三十話 司御一行、女王とのご対面
「うっ、ああっ……」
ありさを追う魔法使いと司達、その途中突然彩音が身体を抱きかかえ震え出す。
「彩音! 」
沙紀絵が彩音に駆け寄る。
「はぁ、はぁ……」
「おいどうした彩音?!しっかりしろ!」
沙紀絵が彩音の肩に手をおく。
「いったいどうしたのよ?」
何がなんだか分からないという感じの李梨花。
「この感じ、もしかして……」
対して覚えがある司。
「そうだ、わたしと記憶を共有している今ならお前なら分かるだろう」
「アマツカ!どういうことよそれ」
李梨花が司の横を見ると今の司と同じ格好をしたアマツカが半透明な状態でいた。今の司は天使の姿をしているがアマツカが完全に覚醒した今でも司の意志で天使の姿で行動することも可能だ。
「説明するまでもない、あれを見ろ」
アマツカが指した先には脂汗を全身に垂らしながら空に浮いている美羽羅がいた。
「あ、見られちゃった……」
気まずそうに言う美羽羅。
「もしかして昔こいつといっしょにいた時もこんな感じだったの?」
「初めて魔王院ありさに近づいた時からああだからな、やつが出た時はあの娘は戦力として使えなかったよ」
「悪かったわね使えなくて」
悪態をつく美羽羅。
「ちょっと待って、二人がこんな状態なのに魔王院ありさとまともに戦えんの?」
「あ……」
李梨花の言葉に司もはっとする。
「そうだ、この状態の彩音連れてくとか危険だ。一端戻ろうぜ」
沙紀絵が提案する。
「大丈夫だよ沙紀絵ちゃん。わたし、やれるから、ちょっと辛いけど何とかなるよ」
彩音が沙紀絵に心配をかけまいとする。
「ま、所詮やつの膨大な魔力を他より敏感に感じて結果恐怖心のように身体に伝わってるだけだからな。戦闘自体は可能だ。だがやつに近づいて恐いなどと言い出したら即刻帰ってもらうぞ」
アマツカが忠告を交え言う。
「ふん、昔のように地べたにへたりこむとかしないわ」
と美羽羅。
「任せて!この間なんて悪い魔法使い達に死神なんて言われてたんだから!」
と彩音。
ー ー ー ー ー ー ー
「ん、今何かいた?」
「あ……」
再びありさを追いいくらか進んだ魔法使いと司達、しかし僅か上空で何かとすれ違うが一瞬何か分からず少し間があってから空中で停止する。
相手もこちらに気づいたようだが猛スピードで通り過ぎてしまう。その相手は地面に平行にしていた身体を垂直にしバサッと翼を前には羽ばたかせ減速しゆっくり停止する。
「あのさ、今なにか通り過ぎなかった? 」
司が仲間聞く。
「通り過ぎてったわね」
と李梨花。
「何かいたね」
と彩音。
「なんか羽根がブワァーッて生えてたぞ 」
と沙紀絵。
「あと手脚が大きかったわね」
と美羽羅。
「いや、何かいたか確認したり見た目の話するより言うことがあるでしょ! 」
曖昧な受け答えしかしない仲間に司が怒り出す。
「て、言われてもねえ……ねえ?」
「う、うん」
「そうだな……」
「まあ、そうね……」
煮えきらない仲間達。司達は先ほどから背後に凄まじい魔力を全身に感じているのだが恐れからか司の仲間達はその感覚を隠している。司は決心し彼女達に背後を向かせようとする。
「じゃあいっせーので後ろ向くよ、いい?」
司の呼びかけ。
「ええ……」
「いやちょっと……」
まだ躊躇う沙紀絵と李梨花。
「わたし恐い……」
「帰っていい?」
美羽羅と彩音に関してはここを離れるつもりまである。
「今さらここに来てそんなこと言わないでよ!ほら、後ろ向くだけだから! 」
『はーい』
司の説得になんとか納得する魔法使い達。
「いくよ、いっせーの!」
司の号令で恐る恐る後ろを向く魔法使い。そこにはしっかり怪物の姿をした魔王院ありさの姿があった。
「出やがったわ、怪物女」
思い出したくないと言わんばかりの美羽羅。
「これが……すごい共振の犯人……」
と彩音。
「よく見たら顔は普通の女の子だな」
敢えて怪物の身体の部分には触れない沙紀絵。
「ああ、これが本物の魔王院ありさ。資料で見たまんまね 」
なんとか平静を保つ李梨花。
「というわけで久しぶり、ありさちゃん」
司が代表して挨拶する。
「ねえ、天使さん。顔変えた?整形?」
司は魔法使いや魔獣の発する魔力とは違い神通力という神聖な力を有するため、魔法使いではそれを感知出来ない。しかしありさのような特殊な存在はそれを感じることも出来るのだ。
だが以前ありさがアマツカから感じていた力を発する存在が別の顔になっているので混乱してしまっている。
「そうそう、前の顔じゃ学校でモテなくてさあ、ってちがーう!整形とかしてないから!確かに顔は君が見た時と違うけどさあ……」
ノリツッコミを挟みつつありさに抗議する司。
「じゃあなに?」
「こういうことだ」
司の身体から半透明の天使が現れる、アマツカだ。
「幽霊………、もしかして亡霊になってもわたしに復讐する気?」
