いたのはわたしの意志なんです。美羽羅ちゃんは悪くありません、司くんも美羽羅ちゃんに言って連れて来てもらっただけです。」
彩音が謝罪する。
「なんであなたが…………、てかそういえば今回の魔法使いの顔どこかで…………確か、執事の格好してたような……。あ、もしかして沙紀絵の彼氏?」
彩音の言葉で佳代子は予め見ていた映像に映っていた大吾に心当たりを見つける。
「そういえばあの人沙紀絵ちゃんと仲良かったですよね、やっぱりカップルなのあの二人?」
「カップルとはちょっと違うような………、一応幼なじみだから仲はいい方なんだけど」
司が佳代子の言葉であらぬ勘違いをするが彩音が修正を加える。
「でもこの件て結局痴情のもつれが原因じゃないかしら?彼が沙紀絵に冷たくされたーとか、好意に気づいてくれないーとか」
「ちょっと美羽羅ちゃーん!なんで君は身も蓋もないこと言うかなー!」
美羽羅の何気ない言葉に彩音が怒り出す。美羽羅の制服の襟を掴みガックガック揺らす。
「ちょ、彩音やめて揺らさないで、気持ち悪い………うっぷ……」
あまりの揺らされように口を抑えて吐きそうになる美羽羅。
「榊さん、今回の件は沙紀絵には内密でお願いします。あの子基本ガサツだけどこういう時メンタル弱いから、大事な人があんな姿になったのを見たらきっと傷つきます」
美羽羅から手を離し佳代子に直談判する彩音。美羽羅の方はまだ口元を抑え司に心配されている。
「あの子だけ会議室から連れ出す程度なら大丈夫だと思うけど」
「ありがとうございます」
ー ー ー ー ー ー ー ー
「今度はお前らもかよ、てか榊さんの方は責任者なんだから遅れちゃ駄目だろ何やってんだよ」
司達が佳代子の班のオフィスに着くと後ろの席にいた沙紀絵が悪態をつく。特に佳代子は強く言われてしまった。
「しょうがないのよ、こいつらと色々話すこともあったし」
「言い訳とかみっともないぞ、それでも大人かよ」
「ごめんなさい」
沙紀絵の言葉になんとも言えなくなる佳代子。自分達は大人じゃなくて良かったとつくづく思う司達三人であった。
「佳代子さんのあんな顔初めて見たわね」
「なんか可愛いですね」
真面目な沙紀絵にタジタジになっている佳代子に李梨花と美海は笑ってしまう。
「ところで沙紀絵、技術部から見て欲しい装備があるから見に来いって連絡あったからちょっと行ってきてくれる?」
佳代子は彩音との打ち合わせ通り沙紀絵を遠ざける作戦に出る。
「いいけど会議はどうすんだよ」
「あとでちゃんと結果話すから、ね?」
「まあいいけど」
「じゃあ司、いっしょに行ってあげて」
「了解です」
ー ー ー ー ー ー ー
「そういや彩音のやつあたしとあたしの友達とケーキ食ってたら急にいなくなったんだけど何かあいつから聞いてないか?」
技術部のフロアに向かう途中沙紀絵が司に聞いて来た。
「さあ、どうだろう。タイムセールでもあったんじゃないかな」
司は誤魔化したが美羽羅から聞いた話だと彩音は沙紀絵が友人といる時間を邪魔したくないため気を使い沙紀絵抜きで魔法使いと戦おうしたらしい。
「あいつタイムセールとか行くのかよ」
沙紀絵が意外そうにする。
「まあ実家暮らしじゃなくなったからね。買い物の手伝いくらいするさ」
「お前も買い物とかすんの?」
「むしろ僕がいつも買い物してるんだけどね。組織に見つかってからは妹分が行く時もあるけど」
「主夫かよ。前から思ってたんだけどお前いつから組織にいるんだよ。聞いた話じゃ親父達の代からいそうな割に組織に所属したのは最近みたいだし 」
「昔からいるのは僕じゃなくてアマツカの方だけど、確か二十年くらい前からこっちにいるんじゃないかな」
「こっちってじゃああっちは?確か天界て言ってったっけ」
「天界にいたのは四十年くらいでトータルで六十歳くらいかな」
司が指を曲げながら答える。
「おっさんかよお前の相棒」
「誰がおっさんだたわけ!あっちの計算だとまだ十五だ!」
「うわっ、急に出てくんなよお前ー。ビビるだろー」
幽霊のように半透明な姿した天使、アマツカが現れ驚いた沙紀絵が思わず尻をつく。
「あんま近くで怒鳴んないで、頭痛い」
司はこの現象に慣れてるのかアマツカが現れたことより怒鳴ったことに悲鳴を上げている。
「ふん、お前が変な言い方をするからだ。そもそも我々天使は人間の四倍の寿命がある、貴様らといっしょにするな」
「天使てすげえな」
沙紀絵が関心する。
「そうだろうそうだろう」
アマツカが腕を組み得意そうにうなずく。
「でも人間の僕と融合してるから君いつもの四倍年取ってない?」
司が指摘する。
「え、うそうそ、いやだありえない、俺死んでる上に寿命減ってるとかありえないぞ」
アマツカが狼狽する。
「君ってたまに一人称俺になるよね。天使だから格好つけて自分のこと私て呼ぶとか可愛いとこあるよね。肉体年齢僕と一個しか違わないし」
「貴様ぁ、馬鹿にしてるのかっ!」
アマツカが怒りのあまり司に掴みかかろうとするが腕は司をすり抜けてしまう。
「えっと、君自分が半分幽霊だって知ってる?」
司が首を傾けながら言う。
「まだ言うかっ!」
アマツカが今度は拳を振り上げるが司は平然としたままそれをすり抜けさせる。
「くっ、身体が透明じゃなければ……」
「なあなあ、それあたしにもやってくれよ」
と、そこで沙紀絵が飛びつく。
「別に遊んでたわけじゃないが………」
アマツカがたじろぐ。
「いいじゃん楽しそうだし」
沙紀絵が両腕を上に曲げ前に出しながら迫る。
「断る」
「えー、なんでさ」
「そもそもこの身体はなりたくてなったわけじゃないし遊ぶためにあるものではないからだ。お前の遊びに付き合う気はない」
「ごめん……」
アマツカに言われしおらしくなる沙紀絵。
「気にするな、悪気はなかったんだろ?」
アマツカが沙紀絵の頭付近を撫でるように手を動かす。
「おい、子供扱いすんなよ!お前自分で十五つったろ、あたし十六なんだけど。年下に子供扱いされるとかすげー嫌な気分」
沙紀絵がアマツカを睨む。
「す、すまん。つい、可愛いかったから……」
思わず手を引っ込めるアマツカ。
「ああ?」
凄みの増す沙紀絵の目。
「すまん、本当にすまん。悪気はなかったんだ……」
「チッ、今度から気をつけろし」
「はあ、時間稼ぎは出来たけど茶番だねこれは」
司があまりの場の和みぶりにあまりにため息をつく。
「何か言ったか?」
沙紀絵が司の声を目ざとく聞き取る。
「別に、それよりアリエルちゃんのとこ行くんでしょ」
「そうだよ、早く行かないとヤバイじゃん!行くぞ二人とも!」
廊下を走りだす沙紀絵。
「そうだったな、行くぞ人間」
アマツカが司に声をかける。
「別に急ぐ必要はないんだけどね、むしろゆっくりした方が助かるかな」




