三十二話 天使製のライフルには女王すらひれ伏す
「お前達、今度こそ頼むぞ」
『おうっ!』
アマツカの言葉と共に周囲に散る仲間達。
「あなた一人?他の人は?逃げるの?」
一人残ったアマツカを不思議がるありさ。
「ああ逃げた、お前など私一人で充分だからな」
アマツカは一人残りエネルギーの剣を両手から形成、白い翼を羽ばたかせありさに接近戦を仕掛ける。
アマツカの剣がありさの大型の硬い腕がぶつかり火花が出る。人間の腕ならアマツカの剣を受ければたちまち出血し切断されるがありさの腕は人間のそれとは大きくサイズも硬度も異なる特別製であるためアマツカの剣も容易に受けれる。
「魔王院ありさ!お前はこのアマツカと天城司が殺す!命に変えてもな!」
アマツカが叫ぶ。
「わたしを殺す?無理、だってあなた前わたしに負けたもの」
ありさはアマツカの叫びなどものともしない。
「私は、な」
アマツカが意味深な言葉を言うがありさはそれが何なのか分からず首を傾げるのみだ。
アマツカはありさに蹴りを入れ距離を取ると叫ぶ。
「今だ、行け!」
アマツカが叫ぶとありさ目掛け三方向から弾丸が飛ぶ。右からの弾丸は惜しくも外れ、左からの弾丸は無造作に下がっていた腕に当たり背後から背中にそれぞれ弾丸を受ける。ありさは咄嗟のことの上複数の方向から来る攻撃を避けることが出来なかった。
「なに……これ ……、痛い……、力が……抜ける……」
ありさが苦悶の表情を浮かべながらうめく。
「やっぜ!」
ありさの右側から弾丸を撃った人物、沙紀絵が叫ぶ。出撃前に司がアリエルが受け取ったライフルと弾丸をアマツカは作戦に取り入れたのだ。今回撃ったのは対象の魔力を抑制する対魔獣、魔法使い用スタンバレットだ。
『お前じゃないがな、お前の弾丸は外れてるぞ』
アマツカが沙紀絵の頭に直接語りかける。沙紀絵の撃った弾丸はありさの右から撃ち外れたものである。
「うわっ、なんだよ急に話しかけんなよー。びっくりするだろー」
沙紀絵が抗議する。
『さっきも言っただろう、天使や悪魔はテレパシーが使えるから作戦中にもやると』
「でもびっくりしたー 」
沙紀絵の顔がムスッとしたものになる。
『すまん……』
沙紀絵の拗ねたような声にアマツカも思わず謝ってしまう。
『ぷすーっ、天使のくせに殊勝になってるしー、おっかしー』
今度はアマツカの頭に彩音の声が響く。こちらはありさの左から撃っていた。
「おい悪魔、なんてものを中継してる。私を馬鹿にしてるのか」
以前共に戦った魔法使いである美羽羅はテレパシーで誰かに話しかけたというような事はアマツカの記憶ではない。他の魔法使い達も同様だ、ではあれば悪魔のフヨウが他の人間の思考をテレパシーで繋いでいると考えられる。
『え、中継?なにそれ?わたし一人でテレパシー?やってるけど』
彩音が答える。
「お前テレパシー使えたのか、知らなかった。というか使えるならなぜさっき言わなかった」
自分の知識に反し魔法使いがテレパシーを使えた驚きと彩音が作戦に使える自分の能力を言わなかったことへの怒りがないまぜになるアマツカ。
『てへぺろ。で、弾どうなった?当たってる?』
おふざけも早々にありさの状況を聞く彩音。狙撃を感知されないようにするため弾丸は全てかなり遠くから撃っているため肉眼で対象の状況を確認するのは難しい。
『こちら李梨花!弾丸は命中した模様、そっちはどうなってる?』
フヨウのテレパシーを伝い李梨花からの報告が入る。李梨花は背中から狙撃していた。
「二発ほど当たったが貫通には至らず尻尾が飛び出てる状態だがその尻尾から魔力の渦が出ている。恐らくやつの内部の魔力が流出していると言ったところか」
アマツカが分析する。
「うう……うあぁぁぁ……」
ありさは背中から仰け反り悲鳴を上げる。その間も身体に刺さった弾丸から紫の瘴気のような形をした魔力が流出する。
「効き目は充分ね、今よ美羽羅!」
ライフルのスコープ越しにありさを見ていた李梨花が叫ぶ。
「任せなさい!」
美羽羅が李梨花の横から飛行しありさに接近する。こちらの弾丸は他のものと違い飛距離が伸びないためだ。弾丸の射程距離に入ったところで停止、ありさがスタンバレットの効果で動けない内に弾丸を発射する。