「そうではない、あの時お前に負け傷ついた身体を癒すために人間と融合しただけで死んだわけではない」
アマツカが事情を話し出す。
「やっぱり死んでる」
「何?」
「だって身体の顔がもう別の人、だからあなたはもう死んでる」
ありさが淡々と告げる。
「わたしが?死んでる?ははは、ははははははははは!ククク、構わんよそれでも。わたしはこうしてこの世界に君臨している、それで充分さ」
アマツカは自らが死んでると言われタガが切れたように笑うが死んでるという事実はあまり気にしていない様子だ。
「変な人、まあいいや」
ありさは李梨花の方へ顔の向きを変える。
「魔法使いさん、やっぱり顔変えた?整形なの?」
「人違いよ、多分あんたの知り合いは多分あっち」
美羽羅の方を指さす李梨花。以前美羽羅が着ていた衣装を纏っていたせいか李梨花と美羽羅を勘違いしてしまうありさである。
「あ、本当だ。気配が同じ。じゃあ服変えた?」
今度はちゃんと美羽羅の方を向くありさ。
「色々あってね、あっちはあいつにお下がりて感じかしら」
美羽羅が答える。
「つまり中古品」
「中古のデバイス…………、昔から使われてるものなのに短期間で使い手変わったせいで中古とか……ぷくく、あはははははは!面白い面白い面白い!あなた面白いこと言うわね」
美羽羅は腹を抱えて笑いだす。
「おいこらそこ!人のことを中古の女みたいに言うなー!あたしがみすぼらしくなるでしょう!」
李梨花が抗議する。
「えー、だって本当だしー 」
美羽羅が李梨花に流し目をやる。
「ぐ……」
「面白い人。じゃあそっちの二人は?服も顔も初めて見た」
今度は沙紀絵と彩音を指さすありさ。
「あ、あたしらは最近魔法使いを初めてばかりでなぁ、名乗る必要もないが魔導システムの名前でホムラとでも呼んでくれ」
急に指名され一瞬戸惑い不器用に答える沙紀絵。
「じゃ、じゃあわたしはヨミで」
彩音も沙紀絵に倣うかのように名乗る。
「ホムラに、ヨミ。うん、覚えた」
沙紀絵と彩音を順に指しながら名前を確認するありさは最後に二人に笑いかける。
「なあ彩音、こいつちょっと可愛くね?」
ありさの笑顔を見た沙紀絵が彩音に小声で言う。
「いででで!なにすんだよ」
彩音に耳を詰まられ悲鳴を上げる沙紀絵。
「ねえ、沙紀絵ちゃん?最近君他の女の子にうつつ抜かし過ぎじゃない?」
彩音が目に怪しげな光を灯しながら言う。
「べ、別にそんなんじゃねよ!あたしの親友はお前だけだって!他のやつとか興味ねえから! 」
指を詰まれる痛みに耐えながら反論する沙紀絵。
「本当に?ならいいけど」
沙紀絵の耳から指を離す彩音。
沙紀絵は耳を触ってみるがまだジンジン痛む感覚がある。
『リア充死ね!』
そんな二人を見た他の仲間達に嫉妬の眼差しを受けてしまう。
『別にリア充じゃない!』
反論する彩音と沙紀絵。
「ていうかあたしもあなた達の昔馴染みなのにあたしだけ親友扱いじゃないてどういうことよ」
美羽羅が自分の扱いに不服を言う。
「いやだってお前は……なぁ?」
沙紀絵が気まずそうに彩音に振る。
「うん、御三家の繋がりで一応昔からよく会うけど美羽羅ちゃんはあまり人と話さないから…… 」
彩音も躊躇いがちに言う。
「ちっ、これだからリア充は」
彩音の答えが気に入らないのか舌打ちする美羽羅。
「分かるわ美羽羅、あたしも学校で苦労してるし」
美羽羅に同意する李梨花。
「うん、友達付き合いて大変だよね」
司もそれに賛同する。
「え、今のリア充関係なくね?」
仲間達からの反応に戸惑う沙紀絵。
「そういう自覚ないとこもリア充よねぇ、やっぱ死ね」
美羽羅からの蔑みはさらに悪化する。
「ひでえ」
「なんか気に入らないからあなた達から殺っていい?」
ありさが爪を上に向け沙紀絵と彩音に脅すように見せる。
「お前もかよ!なんで親友がいるだけで嫌な目で見られなきゃなんないんだよ」
「ねえ、沙紀絵ちゃん。目の前のこいつ倒したら美羽羅ちゃん達倒していい?」
彩音も鎌を構え臨戦態勢に入る。
「もうそれでよくね?あたし疲れてきた」
投げやり気味に沙紀絵が答える。
「逃げるなって言ったでしょーが、この怪物女ー!」
いよいよありさとの戦闘が始まるという時、背後から女性の叫ぶ声がした。
「誰?」
「また新手?」
突然の乱入者に戸惑う一同。
「ん、この声どっかで……」
司だけが心当たりを覚えた。
『え……?』
自分達の頭上を通り過ぎた新しい影に驚く一同。
「あ……」
ありさが声を漏らす。
ゴチーン!
大きな音と共にありさと新たに現れた人物とがぶつかる。
「い、いたい………」
額を抱え痛みに耐えるありさ。
「はぁ、はぁ、逃げんなっつったでしょ」
新たに現れた人物はバストを覆う布にミニスカート、コウモリ型の羽に角という出で立ちをしている女性だ。
「もしかして雨宮さん?」
司が女性を指さして言う。




