三十四話 模擬戦、魔法天使アマツ対魔法使いハヤテ!
「始め!」
ルシフェルの声で模擬戦が始まる。
「ハッ」
司が双剣を振りビームの斬撃を飛ばし美羽羅がそれを身体を回転させながら避ける。
「ハァッ」
その勢いで振り向きざまにボウガンの弾丸を発射、司に飛ばす。
「ぐうっ」
弾丸を受けパシュンパシューンという音がし司が怯む。
「貰った!」
一瞬の隙を逃さずさらにボウガンを発射する美羽羅。司は急いで体勢を立て直し双剣で防御する。
美羽羅は相手の死角から狙い撃ちすべく斜めに移動しながら撃つ。司も美羽羅に合わせ反対方向へ移動しかわす。
ボウガンの攻撃が止んだところでジグザグ移動、接近戦を仕掛ける。美羽羅はその間にボウガンのグリップ部分を回転させる、ボウガンの砲身部分から魔力で生成された剣が出現する。 美羽羅と司が肉薄、剣と剣がぶつかる。
「もしかして司、手加減してる?」
剣での押し合いをしながら美羽羅が言う。
「なんでそう思うんだい?」
「だってあんたは元々天使なのにその上に魔法使いの力を乗せたらあのテンザってやつと同じ魔法天使ってことじゃない。てことは魔法使いなだけのあたしと比べてあんたのが格段に上じゃないかしら?」
美羽羅が狙い澄ましたように言う。
「そ、それは……」
そう言うと司は気まずそうに顔を逸らす。
「ふーん」
司の反応を見た瞬間美羽羅の顔が格好のいい獲物を見つけたようにニヤーッとする。
「風よ!」
「うわっ」
美羽羅が叫ぶと剣を中心に緑の魔力を帯びた風が発生、司が吹っ飛ぶ。
「吹き荒れろ!風塵の舞!」
さらに風は竜巻となり司を壁際まで押し付ける。
「ぐ、ぎぎぎ、動けないよこれ」
「まったく司も情けないわねぇ、衣装がヒラヒラしてたぐらいで戦えなくなるなんて」
美羽羅が竜巻での攻撃を続けながら司を嘲笑する。
「う……」
自分の心を読まれ何も言い返せなくなる司。
「あいつ、この間まで水鉄砲飛ばしてたのに今度は風吹かしてるとか魔導システムて便利ね」
李梨花が美羽羅の技を見て言う。
「別に他の魔法も使えなくはないが魔導システムの個体差により使える技が異なるのさ。前のと同じにしても良かったんだけど彼女はイズミと属性が被るやつはもう飽きたらしくてね」
ルシフェルが解説する。
「そもそもあれ紗栄子さんが向こうの組織に頼んでイズミに似たのようなの持って来たらしいですからね」
「その辺の事情はよく分からんが属性や武器が違う方が作る方としては面白いからいいんだがね」
興味ないという感じのルシフェル。
「てかあれ一方的だけど大丈夫です?魔法天使の方欠陥品なんじゃないですか?」
彩音が想像していたのとは違う状況に心配になる。
「そんなことはないぞ、データ上ではアマツの方が上だ 」
ルシフェルが言い切る。
「データと実戦は違いますよ 」
彩音がガラスの向こうで美羽羅に押されてる司を指す。
「大丈夫、そろそろデータ通りになるから」
目の前でデータに反する状況が起きながらも自信に溢れたルシフェルの言葉。
そこへ美羽羅に押される司をイライラしていた沙紀絵が見かねて演習室へ声が通るマイクを掴み叫ぶ。
「うぅぅ……。おい司!なに情ねえサマ見せてんだ!しっかりしろよ!」
「え、なになに?」
「ちょ、いきなりどうしたのよ沙紀絵」
「司さんの応援とかしちゃってどうしたんでしょう 」
沙紀絵の思わぬ行動に混乱する演習室。
「可愛い可愛い衣装を着た司くんがやられるのが耐えられないんだって」
彩音が沙紀絵の心情を察して説明する。
「こいつって普段ラフな格好したり乱暴な言葉使いなのにたまに乙女よね」
李梨花が沙紀絵の人間性に関心を示す。
