二百四十四話 対決!イービルクイーン親衛隊③
一方、彩音ちゃんは大きなクローを装備して深山さんと戦っている。
深山さんのレイピア、というかレイピアから伸びるムチが彩音ちゃんを狙い彩音ちゃんがそれを防いでいるという状態。
「図体だけ大きくても無駄よ!私のようにスマートな体こそがエレガントに戦うに相応しい姿よ!」
深山さんが言う。
今の彩音ちゃんは魔導奏者からさらにパワーアップした魔導奏者カスタムの姿で魔導奏者の時からさらに重装備になっている。
「なに言ってんの?兵器と言えば重量化が基本でしょ!大きいのはロマンだよ!」
彩音ちゃんが言い返す。
うんうん、おっぱいもできれば大きい方がいいよね。あ、おっぱいの話じゃない、兵器の話だ。いやそもそも魔導システムて兵器だっけ、まあパワードスーツみたいたものだから兵器転用は十分可能だけど…………。
「その考えが既に美しくないわね。魔法使いは戦場のマジシャン、兵器などという野蛮なものではないわ!」
深山さんがさらに言い返す。手品師を意味するマジシャンと魔法を意味するマジックてなんか似てるね。
「ゲームプレイはちょっと野蛮なくらいがちょうどいいの!」
プレイ?縛るの?縛られるの?じゃないじゃない、ゲームの話だ。というか彩音ちゃんてなんでもゲームに当てはめるから会話が聞き取りづらいんだよね。
彩音ちゃんが背中に装備されたレールガンを発射する。
「ぐっ、大砲使うなんて…………やっぱり野蛮じゃないあなた!」
深山さんが彩音ちゃんの攻撃に不服を言う。大砲じゃなくてレールガンね、弾じゃなくて空気みたいなの撃つやつ。
「野蛮で結構!」
彩音ちゃんがそう叫ぶと後ろから奈々子ちゃんが飛ぶ。その腕はチャクラムの板を前に向けている。その板はただの板じゃなくて真ん中や円の中に石が散りばめられている。
「シュート!」
チャクラムから太いビームが発射される。
「きゃぁー!」
ビームを全身に浴びた深山さんがボロボロになって転がる。なまじ装備が少なくて露出度が大きいからか加藤さんより損傷がひどい。
「はぁ、はぁ、はぁ……………」
三人を倒すのは簡単には行かなくて僕達の体もボロボロになっていた。
「なんとか、倒せた…………、みたいね」
奈々子ちゃんが息を切らしながら言う。
「どうだ!これでも俺達の邪魔をするっていうのか!」
豊太郎が叫ぶ。
「おやおや、私が眠ってる間に好き放題やってくれましたねぇ」
テンザが壁の向こうからやってきた。さっきまで気絶してたんだけどな。
「来るならもっと早く来いよこの役立たず」
「いえ、タイミングとしては十分です」
「あの邪魔者を始末してちょうだい」
他の親衛隊が口々に言う。さっき要らないて言ったよねみんな。
「待たせましたね皆さん」
「そうだ、あいつが残ってたわ………」
奈々子ちゃんが歯を食いしばる。奈々子ちゃんはあいつに恨みがあるんだっけ。
「寄せ、お前達は既に消耗している。これ以上の戦闘は危険だ」
悠が言う。
「けど、あいつを倒さなきゃイービルクイーンにはたどりつけないよ」
僕はテンザから目を離さず言う。
「ここまで来たんだ、今さら逃げるなどと言うなよ?」
「ええ、あの邪悪を倒すのはこの時をおいてありません」
アマツカとアンジュリアンも引く気はない。
「ゲームはまだ終わってない」
「まだ行けるか、ヴァミラ!」
「おお!」
豊太郎の声に応えるように吠えるヴァミラ。
「ガルム」
「右に同じく」
ガルムがあくまで冷静にさなえに応える。
「我が腹心よ、今こそ憎き人間とそれに与する者共を狩るのだ!」
「はっ!」
イービルクイーンの命令でテンザが動く。テンザが腕を前に出すと指から糸が何本飛んできて僕達を縛りつけた。
「悪いが…………」
「その攻撃は…………」
「もう知ってるよ!」
僕とアマツカと彩音ちゃんは自分に巻きついてる糸をすぐさま切断する。
前にも使ってきた攻撃、かと思ったけどそうじゃない。テンザは自分のとこに縛りつけた人達を引き寄せたんだ。そしてもう空いてる方の腕にはまってる機械から杭を打ち出した。杭は魔力が込められてて何人、何体にも一気にダメージを与えた。
みんなが悲鳴を上げて弾き飛ばされる。
「こいつ、前と戦い方が違う!」
「変わったのは見た目だけじゃないってことか!」
僕達は驚きの声を上げる。
「これだけじゃありません」
テンザはパイルバンカーの杭を引っ込めるとその穴から魔力の弾丸を撃ってきた。
普段なら防げるんだけど体力を消耗してるせいでまともにシールドを張ることもままならない。
「はぁー!」
「奈々子ちゃん?!」
奈々子ちゃんがチャクラムの板のとこで弾丸を防ぎながら進む。物理系の盾ならではの技だね、ほんとは盾じゃなくて投げたり振り回して横の硬いとこで攻撃する武器なんだけど。
「食らいなさい、至近距離の!ツインチャクラムシュートー!」
チャクラムに散りばめられた石にエネルギーが溜まる。
「遅い!」
「がはっ!」
弾かれる奈々子ちゃん。