弾丸は発射された途中からネットを射出、ありさを包み込む。ネットは収縮しありさの身体を畳むように拘束している。ありさはスタンバレットとネット、二重に動きを封じられた。最初からネットを使わなかったのはネットだけではありさの怪力でネットを破壊される恐れがあったためだ。
「ぐう……取れない、なに……これ………、苦しい……」
ありさがスタンバレットからの魔力流出と絡まったネットという二重苦を味わう。ありさにとって魔力というのは魔獣同様自身の活動に必要不可欠なものである、それを失えば肉体に支障をきたすとこは間違いない。
「私もこのに来る前受けたがそのネット中からだと足掻けば足掻くほど絡まって苦しかったよ。なんにせよ、もう一押しだな」
アマツカがライフルを受け取る際アリエルにネットで拘束されたことを思い出す。
「トドメはわたしね」
司の上空に待機していたフヨウがライフルを構える。フヨウの分のライフルはアリエルから受け取っていないためアマツカの分を持たせている。こちらは元々威力が高いが使用者の魔力やエネルギーによってさらに威力が上昇する殲滅用のスティンガーバレットである。
「うわぁぁぁぁぁ!」
ありさは叫ぶと身体から魔力が一気に放出し特殊ネットを破壊する。
「そんなっ 」
ネットが破壊されたことで弾丸を発射するのを躊躇うフヨウ。
「構うな!撃て!」
アマツカの激励。
「う、うん。ターゲット、ロック……。行っけぇぇぇ!」
狙いを定め弾丸を発射するフヨウ。
「ガハッ」
弾丸は見事直撃、ありさはあまりのダメージに血を吐いた後気を失い地面に落下する。アマツカはありさを逃がすまいと追いかける。
「誰だ!」
しかし何者かが横から現れありさを攫っていく。
「全く酷いことをしてくれたものです 」
ありさを抱きかかえた人物がアマツカの方を向く。
「お前は……」
アマツカがその人物を見る。
その人物は白い鎧に白い硬質衣服に青白い羽、光の輪を頭に浮かせている。アンダーウィザーズの首領側近にして魔法使いでありながら天使の特性を持つ存在、魔法天使テンザである。
「女王殿はつい先日覚醒したばかりで不完全だというのにこのような仕打ちをするとは。いささか手をつけるのが早すぎますよアマツカ殿」
テンザが目を伏せ悲しみを誘うかのように言う。
「ほう、やつは不完全だったのか。しかし、不完全ならそれこそそいつを倒す絶好の機会だったというのによくもまあ無粋な真似をしてくれたものだ」
「それはお互い様というものです」
ありさを抱えその場を立ち去ろうとするテンザ。
「待て、そいつをどうするつもりだ」
アマツカはテンザを呼び止める。
「勿論調整ですよ、スペックにおいても人格においてもまだ不完全ですから」
「自我を奪ってでもか」
テンザがありさが不完全なことを人格においてもと言っているということはやはり人格についても調整で操作していたということになるのだろうか。
「何を言ってるんです?当然でしょう、女王は我々にとってはただの兵器に過ぎませんから」
「そうか、なら私達はそのような行いは許せない。いずれそいつごとお前達組織を破壊する、覚えておけ 」
アマツカが私達と言ったが実質ありさを仇とする司を指していた。
「覚えておきましょう、出来ればの話ですが」
空を飛びその場を立ち去るテンザ。
「逃げられたわね」
「でもいいんじゃない、一応勝ったし」
「大勝利ー」
「ま、わたし達にかかればこんなもんよ」
「まずいわね、榊て人に大見得切ったのにあいつ逃がしちゃったわー。あたしかっこわるっ」
アマツカの元に近づく仲間達。ありさを追い詰めたことに歓喜する者がほとんどの中美羽羅一人気まずいオーラを醸し出している。
「気にするな、私もいっしょに謝ってやる」
アマツカが美羽羅の肩に手をおく。
「アマツカ……ありがとう……」
「さてと、わたしもそろそろ屋敷に戻らないとね。さっきの人に顔見られたかもだけど一応ありさ付きメイドだしありさが帰って来たら出来る限り面倒見ないと」
フヨウが言う。
「いいのか?敵だぞ、そんな奴の面倒なんて見なくていいんじゃないか」
アマツカが返す。
「前はともかく今のわたしは雨宮恵子でもあるし、彼女が意識を取り戻したら雨宮恵子として降るわ舞わないといけないしね」
「マメだなお前も。せいぜいメイドとして上手くやれよ」
激励の言葉を送るアマツカ。
「ありがとう。じゃあ、もうわたし行くから」
空を飛び去るフヨウ。
この話は一旦終わり、次から新しいの行きます




