二十九話 雨宮恵子改め悪魔フヨウ登場!
魔獣が出現した箇所、周囲の住民が避難し戦闘服を来た人間達がビルの階段や屋上に陣取っている。彼らが見つめる先には魔獣が倒れている、魔獣に有効な麻酔銃のようなものを撃ったためだ。
「班長、本当に魔王院ありさは現れるのでしょうか」
隊員の一人、鬼龍十一が佳代子に聞く。
「技術部の報告では彼女はあの魔獣の魔力反応を追ってた話らしいから来るのは間違いないわ」
「みんな、新しい魔力反応が出たよ!」
彩音が叫ぶ。
「え、まだこっちは感知してないのに?」
佳代子が戸惑う。彩音は組織の持つ魔力感知装置より早く強い魔力を発しているものに気づいたのだ。
「へえ、もしかして彩音も第六感敏感な方?」
美羽羅が言う。
「じゃあ美羽羅ちゃんも?」
「どうやらあたし達同類みたいね」
「ふふっ、何か嬉しいな」
意気投合する彩音と美羽羅。
「というわけよ、みんなここを離れましょう」
司や他の魔法使いに移動を促す美羽羅。
「ちょっと待ちなさい!あなた達には待機命令が出ているはずよ!勝手に持ち場を離れないで!」
部隊長を務める佳代子が声を荒げ美羽羅を止める。
「何か勘違いしてないかしらあなた、元よりあたしは組織に所属してないし組織の命令も聞く気はないわ」
美羽羅が佳代子を牽制する。
「な、負け犬が偉そうに……。ガッ……」
「邪魔」
こめかみに筋を立て美羽羅に迫る佳代子、だが美羽羅に腹部を殴られ気絶してしまう。
「美羽羅!?」
突然のことに困惑する李梨花。
「貴様ぁっ……」
十一も美羽羅に迫る。それを美羽羅は手で制する。
「チッチッチ、あまりあたしに喧嘩を売るとその人みたいになるよ」
「あなた達は、これからどうするつもりです?」
十一は上司に殴られ怒りに湧いていた気持ちを落ち着かせる。
「ひとまず新しい魔力反応を追うわ、魔王院ありさを追うのはその後よ」
「魔王院ありさを逃がした時は?」
「いや、それはないわ。やつはあたし達と同じように魔力反応のある場所へ向かう、ならあたし達が新手の魔獣だか魔法使いと交戦して魔力が放出されればやつもそれを追って現れる、問題ないわ」
「だが、魔法使いと司くんだけで行けるのか?」
「愚問ね。以前はアマツカ、司でさえ適わなかったけど今は違う。四人の仲間がいる、そう簡単にはやられないわ」
「大丈夫です鬼龍さん、僕達に任せて下さい」
十一の肩に手を置く司。
「司くん……。分かった、行ってこい」
「はい!行こう、みんな!」
『おお!』
「お姉さま、必ず生きて帰ってきて下さいね 」
美海が別れ際言う。
「馬鹿言わないで、あたしが死ぬわけないじゃない。じゃ、行ってくる 」
その場を後にする魔法使いと司たち。
ー ー ー ー ー
「魔力の気配が消えた、どういうこと?」
アンダーウィザーズの施設の調整により本来の人格と力を取り戻しつつある魔王院ありさは出現した魔力反応を追い空を飛んでいたがその反応が消えたことに驚いてその場に浮遊する。
魔力の持ち主がいきなり消えるというようなことはありえるのだろうか。そんなことはない、どこかに必ずいるはずだ。
魔王院ありさは意識を集中する。なんと、先ほどまで追っていた魔力の方向にさらに四つの魔力、一つの高エネルギーを感知する。
「この二つの気配、知っている。あとの三つは知らないけどこれはあの時わたしに挑んだ命知らずの二人、まだ生きていた。なら、また倒すだけ」
羽を広げ新たな魔力の反応を追おうとするありさ。しかしそれを何者かが邪魔をする。
「ようやく追いついたわよ!この化け物女!」
背後から声がした。気づかなかった、前方の反応に気を取られ過ぎたか。振り向くとビルの上にメイド姿の女性が息を切らせながら立っている。その女性からは魔力を感じない、どうやらただの人間のようだ。
