二十五話 アリエル・リエッタ
「美羽羅ちゃん、とうとうお父さんと仲直り出来たんだね……うう……」
感動で目を滲ませる彩音。
李梨花達の見舞いに来た彩音達だが水吾郎に止められていたため美羽羅と川太郎のやり取りを病室のドアの隙間から覗いていたのだ。
「あとは彩音の方だな」
沙紀絵が彩音に話題を振る。
「え、わたし?」
「なんで母ちゃんが親父さんのこと殺しちまったり魔導システムの売人やってるか聞いて悪事を止めないとな」
「まあ前半はともかく後半は早めにやらないとね」
「なに言ってんだよ、親子なんだから変な隠しごととかしないで腹割って話すもんだろ。母ちゃんがいきなり悪いこと初めて理由話さないままとかいいわけねえだろ」
沙紀絵が力説する。
「う、うん。そうだね……」
沙紀絵の迫力に若干押されそうになる彩音。
「ところでお主ら、ちょっといいかね 」
川太郎と交代で病室から出てきていた水吾郎が司達に話を振る。
ー ー ー ー ー ー
ところ変わって司達は水吾郎に連れられウィザードマテリアルの技術部に来ていた。
「うわー、広ーい!」
「学校の体育館くらいあるんじゃね?」
初の組織の技術部に興奮を隠せない彩音と沙紀絵。
「いやそんなにはな……、よく見たらそれくらいあるか」
冷静に突っ込もうとするが改めて部屋の広さに圧倒される司。
「結構広いですねここも」
美海もここに来たのは初めてだがこの広さには感心せざるを得ない。
「せんぱーい!来てくれたんですねー!」
前方から小柄な少女が現れ司に抱きつく。少女は淡紫の髪をリボンで二つ括りにし桃色に光る目を持つ。白い肌の小柄な体躯、小顔の肉体に対し豊満な胸というロリ巨乳キャラである。
「ねえ司くん?その子だあれ?」
彩音が魔法使いの姿に変身した状態で鎌を携え司の背後に立っている。
「えっと、誰だったかなぁ……」
彩音の豹変ぶりに顔をひきつらせる司。
「あ、思い出しました!この人この間司さんになんか懐いてたあざとい後輩ですよ。司さんというかアマツカさんの古い知り合いみたいですけど」
美海が指摘する。
「うん、僕じゃなくてもう一人の方の知り合いだね」
「ひでえ!こいつ都合よくすっとぼけやがったぞ!」
沙紀絵が司の都合のいい解釈に突っ込みを入れる。
「ひどいです先輩、わたしのこと忘れるなんて、よよよ……」
嘘泣きを始める少女。そこへ司の目がギランと光り腕が延びる。少女の頬が掴まれ圧迫される。
「おいアリエル・リエッタ、あまり俺をコケにするとためにならないぞ」
「ふが!ふが!ふぇんはい!ふぇっふぉ!」
アリエル・リエッタと呼ばれた少女は頬を圧迫されてるので何を言ってるか分からない状態になっている。
「あの、もう司さんなのかアマツカさんなのか分からないんですが」
美海が司の振る舞いに困惑する。
「ふん」
司はアリエルに腹を立ててるのか鼻を鳴らす。すると司の体から新たな影が現れる。全体が透けており幽霊のような状態になっている。
「うわぁっ!だ、誰?」
「司くんから何か出たー!」
「ほう、これは面白い」
「ゆ、幽霊、なのか?」
混乱する場、思わず後ずさりするものも現れ司に至っては尻をついてしまっている。
司の体から現れた霊体は一見司の天使としての姿と同じ格好だが肌は白く人間というよりギリシャ彫刻のように整った少年の顔に金色に輝く髪、水晶のように煌めく瞳を持ちまるで天使そのものである。
「どうしちゃったんですか先輩、急に幽体離脱なんかして……、天使て幽体離脱とか出来ましたっけ?」
アリエルだけが違和感なく霊体を先ほどの司と同じように呼ぶ。
「先輩?」
「じゃあこの人……」
「あ、アマツカ……で、いいんだよね?」
霊体の正体に気づいた彩音と沙紀絵に対し司はやや戸惑っている。無理もない、なにしろ五年間自分と融合し同じ肉体にいた人格であり死の淵から拾い上げ、力を与えてられた存在が目の前に存在するのだ、その戸惑いは図り知れない。
「こうして話すのは初めてになるな。初めまして、天城司」
アマツカは司の方を向き笑顔で右手を出す。
「いや、たまに出てくるずっと前からいるのは分かってたから初めましてじゃないんだけどね。改めてよろしく頼むよ」
司も照れながら右手を差し出す。しかし司の手はアマツカをすり抜けてしまう。
「あ、幽霊だから触れないんだ。でも一応形だけでも」
