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魔導奏者りりかさん  作者: 兵郎
1章 魔法使い登場
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三話 やきとり



副総帥室に戻って来た李梨花と美海。李梨花がコンコンと扉を叩きを開ける。

「失礼しまー、あっ」

室内では何とビールを飲みつつ大根おろしを醤油に漬けて食べている三人の人間がいた。一人はビールというには色が薄く別の飲み物だが。

「ちょっと、昼間から何してるんですか。しかも仕事場合でビールなんて、はしたないです」

美海が慌てふためく。しかし言われた人間達は落ち着いている。川太郎が言う。

「いいじゃないかこれぐらい、今日の仕事は終わったんだし」

「いや、でも……」

佳代子が続く。

「全くこの子は真面目なんだからー、人間ほどよく気抜かないと駄目だぞ」

「まあそれはそうですが。……て、司さんまで何してるんですか?!ビールですよビール!お酒なんですよ、未成年がお酒とかいいんですか?!」

美海が司の飲んでいるものに気づく。

「あ、これジンジャーエール。麦じゃなくてしょうがの飲み物。ほら、雰囲気だけでもビールぽくしたいじゃない?」

「は、はあ……?」

美海は呆けた表情になりしばらく何も言えなかった。





「あのー、本当にこの辺りに父が気に入りそうなお土産があるんですか?」

美海が李梨花に言う。二人は組織のビルを出てビル街の中でも裏通りの辺りを歩いていた。美海が父に何かお土産を贈りたいと言い出したのだ。李梨花が目的の場所を知っているのかこの場所を移動している。

「確かこの辺だったような……」

若干不安気な李梨花の声。

「ちょっとー、大丈夫ですかー?」

すると二人に数人の男達が近づく。その中の一人が言う。

「そこの可愛いショウジョー、オレっちとデートしなーい?」

さらにもう一人が続く。

「おれたちぃ、いい店知ってるのよー」

美海が反応する。

「本当ですか!?是非ともご案内して下さいませんか?」

しかし李梨花に頭をぐいっと回され窘められる。

「目的忘れてんじゃないわよこの馬鹿!ていうかあたしが探してる店とかこいつらみたいなチャラそうなやつが見つけられるわけないの。あたしがちゃーんと探してあげるから我慢しなさいな」