『おい人間、身体を貸せ』
司の頭に声が響く、アマツカだ。
「え、なんで?」
『このまま負けっぱなしでは気に食わん、というかやつにだけは負けたくない』
今のアマツカは妙に強気だ。
「はあ……、まあいいけど」
司の言葉と共に人格が交替、アマツカとなる。
「ハァァァ……」
意識を集中し双剣に力を貯める。
「ぬん!」
烈迫と共に双剣を振るいビームの斬撃を飛ばす。斬撃はアマツカの目の前で吹き荒れていた風を瞬く間に消失させ美羽羅へと向かう。
「うそ、風が!」
美羽羅が放っていた風が破られたの束の間、斬撃が直撃してしまう。地べたに転がる美羽羅。
「いっつー、なんなのよもう……」
痛みに耐え立ち上がろうとする美羽羅。だがアマツカの動きのが早かった。
「え……?」
美羽羅は一瞬何が起きたのか分からなかった。アマツカが高速で移動し体当たりで浮かしたのだ。さらに空中に浮いた美羽羅を高速で移動しながら斬りつけていく。
攻撃が終わると勢いよく落下する美羽羅。
「痛い、身体中がズキズキして痛い……」
出血はないが痛みは発生しているのであまり攻撃を受けるとかなりの苦痛だ。
美羽羅の首元に剣を突きつけるアマツカ。
「私の勝ちだな、あいつに勝ててもお前が私に勝つことなど到底ないと思え」
それを見て美羽羅は察する。
「ああ、そういうこと」
魔王院ありさと戦った時同様髪と目の色がアマツカのものになっていた。どうやら司は女性らしい衣装を恥ずかしがってもアマツカはあまり気にしないようだ。
「そこまで!」
ルシフェルの声が響く。
「やはりアマツは強かったな、流石は魔法天使」
ルシフェルが悦に入ったように言う。
「てかこれ初めからこうなるて分かってたんならやる必要なかったんじゃ。性能違うし」
李梨花が突っ込む。
「自分の目の前で格下の性能のものを格上が圧倒するとか実際に見てみたかったからいいだろ」
「どんな趣味ですか」
彩音が辟易する。
「わぁぁぁ……」
沙紀絵が目を輝かせアマツカを見る。
「どうしたのよ?」
「すっげー!やっぱあの衣装すげえ!可愛いのは伊達じゃなかったんだ!」
アマツカではなくアマツカの衣装を見ていた沙紀絵。
「駄目だこいつ、意味分かんない……」
李梨花はもはや沙紀絵にどう接したらいいのか分からない状態になっている。
「そんなことよりアマツカ、今度はわたし達にやらせてよ。四人がかりで行くから」
彩音がガラス越しに演習室に話しかける。いくら魔法使いより強い魔法天使とはいえ複数の人数でかかれば勝てるのではという寸断だ。
「こらこら、駄目じゃないかちゃんと順番があるんだから」
ルシフェルに止められてしまった。
「じゃあどうするんです?」
「美海、今こそスメラギに秘められた力を使う時だ」
今度は美海に話しかけるルシフェル。
「へ、わたしですか?」
予期せぬ指名に驚く美海。
「そうだ、スメラギには対象の体力や傷を癒す力がある。それを使うのさ」
「でも、どうやって……」
「杖を持ちながら対象に向ければいい、あとは杖が勝手にやってくれる」
「えっと、こうですか?」
美海が真ん中に大型の石が周囲に小型の石がちりめばめられた円形パーツが先端についたワンドを美羽羅とアマツカに向ける。
「すごい、痛みが引いてく……」
「ふむ、今の私には強すぎるな。力が有り余る」
二人の体力が回復していく。
「へー、これが例の後方支援てやつね」
「結構便利そうだね」
「そういうのいいから攻撃しようぜ」
美海の力に感心する李梨花と彩音と反対に興味のなさそうな沙紀絵の反応。
それから様々な組み合わせの模擬戦や技の実験がされていった。