司はちょうどアマツカの手がすり抜けない位置に自分の手を合わせ握手の形をとる。
「アリエルちゃん、例の新型の件じゃが」
水吾郎が本題に入る。
「は、はい!今案内します。みなさん、こちらについてきて下さい」
アリエル先導の元、技術部オフィスの奥へ入って行く一行。
「すっげー、武器がいっぱいあるぜ!」
沙紀絵が天井からぶら下がったり机に置かれた数々の武器に興奮する。そこでエンジニア達が様々な作業をしていた。
「普通の人が使う魔獣用の武器ってここで作ってるんですか?」
彩音がアリエルに質問する。
「いえ、ここで作ってるのは試作品がほとんどで量産する場合には別にある工場でやってもらってるんです」
「へー、技術部って言ってもここにあるのは開発担当て感じ?」
「まあそんな感じです。あ、ところで彩音さんちょっと口開けてもらえます?」
アリエルは天井の紐からぶら下がってる道具の中からファンシーな色の銃を取り出す。彩音の口へ向けトリガーを引くと何か柔らかいものが飛ぶ。
彩音は反射的に口に飛び込んできたものを咀嚼し飲み込む。
「なにこれ、生クリーム?」
「そんなもん作ってんのここ?」
「どうです?技術部が作った珍兵器の一つ、その名も生クリーム銃です!」
アリエルが得意げに銃をかかげる。
「どうって言われても……」
「こんなの役に立つの?」
生クリームが出るだけの銃などとても戦闘で使えるとは思えない。
「立ちません、むしろなんで作っただろうて疑問に思うくらいです」
ピシャリと言い放つアリエル。
「誰が作ったのさそんなの……」
司がジト目になる。身内にさえ疑問視されるアイテムを作るなどどうかしてるのではないか。
「眼鏡のツインテールの女の子ですね。髪型とかぶりっ子な感じとかわたしと被ってるくせにろくなもの作らないから見ててイライラしかしません。しかも作ったものが可愛いからみんなわたしよりその子のことばっか可愛がって余計ムカつきます」
「あ、うん。君も色々大変なんだね……」
「そうなんですよ司さーん、わたしも人間のしょーもない馴れ合いとか上や下の軋轢とか苦労してるんですよー」
司の肩に腕をやるアリエル。
「てか僕のことは先輩呼びじゃないんだ」
「いや先輩は司さんじゃなくてアマツカさんですし」
「あ、やっぱり?」
「アマツカの知り合いてことはアリエルちゃんてやっぱ天使なの?」
彩音がアマツカとアリエルの関係に迫る。
「はい!天界時代の怪物時代の先輩後輩です!」
元気よく答えるアリエル。
「たまたま助けたら懐かれてな……それ以来何かある度接触して来るんだ。地上に来てからこの部所で働くようになってからあまり近寄らなくなってようやく安心したというわけさ」
アマツカが肩をすくめる。
「ぶー、わたしのことお邪魔虫みたいに言わないで下さいよー」
アリエルが頬を膨らます。
「うざっ」
そんなアリエルのあざとい行為に彩音の口から思わず本音が漏れる。
「はい?」
アリエルと彩音の視線が交錯し女同士の争いが始めるかと思われたが……。
「う、うまそう……」
なぜか沙紀絵が涎を出しながら口を半開きに目をキラキラさせている。
「えっと、沙紀絵ちゃんも食べる?」
その子供みたいな表情の沙紀絵に思わずクリーム銃を向けるアリエル。
「べ、別に欲しいとかじゃないからな!」
取り繕うように怒る沙紀絵。
「いいから口開けて」
「あ、あーん?」
口を開ける沙紀絵にクリーム銃を撃つアリエル。生クリームを食べながら頬に手を当て恍惚とした表情になる沙紀絵。
「クスッ。沙紀絵さんて可愛いですね」
そんな沙紀絵を見て思わず笑顔になるアリエル。
「か、かわっ、かわわわ、可愛いとか……、あたしそういうの似合わねえしやめろよ!」
あまり言われない言葉なのか顔を赤らめる沙紀絵。
「何言ってるんですか、沙紀絵さんは可愛い女の子ですよ」
「いやだってあたしヤクザの娘で男連中とばかりいっしょにいてガサツに育った女だぜ?可愛いとかありえねえよ」
「いえ、そんなことないですよ。人間の女の子はね、誰だってどこかに可愛いところを秘めてるんですよ。だから、自信を持って下さい」
「そう、なのか……?」
「はい!」
アリエルの言葉に思わずドキッとしてしまう沙紀絵。
「何かこいつ気にいらない……」
そんな二人を見てどういうわけか怒りが込み上げる彩音。