一瞬鬼気迫る顔で言ってから優しく美海に言う李梨花。

「ご、ごめんなさい。というかさっきも聞いたんですけど大丈夫なんですか?」

思わず涙目になる美海。

「ふ、あたしに任せなさいって。さ、行きましょ」

そう言って美海の頭をポンポンと叩き美海とその場を立ち去ろうとする李梨花。

「てんめえっ、馬鹿にしてんのかっ!」

チャラそうなと言われた男達が襲いかかる。

「あ、やばっ」

美海の手を引き逃げる李梨花。

「ちょっと、李梨花さん?!」

思わず戸惑う美海。



「あちゃー、道間違えたわねこれは」

行き止まりに遭う李梨花。

「てめえ、さっきはよくもコケにしてくれたな」

先程の男達が追いつく。

「どうなるか分かってんだろうなぁ?」

男達が口々に叫ぶ。

「李梨花さんこの状況どうするんですか?ちょっと危ないんじゃないんですか」

慌てる美海。だが李梨花は冷静なままだ。

「ふっ、まあ大丈夫よ安心しなさい」

「余裕ぶってんじゃねえぞっ」

男の人が李梨花に殴りにかかる。

「ぐえっ」

しかし男の拳は李梨花に届かず男の身体が吹っ飛ぶ。そのまま倒れて動かなくなる。

「やべ、手が滑った。手じゃなくて足だけど」

李梨花が蹴りを男の腹に見舞ったのだ。

「てめえっ!」

「やりやがったなこいつ!」

他の男達も襲いかかる。しかし李梨花に拳や蹴りが当たることはない。

「ちょこまかすんじゃねえっ!」

「バーカ、あんたらが遅すぎんのよ!」

その間にも李梨花は男達に打撃を与え強めなのが当たる度その相手が吹っ飛ぶ。

「ひぅっ」

「う、動くんじゃねえ。こいつがどうなってもいいのか」

男の一人が美海に刃物を突きつける。

「いいか、動くんじゃねえぞ。動いたらこいつを殺すぞ」

男の声に美海が震える。怪物である魔獣と戦ったと言っても刃物を首に突きつけられれば無理はない。

「はあ、あんまり人間にこういうの使いたくないんだけど……」

そう言ってブレザーの内ポケットに閉まった対魔獣用の小銃に手を伸ばす。緊急に魔獣が出た際にも動けるよう最低限の装備である特殊小銃は普段から携行を義務づけられているのだ。

「あ……」

しかし何かに気づいたのか李梨花の手は途中で止まる。

「なんだぁ、今さら助けてくれなんて言うなよ?」

男の言葉は無視して先程気づいたものに目を向ける。そこには少女がいたのだ。いや、正確には近づいて来ている。何故こんな人気のない場所に人がしかも女性がいるのか。李梨花は自分達のことは忘れて戸惑う。

その少女は美海に刃物を突きつけている男に近づき殴り付ける。男が倒れその少女を見上げる

「て、てめえはっ……。おい、逃げるぞ。早くしろ!」

男は少女の顔を見た途端仲間を連れ逃げ出す。

「たくっ、こんな小さい子に手上げるとか何考えてんだあいつらは……」

呟く少女に美海が話かける。

「あの、ありがとうございます!わたし、あの人のせいで変な人に絡まれて、でもおかげで助かりました。本当にありがとうございます」

そう言って李梨花を指指す。

「ちょっと待て、それじゃあたしが悪いみたいじゃない!誤解だからそれ。別にあたしのせいでこんなことになったわけじゃないから!」

後半は美海を助けた少女に言いつつ李梨花は弁明する。

「いや、あんたが変に煽ったせいだろ」

「見てたの?!」

李梨花はバツの悪そうな顔になる。少女が続ける。

「でなきゃこんな行き止まりみたいなところまで来ないって」

李梨花はため息をつく。

「悪かったわよ、今回はあたしが悪い」

「分かればいいんだよ分かれば。この辺りは変なやつが多いから気をつけろよ」

そう言って少女は立ち去ろうするが李梨花は呼び止める。

「あ、助けて貰ったついでに教えて欲しいんだけどこの辺りで焼き鳥売ってる屋台知らないかしら?」






路地裏の一画にある焼き鳥屋台「さへえ 」、そこに三人の少女がいた。とても焼き鳥屋には似合わない構図だ。

李梨花と美海、それと先程二人を助けた少女だ。少女の名は花村沙紀絵(はなむらさきえ)という。沙紀絵はセーラー服にブルゾンを引っ掛け長い髪の後ろをリボンで括っている。

