二十七話 女王の失踪、魔王院ありさを追え!
ルシフェルとの新型魔導システムの打ち合わせが終わって何日かたった日の夕方、司がスーパーで味噌汁に使う豆腐を選んでいると意外な人物にあった。
「天城司!」
「雨宮さん?」
メイド服の女性が司を見て声を上げると司も相手の方に気づく。雨宮恵子だ、アンダーウィザーズの切り札である魔王院ありさ付きのメイドであるが真奈美はありさの本性をまだ知らない。
「雨宮さん、元気なさそうですけどなんかあったんですか?」
「そう見えるか、こんなことお前に言うのもおかしいんだが……」
恵子は俯きながら話し出す。
ー ー ー ー ー
「へー、じゃあありささん屋敷に帰ってないんですね」
「ああ、時間を見つけては探してるんだが中々見つからなくてな……」
恵子の話によればありさは以前司のいる前で倒れた後ありさの父親により病院に検査入院することになったという。しかし病院から戻ってくるとありさはことあるごとに癇癪を起こし暴れ、しまいには屋敷を出ていってしまったという。恵子は夜遅くにもありさを探してるのかメイクに隠れてうっすらと隈がみえる。
『アマツカ、どう思う?』
司は頭の中で自らに融合しているアマツカに話しかける。
『おおかた、調整とやらの副作用、もしくは本来の人格に戻ったという辺りだろうな』
『下手に手を出すと本性出して来そうだね』
『だとしてもいずれは倒すしかないだろう、奴は戦闘力も行動も危険過ぎる』
『五年前みたいに人がたくさん死ぬのはごめんだしね』
『それで、人間お前はどうする?』
『もし魔王院ありさが本来の姿になったら危険だ。ここは戦いに慣れてる僕らで探してあげよう』
『探してその後はどうする?』
『そういうのは後、まず魔王院ありさを捕まえてから考えよう』
「すまない、お前には関係ないのに悩ませてしまって」
司は頭の中では別人格とも言える存在と会話をしていたが恵子には司がずっと黙ってるように見えてるので心配されてしまう。
「あ、いえ、大丈夫ですよ。ありささんのことは僕に任せて下さい、知り合いにそれらしい人見かけてないか掛け合ってみます」
「いいのか、わざわざそんなことしてもらって」
「気にしないで下さい、困った時はお互い様ですよ」
「すまない、世話になる……」
恵子は感謝の言葉を述べるが司は最悪ありさと戦闘になる可能性は黙っておいた。
ー ー ー ー ー ー
翌日、司は組織の技術部に来ていた。と言ってもアリエルやルシフェルのいる部所ではなくコンピュータやIT関連を担当する電子課である。
「課長、ちょっといいですか?」
司は以前自分の所属する部所のオフィスにも現れた無精髭によれよれのシャツを着た白衣の男に話しかける。このIT課の課長である。
「お、珍しいね君の方からここに来るなんて。ヨミちゃん事件以来じゃない?」
課長が人懐っこそうな笑顔を見せる。
「ちょっと人を探して欲しいんですが……」
「人探しっていうと魔王院ありさちゃんかな?」
「なっ、どうしてそれを?」
課長に自分の考えを読まれ驚く司。
「なに、上の命令でありさちゃんの屋敷を見張ってただけだよ」
「そんなこと出来るんですか?」
「ちょっと監視カメラの映像を拝借しただけさ。おっと、別にハッキングしたわけじゃないよ。僕らは魔獣退治のために政府から監視カメラの映像を借りることを許可されてるのさ」
「へー、すごいですね。で、何か分かったんですか?」
「さっぱり分からん」
頭の横で手を広げる課長。
「へ、分からないって見つからなかったんですか?」
「映像は見つけたんだけど空を飛んだりビルの上で佇んでるだけっていうか何がしたいのかよく分かんないんだよね」
「だから分からないと」
「うん、何か探してるようにも見えるけど何を探してるのかさっぱり。ほら、今も公園の中をキョロキョロしてるよ」
課長が現在のありさの映像を出す。
「何か可愛いですね」
「まあアンダーウィザーズは怪物扱いしてるけどこうして見てると普通の女の子にしか見えないね」
二人が談笑してると組織のビル内に警報が響く。魔獣や魔法使いが出た時の魔力反応を知らせる警報だ。
「お、魔獣だ。どうする司くん?」
「李梨花と美羽羅の魔導システムも直ったみたいなんであの二人に任せれば大丈夫ですよ。普通の魔獣が相手なら何人も魔法使いが行く必要はありませんし」
司は余裕ありげに答える。
「なんだ?!急にありさちゃんが動きだしたぞ!」
課長がパソコンのスクリーンを食い入るように見る。先ほどまで周囲をせわしなく見回していたありさの体の向きが一点を向く。目が怪しく光り身体を黒いもやのようなものが包むとありさの手脚が爪を伴った巨大なものに変わり頭からは角が背中から羽が生え肉体が怪物化する。
ありさは姿を変えるとその羽で飛翔しどこかへ向かう。
「飛んだ!」
「とうとう来たね魔王院ありさのウィザードモード!さあどこへ行くのかなー?」
課長がキーボードを操作し再び警報が鳴るより速くありさの魔力反応とその周辺地図を呼び出す。
「点がもう一個ある、もしかしてさっきの魔獣?魔王院ありさはこれを追いかけて?」
スクリーンを見ると大きい反応を示す点が小さい方に高速で移動しているのが見て取れる。
ここでありさの魔力を感知した組織のオフィス内スピーカーが警報を鳴らす。
『天城司、黒羽彩音、花村沙紀絵の三名は即刻ブリーフィングルームに集合せよ。繰り返す……』
さらにスピーカーからは組織に李梨花と美羽羅以外の魔法使いも召集するアナウンスが流れる。
「今度はどうする、司くん?」
「もちろん行きますよ、お呼びだしくらっちゃいましたし」
IT課のオフィスを後にする司。