「ぜぇ、ぜぇ、あんたねえ、さっきからビュンビュン飛んでないでいい加減あたしの相手しなさいよ……」
「わたしを追いかけてきた?ただの人間なのに?」
ありさはわけが分からないというように首をかしげる。
「ただの人間?ふっ、それはこれを見てからいいなさい」
メイドは勢いよく右手を横に振りポーズを取ると身体を黒い光が包み姿が変わる。胸元の空いたバストを覆う布にミニスカート、頭部の角に背中から生えたコウモリ型の羽、まるで悪魔に近い姿である。
「雨宮恵子改め魔界の大悪魔フヨウ、見参!てね。あたしのこと、覚えあるでしょ?」
大仰な名乗りを上げながらメイドから悪魔の姿になったフヨウが言う。
「あなた……………………誰だっけ?」
ありさが口を開けたまま停止する。
「誰だっけ?じゃなーい!五年前アマツカて天使といっしょに戦ったでしょ、覚えてない? 」
「え、そんな人いたかな?」
実際は五年前アマツカといっしょに挑んてきた人物なのだがありさとしては眼中に入っていないようでまるで覚えていない。
「キー!頭来た!」
フヨウは飛び上がると上空から三叉の槍で攻撃を仕掛ける。
「めんどくさいなー」
ありさは腕を上げるとその爪でフヨウの槍をがっしりと掴む。
「な、離しなさいよあんた!ちょっと、動けないじゃない! 」
わめくフヨウ。
「あとうるさい」
ありさはヒョイッとフヨウをフォークごと投げる。
「ひゃっ」
フヨウは悲鳴と共に遠くのビルの屋上に激突する。
「邪魔も消えたしあの天使と魔法使いにいこう」
「え、まさかあんたアマツカと美羽羅ちゃんを知ってるの?」
ありさがぼそりと呟くとフヨウがめざとく反応する。
「うざい」
「いいから答えなさいよ。今あの二人何やってんの、さっきまで寝てて気がついたら五年も経ってるしあの二人が今なにしてるか分かんないのよ」
「寝てた?」
ここでありさがようやくフヨウに興味を示す。
「そうよ、あんたの気配を感じて起きたんだけどなぜかメイドの格好してて携帯見たら五年も経ってるしもう意味分かんないのよ」
イライラしたように髪をかくフヨウ。
「五年、そういえばわたしもここ五年の記憶がない。あ、思い出した」
爪の左指あたりを顎に当て思案するありさ。
「やっと思い出してくれたのね!」
ようやく自分のことを思い出してくれたと歓喜に湧くフヨウだがそうではなかった。
「わたしの専属メイド」
「へ?」
フヨウはありさの言葉が分からず困惑する。
「あなたはさっきわたしの専属メイドの格好をしてた。屋敷にいるのは苦しいしあなたの言う事とか聞きたくなかったからすぐに出てったけどあなたは自分のことをわたしの専属メイドと言っていた、それは間違いない」
「は、どういうこと?なんであたしがあんたの世話なんてしなくちゃなんないのよ」
「記憶を失ってるのをいいことに父に拾われた」
ありはの父はアンダーウィザーズの首領でもありありさを調整によって今の姿と人格にした人物でもある。
「え、だから?」
「察しの悪い悪魔の相手は疲れる」
「はあ、どういう意味よ?」
フヨウはありさの言葉にまた怒り出すがありさは構わず続ける。
「多分あなたはわたしが記憶をなくした後の覚醒まで時間がかかるからその間に世話をする人が必要になってたまたま記憶がないあなたを拾った、説明終わり」
「え、それだけ?」
「あと覚醒したわたしにあなたを殺させるとか。あなたを保護した本人じゃないから分かんないけど」
「手の込んだ真似してくれるじゃないあのジジイ」
「あ、話は終わり?じゃわたし行くから」
言うとありさはアマツカ達いる方向へ猛スピードで向かった。
「ちょっと待ちなさいよあんた!今度こそ決着つけてやるんだからー!ちょっとー!」
背後に聞こえるやかましい声は無視することにした。