「にしても珍しいねえ。沙紀絵ちゃんが同い年の友達を連れて来るなんて」

焼き鳥屋の店主が言う。

「べ、別にいーだろ。あたしが組の人以外とメシ食っても」

沙紀絵が恥ずかしげに応える。

「組といいましたがもしや彼女……」

李梨花がめざとく反応する。

「おう、その子ヤクザの頭領の娘さんだよ」

「なるほど、もしかしてこの辺りは彼女の組の縄張りで?」

「おうよ、かく言うおれも花村組の一員なんだぜ」

「ヤクザて普通にお店経営とかするんですね」

「おれのは半分趣味だけどな」

美海もヤクザの部分を気にする。

「李梨花さん、もしかしてわたしたちさっきよりひどい状況になってません?」

「秘密組織の一員のあんたが何言ってんのよ」

「な、なるほど」

李梨花達と美海がひそひそ話す。

「で、あんたらはなんで焼き鳥屋なんて探してたんだ?そういう野郎じみた方のはともかくちっこいのは柄じゃねえだろ」

沙紀絵が尋ねる。

「野郎じみたて何よ、失礼ね。こいつはあたしのバイト先の後輩でね、後輩を行きつけの店に連れて来たってわけ」

「何言ってるんですか、わたしの父のお土産を探しに来たんじゃないですか」

あっけからんと言う李梨花に美海が突っ込む。いつの間にか当初の目的がどこかに行ってしまったようだ。

「あ、それもあったわね」

「大丈夫ですかねこの先輩……」

美海は思わず不安になる。

「そういや嬢ちゃん、今日はいつものお友達はいないのかい?」

店主が李梨花に尋ねる。

「あー、今日は都合が合わなくて。いっしょにいるのはこの子と今日あったヤクザ屋の娘さんだけです」

この子の部分で美海を指しヤクザ屋の娘さんの部分で沙紀絵を指す李梨花。

「お前ここの常連だったのかよ」

店主と李梨花の会話に沙紀絵が驚く。

「たまにね。同僚や上司と来ることもあるけど」

李梨花の返答。沙紀絵はいよいよもって気になって来たことを聞く。

「お前のバイトてどんなバイトなんだよ?」

「えっと、わたしたちは街の平和を守る活動をしています」

「なんだそりゃ、警察かよ。バイトつったよな、公僕がバイトとか雇うのかよ」

美海の返答に怪訝になる沙紀絵。

「単純作業ならやらすんじゃない、知らないけど。あたしの組織はざっくり言うと裏稼業よ」

「裏?ヤクザかよ。おいおい他所のシマとか行って大丈夫かよ」

李梨花が助け船を出すが核心に触れずに言っているため中中理解されない。

「ヤクザなんかより大規模よ。資金的にも規模的にも。プロのテロ屋じゃない限りやられないわ。非戦闘時に狙われたら分かんないけど」

「どこの武装集団だよあんたら……」

李梨花はいよいよ核心に触れた話をする。

「李梨花さん。流石にそれ以上は……」

「あ、魔獣のことは黙ってた方がいいわね」

美海に小声で言われそれ以上は口を紡ぐ李梨花。魔獣は市民へのパニックを避けるため存在自体を秘密にされているのだ。最も口コミやネットである程度知られてはいるが大っぴらにはされていない。

「嬢ちゃん達は怪物退治の専門家だろ?」

店主の声に思わず李梨花は飲んでいた烏龍茶を吹き出し烏龍茶が美海の顔面にかかる。

「あの……」

ぽたぽたと烏龍茶を垂らし言葉にならないでいる美海。

「あ、ごめん……」

近くにあった布で美海の顔を拭く李梨花。

「それ屋台拭く用のぞうきんじゃね?」

「些細なことよ」

沙紀絵の突っ込みを軽く流す李梨花。

「てか怪物退治てなんだよ?」

新たな疑問に屋台の店主が答える。

「ほら、たまに怪物が人を襲ったりその怪物を退治する変な鉄砲持った人の噂聞くだろ?それだよそれ」

「あー、組のやつもたまに話してるなー」

「にしても誰が組織の情報を……」

李梨花は頭を抱える。そこへ店主が指摘する。

「ほら、あの天使の男の子と嬢ちゃんが班長て呼んでるあの人だよ」

司と佳代子のことである。

「そういえばあの二人がそんなこと言ってた時もあったような……」

李梨花は佳代子に連れられ司や十一達とここで焼き鳥を食べた記憶を引っ張りだす。

「何してるんですかあの人達」

復活した美海が苦い顔になる。

「人間誰しも酒に酔うと自分を見失うのよ、あんたも気をつけなさい」

「司さん未成年ですよね」

「あれは天然よ、最初調子に乗ってたあんたよりたち悪いわ」

「あの人達といると色々大変なんですね……」

何かを悟った美海。

「怪物退治の専門家ねぇ、あんたらすげえな。そんな連中と知り合いになれたとか感激だぜ」

「そりゃどうも」

感心する沙紀絵と軽く流す李梨花。


そこへ突如悲鳴が響く。

「ごちそうさま、おつりはいらないわ」

李梨花が二人分の代金を置き急いで立ち去る。

「李梨花さん!」

李梨花を追う美海。

「あ、あたしも!」

沙紀絵も代金を置き急ぐ。

「今日の客はせわしないな」

焼き鳥屋台の店主が呟く。

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