三十七話 ボディーガードは鳥がお好き後編
武器を構え、臨戦態勢に入る司達。すると大吾が鳥の鉤爪のような指を振り挑発する。
「へー、こっちから来いって?上等じゃない!」
まず美羽羅がボウガンを構え大吾に向かって撃つ。しかし大吾は右へ左へ動きかわす。
「ちょこまかうっとおしい!さっさと当たりなさいよ」
ピョンピョンと飛び跳ねながら攻撃をかわす大吾に苛立ちを募らせる美羽羅。
「ちゃんと当てないあなたが悪いんですよ」
嘲笑する大吾。
「こうなったら!」
美羽羅がボウガンのグリップを回転、剣に変形させ挑む。
「ならわたしも!」
彩音も鎌を携え大吾へ接近する。
二人がかりで斬りかかるがそれでも大吾には当たらずかわされる。
「もっとよく見てくださいよ」
「あーもうっ、なんで当たんないのよ!おかしいじゃない!」
接近戦でも先ほどと同じようになり美羽羅のイライラ度が徐々にマックスになっていく。
「この人、身体が羽か何かでも出来てるんじゃない?」
一方彩音は冷静に相手を捉える。
「何言ってんのよ、そんな馬鹿な話あるわけないしあったら絶対攻撃当てらんないじゃない」
彩音の比喩を真っ向から否定する美羽羅。
「でもさっきからやってるけどわたし達の攻撃、全然当たらないよ」
事実を口にする彩音。
「確かに、それだけは本当みたいね。認めたくないけど」
彩音の言葉で不承不承事実を受け止める美羽羅。
「やれやれ、情けないですねぇ」
大吾は二人に蹴りを入れ吹っ飛ばす。
「美羽羅ちゃん!沙紀絵ちゃん!」
司が叫ぶ。司の後のビルのフェンスにぶつかる彩音と沙紀絵。
「こいつ……」
司も光の剣を生成、大吾に挑もうとする。
「させません」
気がつくと既に目の前には大吾がいた。反応する隙すらない。
「うわっ」
蹴りを入られ他の二人同様ビルのフェンスにぶつかる司。
「ハァッ」
大吾は背中に生えた翼を広げバタバタと羽ばたかせる。ヒュオォォォ、ヒュオォォォ、羽がバッサバッサとし司達を襲いビルのフェンスに押し付ける。
「また風……」
司が美羽羅に模擬戦で受けた攻撃を思い出す。
「またとか言わないでよ、まるであたしがこれ起こしてるみたいじゃない」
美羽羅が司の言いがかりに抗議する。
「まあまあいいじゃない、本当のことなんだし」
彩音が場を和まそうとしてるが明らかに美羽羅を煽っている。
「だからー、違うって言ってるでしょ!」
「おや、仲間割れですか」
大吾が呆れる。
「あ、同じ風なら美羽羅ちゃんの風で押し返せるんじゃない?」
大吾は無視し司が提案する、風がなかったら指を立ててるところだ。
「いやそれならあなただってこの間あたしの風押し返してたじゃない?」
美羽羅が言い返す。
「あ、魔法天使モードじゃないから無理」
キッパリ言う司。
「おい!」
思わず叫ぶ美羽羅。
「なんか司くんには無理みたいだから美羽羅ちゃんお願いね」
彩音が笑顔で美羽羅に現状の打開する役目を押し付ける。
「はあ、やればいいんでしょやれば」
美羽羅はいやいやながらも手をかざし手の平に魔力を溜め竜巻を発生させる。美羽羅の起こした風は大吾のものと拮抗していたが次第に美羽羅のものが押す形になり大吾を巻き込む。
「うわぁぁぁ」
竜巻の中でぐるぐると回り悲鳴を上げる大吾。
「踊り狂え!」
美羽羅は竜巻を右へ左へ操作して大吾を振り回した後ビルの屋上に叩きつける。
「うっひゃー、こりゃかなり飛んだねー」
司が歓声を上げる。
「ちょっと飛ばし過ぎたかしら」
美羽羅が言う。大吾は美羽羅の起こした風により彼女達のいる場からかなりの距離が離れてしまった。
「早く追いかけないと逃げられちゃわない?」
「それもそうね」
「行こう!」
彩音の一言で大吾の元へ向かう一同。
「ぐ……」
司達が近づいて来たのに気づいた大吾はよろよろと立ち上がり頭部部分にある鳥の頭にある嘴部分から高音による奇怪音を発生させる。
「なに……これ……」
「頭が……いたい……」
「ちょっとあなた……なにをしたの……」
奇怪音に苦しみ出す司達。その内に大吾は背中の翼を使い飛び立ってしまう。
「待て!」
司も空を飛び追おうとするが地上に逃げられたのか見失ってしまう。
その時、美羽羅の魔導システムのデバイスから着信音が鳴る。新型になり携帯電話の形状になったので通信も可能になっている。
「はい、もしもし」
電話に出る形で通信を取る美羽羅。
『あーお二人さん?魔獣だか魔法使いに逃げられたみたいだけどとりあえず彩音連れてオフィスに戻ってくれる?対策とか反省会とかしなきゃなんないし』
組織のレーダーで大吾の魔力反応を感知していた佳代子が司と美羽羅に命令する。
「あ、はい、分かりました。今から向かいます」
「別に断る理由もないしあたしも今回はそっちに従うわ」
命令を聞き通信を切りデバイスを畳む司と美羽羅。
「電話誰から?」
彩音が聞く、形状が電話なので通信の向こう側が電話の類ではないとしても傍から見ると電話をしているようにしか見えない。加えて旧型の魔導システムを使う彩音は魔法使いの姿での通信は出来ないのだ。
「本部から、さっきのやつの対策と反省会やるから来いってさ」
美羽羅が告げる。
「それってもしかして沙紀絵ちゃんも来る?」
「あ……」
「知り合いがしかも聞いた話じゃ小さい頃からいっしょにいた人が悪の魔法使いやってるてことになるよね今回」
彩音の言葉で事態の重要性に気づく司と美羽羅。
「もしかしてそれに気づいてあたし達でやろうって話になったの?」
「別にその時は相手の正体に気づいてなかったからそこまでは考えてなかったかな」
「あ、そう。でも大丈夫でしょ、あたしも美羽羅の前で李梨花のこと撃ったし彩音もお母さんが向こう側にいるし今さら知り合いが敵になったって何の問題はないわよ」
彩音があっけんからんとする。
「妹の知り合いと敵対以前に家出してた人に言われても……」
彩音は納得出来ない。
「まあとりあえず行ってみようよ、沙紀絵ちゃんがいなければ大丈夫だしいたらいたで僕らで励まそうよ」
司も至って能天気に言う。
「はあ、大丈夫かな本当に……」
彩音は不安になってきた。




