三十三話 魔法使い、新しい衣装を着る
ウィザードマテリアルの屋内演習室、ここでは新たな魔導システムの使用実験が行われていた。ここには海浦美羽羅、美海の姉妹、天城司の三名が集まっていた。
「一応人体に影響がないように作ってるが何か異変を感じたらすぐに言ってくれ 」
技術部の魔導システム特別顧問であるルシフェル・エルナンテが演習室のすぐ隣、ガラスで区切られた管制室からマイク越しに話しかける。
『はい! 』
演習室から若い男女の声が響く。
「それでは始めてくれ」
『魔導システム、起動!』
三人は旧式の携帯電話ような形状をした機械を所持していた。司は白、美羽羅は緑、李梨花はピンクとそれぞれ個人によりカラーリングが異なる。
三人が声と共に機械を操作すると身体が光に包まれる。
司の魔導衣装アマツは一見いつもの天使衣装に見えるがリボンが付属され、肩部分が折り目の重なったフレア状に、腰部分からもフレアスカートのように折り目が重なり腕まで覆う手袋、ズボンの下を覆うブーツにもリボンが付属している。色はうっすらと黒が入った白をメインにリボンは黄色となっている。髪も伸びセミロングになっている。羽や頭の輪も顕在だ。
美羽羅のハヤテ衣装は縁取りや石で装飾されたスカート、襟を広げたボタンの上を開けた白いシャツの上に大型のリボン、腰より上の位置に丈のあるラインが走る半袖ジャケット、厚手の手袋を纏っている。スカートとジャケットの色は緑で赤の縁取りやライン、石は青となっている。背中をくすぐる程度のポニーテールをライトグリーンの羽飾りの着いたリングが結んでいる。
李梨花のスメラギは全体的にピンク色の衣装を纏っている。肩や胸元、裾や手袋などが三角形が連なったような形状になり黄色の縁取りが施されている。頭の横についたツインテールも三角形が連なったヘアゴムで結ばれている。
三人とも腰のホルスターに魔導システムのデバイスが収納される形となっている。
「衣装の着心地はどうだ?」
「あの……、これどう見ても女子用ですよね。一応下ズボンですけどどう見ても女の子の服ですよね」
司が自分の衣装についての感想を言う。
「あはは、何よそれ司ー!笑えるんだけどー!」
ルシフェルと共にガラス越しから演習室を見ていた李梨花が司を見て笑う。
「なにこれ可愛いんだけど」
彩音も司に注目する。
「似合ってるじゃないか」
ルシフェルがガラス越しに顔をニヤニヤとさせる。
「あの、そういう問題ではなく……こんな風になるて打ち合わせの時言いましたっけ。これじゃあ恥ずかしくて戦いづらいんですが」
司が顔を赤くしながらリボンや裾のヒラヒラした部分を触る。新型魔導システムは性能についてはルシフェルにある程度希望を伝えたが衣装についてはこのような女性用に近い形状にしろとは頼んでいない。
「前の服だって随分とヒラヒラしてただろう。大して変わりはせんよ」
「あれはリボンもないしちょっと上に着るやつが長かっただけだから平気なんです。リボンとかついたら完全に女の子の衣装になっちゃいますよ」
司がリボンを指で触れ強調させながら言う。
『全く、細かいことを気にする男は女子にモテないよ』
ルシフェルは聞く耳持たない。
「はあ……、もういいですよ。これでやります」
「司、ドンマイ」
美羽羅が司の肩に手をおく。
「わたしはこういう司さんもいいと思いますよ」
励ますような美海の声。
「やめてそういうの、泣いちゃうから」
こういう時は同情されるのが一番心に響くのだ。
「それに比べ、美羽羅ちゃんの方は動きやすそうでいいよね」
司が美羽羅を見る。
「紗栄子さんから貰った青いのもいいんだけどこっちのやつと規格違うみたいだからパワーアップするなら一から作り直すって言われちゃって。どうせならイズミと違う感じにしようかなて」
美羽羅がジャケットをバタバタさせながら言う。
「あれ、イズミの方はいいんですか?」
「あれはいいよ。李梨花も李梨花で結構使いこなせてるし一度負けちゃったから今更返せてのも気が引けるのよね」
美羽羅が手の平を肩の高さで上に向ける。
「お姉様、あの……」
美海が美羽羅をキラキラした眼差しで見つめる。
「あーはいはい、似合ってるわよ」
「ぶー、ちゃんと見て下さいよー」
美羽羅が適当に答えると美海が拗ねたようになる。
「て言われてもねえ、あんたのは普通としか言いようがないのよ。しいて言うなら魔法使いていうか白魔導師?ピンクだけど」
美羽羅が言葉に困ったように返す。
「白魔導師?」
「ゲームとかにいて光の力で悪い力を浄化する魔法使いてところかしら」
「わかりません」
「ちょっと、どういう意味よ」
「まあまあいいじゃない、可愛いんだし」
司が美羽羅をなだめる。
「なあ、あの服あたしが着ていいか?」
管制室側にいた沙紀絵も司の姿を気になっていた。
「君にはいつものゴスロリがあるだろう、それじゃ駄目なのか?」
ルシフェルが後にいる沙紀絵に合わせマイクから口を離し椅子を回転させる。
「あれはちょっと派手過ぎなんだよ。司のはなんかちょうどいいヒラヒラていうか可愛いっていうか……」
恥ずかしそうに顔を横に向けながら話す沙紀絵。
「たまに君は可愛いね。よし、じゃあまだ君達の新型は出来てないし今の内に見た目いじっちゃおうか」
「ていうかあたし達の新型はいつ出来るんですか。あいつらだけ先とかずるいですよ」
「そうそう、わたし達のも作って下さいよ」
李梨花と彩音が不満を訴える。
「君らのは司くん達と違ってゼロベースじゃないから疲れるんだよ、従来型のデータ集めや改良もしなきゃなんないし」
ルシフェルの方も開発者としての悩みを吐露する。
「そんなんいらないだろ別に」
沙紀絵がルシフェルの苦労など我知らずという感じで言う。
「駄目だね、ちゃんとデータ集めしないと強くならないよ」
ルシフェルがピシャリと言う。
「そうなのか」
「そうだよ」
「バイタル各所異常なしと、流石私だな」
モニターで司達の体調をチェックしながら自画自賛するルシフェル。
「次は模擬戦と行こうか。まず美羽羅のハヤテと司のアマツからだ」
「じゃあ始めようか美羽羅ちゃん。悪いけど美海ちゃんは下がっててくれないかな 」
司が演習室の端に移動する。
「はい、頑張ってください司さん! 」
「ちょっとあたしはー?」
司の反対側に移動した美羽羅が不平を言う。
「お姉様はさっきわたしの衣装褒めてくれなかったからいいです」
「いい趣味してるわねあんた 」
司と美羽羅が手をかざし、武装が出現する。司はグリップの上に球体の青い石が埋め込まれた金の刃の双剣を、美羽羅は砲身の横に中が空洞になった二等辺三角形の金属製のウイングのついたボウガンを所持している。
魔導システムの武装はデバイス内に魔力に変換して圧縮、収納されているが戦闘時には使用者の意思により取り出すことが可能である。
「準備はいいかい二人共」
「こっちはいつでもいいわよ」
ボウガンを構える美羽羅。
「同じく」
司も双剣を構える。