「あの……さ、さん付けとか敬語とかなんか他人行儀みたいだからタメでやらね?」
顔を赤くし恥ずかしながら言う沙紀絵。
「いいの?!じゃあ、あなたのことはサキちゃんて呼ぶね」
右手を差し出すアリエル。恥ずかしさからかやや遅れながら右手を出す沙紀絵。
「これであなたとわたしはおっともだちー」
「と、友達……」
「やっぱこいつ気にいらない!潰す!今すぐここで!」
「落ち着いて彩音ちゃん!」
「部屋がめちゃくちゃになっちゃいます!」
鎌を振り上げアリエルに飛びかかる彩音を司と美海が止める。
ー ー ー ー ー ー
「因みにここがわたしの机です」
次にアリエルが案内したのは自分がいつも使っている机である。作業の邪魔にならないようにしつつも適度にオブジェや飾りがありお洒落に気を使っているのが分かる。
その中から沙紀絵がプランターに埋まった青い花を取りしばらくそれを見つめていた。
「あ、それよく出来てますけど造花です。本物だと育って来てスペース取っちゃうんですよね」
アリエルが説明する。
「こんな綺麗なのに偽物なのか」
「偽物でも綺麗なのは変わりません。実はそれもここの人が作った発明品なんですよ、みんなではありませんがこの部屋にいる多くの人が愛用してます。あ、さっきのクリーム銃とは作った人違いますよ」
「それ工場で作って売れば儲かりそうですね」
美海が現実的な話をする。
「面白いことに気がつきますねあなた。実はこれをネットにアップしたところインテリア雑貨を扱う企業が目をつけて大量生産されることになったんですよ。少々お高いですがホームセンターに行けば売ってますよ」
アリエルがいい質問ですねーと言わんばかりに解説をする。
「特許料とかもがっぽり貰えそうですね 」
「なんて夢のないこと言うんですかあなたは!」
アリエルは自分と美海との考え方の差に衝撃を受ける。
「でも特許料いっぱい貰ったら大金持ちじゃないですか。お金あったら贅沢し放題です、マネーイズドリームですよ」
キリッとした表情で言う美海。
「なにこの子、こわい。その年で現実の非情さに目つけるとかこわい」
「と、ところでアリエルちゃん?さんは何か作ってたりするんですか?」
司が場の空気を変えようと話題を振る。
「いいですよ司さん、先輩の知り合いだからってそんな気を使わなくても。確かにわたし達天使は人間より長命ですけどわたしも先輩も人間でいうとまだ20より下ですから」
「そ、そうなの?でも一応年上の人は敬った方がいいっていうか……」
「そっか、司さんはいい子だね。よしよし、お姉さんが可愛がってあげますよー」
低身長から背伸びをして司の頭を撫でるアリエル。
「なんか姉っていうのもいいですね」
頭を撫でられ和んだ表情になる司。
「こいつ、司くんにまで手を出して……」
彩音の怒りのボルテージがさらに上がる。
「そこの二人も遠慮しないでわたしの胸に飛び込んで来ていいんだよ」
アリエルが彩音と美海の方を向く。
「ふん、別にあなたなんかと仲良くする気なんてないですよーだ」
そっぽを向き敵意むき出しになる彩音。
「わたしはそういうのはいいんで、遠慮しておきます」
美海は丁重に断る。
「あらそう、残念。で、何の話だっけ」
「お前の発明品を見せろという話だ」
アマツカが答える。
「そうでしたそうでした。わたしの発明はですねー」
そう言いながら机の上にある箱に手を延ばすアリエル、そこには弾丸の束がいくつもあった。
「ジャジャーン!これがわたしの発明品の一つ、対魔獣、魔法使い用スタンバレットです!なんと、対象の魔力の流れを止めることで魔獣も魔法使いも無力化しちゃうんです!魔法使いの場合は魔法が使いづらくなるだけであくまで補助的なものですけど」
アリエルが先端が黄色く塗られた弾丸を掲げる。
「あ、これ最近組織が使い始めた当たれば魔獣を一方的になぶれるようになる鬼畜玉ですね」
美海が弾丸の説明を聞いて言う。
「あなたような人がいるからこの世から戦争がなくならないんですね」
「武器を発明してる人がいいます?」
「わたしは武器屋であって戦争屋じゃありません」
それからもアリエルは撃つとネットを射出する弾丸や対魔獣用の通常狙撃用の弾丸などの説明をするがその度に美海の言葉にタジタジになっていた。
「おいそこのぶりっ子天使、いつまで私を待たせる気だ」
そこへ奥の方から新たな人物が現れた。