奈々子ちゃんのビームが発射されるよりテンザの杭から魔力が出る方が速かったんだ。
「大丈夫奈々子ちゃん?無理はだめだよもー」
絵里香ちゃんもが奈々子ちゃんに駆け寄る。
「あなたにだけは言われたくないわよ。戦場に来るならもう少し身体鍛えなさいよ」
「うぅ、面目ない…………」
奈々子ちゃんの言う通り絵里香ちゃんの身体や衣装は他の人より傷が酷かった。僕達の魔導システムは対イービルクイーン用に強化されてるしアマツカ達も以前の魔導システムより頑丈になってるけど絵里香ちゃんのは見た目こそ違うけど量産型と同じスペックだから防御力が低めだ。
「遠くからは魔力の弾丸、近づけばパイルバンカーの一撃、隙がまるでないな」
「呑気に解説してる場合かよ!」
「敵が強いのは分かったけど解決法がない」
悠が解説するけど豊太郎とさなえに突っ込まれていた。
「ここは逃げ………」
僕は口にしようとした言葉を止める。え、逃げる?ここまで来て?テンザさえ倒せばイービルクイーンと戦えるのにここで逃げるなんてちょっともったいない気がする。なにより逃げるなんて言い出したらまた豊太郎に怒られそうだしね。
「来ないならこちらから行きますよ!」
「アンジュちゃん!」
テンザがアンジュリアンさんのとこに走る。けどその足が急にバックステップしだした。さっきまでテンザがいたところに鮫のしっぽみたいな鎖が飛ぶ。
「チッ、案外勘いいじゃない」
「梨李香さん!」
アンジュリアンさんととテンザの間に立つ魔法使い、それは魔導奏者カスタムになった梨李香さんだった。
ん?梨李香さんがここに気づいたってことは…………。
ポン。僕の肩が軽く叩かれる。音として軽いんだけど僕にはその動作がすごく重く感じた。
ギ、ゴゴゴ…………。相手を確認する僕の首の動きも遅い。
「随分と派手にやってくれたわねぇ、あなた達?」
佳代子さんが笑っていた。いや、笑ってはいるけど腹の中は絶対怒ってるよ。どうせこの顔見るなら全部終わらせてからがよかったな………。
「あたし達もいるわよ」
「もう、抜け駆けはやめてくださいよー」
海浦姉妹も一緒にいて僕達の行為を非難する。
「おい彩音、おもしれえことやってるのになんであたしに声かけねえんだよ」
沙紀絵さんは彩音ちゃん限定の文句だけど。
「いやみなさん、これはですねぇ、深い事情がありまして…………」
僕はしどろもどろになる。あれ、前にもこんな言い訳したような。僕って学習してなくない?あの時は上手くいったけど今回は完全に失敗の部類と言ってもいい。
「榊佳代子、俺達はそもそも組織の人間ではない。その俺達がお前達組織と常に行動を共にする必要ない。よって司を責める必要はない」
「そうだ!第一俺達魔法使いじゃねえし!」
悠と 豊太郎が異論を唱える。
「なに言ってんの、あたし達仲間じゃない。その仲間に勝手にそういうことするのはよくないんじゃないかしら?」
「そうですよ、わたし達も仲間なんですから声かけてくださいよ」
う、耳が痛い。
「それにイービルクイーンに関しては私達の組織が先に目をつけたのよ、それを横取りするのはないんじゃない?」
佳代子さんも負けじと言い返す。
「うわ、汚い」
「それはちょっと大人気ないというものだな」
「これだから人間は………」
今度は反論というか非難に近い言葉が飛ぶ。
「なんとでも言いなさい」
「あら、ちょうどいいとこに死に損ないの魔法使いが転がってるじゃない」
僕達のやり取りをよそに梨李香さんがサメの口をテンザ以外の親衛隊に向ける。
「人質とは卑怯ですよ」
「ふん、戦いを有利に進める戦術と言って欲しいわね」
梨李香さんはテンザの言葉を受け流す。
そしてサメの口から極太ビームを発射する、狙いは安剛さんだ。
「まずい、間に合わない!」
テンザが慌てる。
するとイービルクイーンが口から強力な熱線を発射した。梨李香さんのビームはクイーンの熱線とぶつかって爆発を起こした。
「うわ!」
同時に爆風が起きて僕達は吹っ飛ばされる。
煙が止むとそこにはもうイービルクイーン達は姿を消していた。
「いねえ!あいつらどこ行きやがった!」
豊太郎が前に行って周りを見渡す。
「あーあ、逃げられちゃった…………」
僕はもう半笑いで言った。正直今回でイービルクイーンとはおさらば出来ると思ったんだけどなぁ、がっかりだよ。
「これで奴らもこの屋敷にはもう戻れそうにはないわね」
奈々子ちゃんが言う。戦いすぎて屋敷が半壊にも等しい状態になってるしまた僕達に狙われる可能性があるからね、わざわざ戻って来るとは思えない。
「つまり奴を倒す絶好の機会を逃した、ということか」
悠が深いため息をつく。
「魔界と人間界の寿命がさらに減った」
「やめろさなえ!不吉なことを言うな!」
さなえの言葉にアマツカが突っ込む。
「あーあ、この子達がイービルクイーンを倒しにいくて相談した時佳代子さんが素直にうんて頷いてれば倒せたかもしれないんだけどなぁ」
美羽羅さんが佳代子さんに流し目をしながら言う。この人今はすごい悪そうな顔してるんだけど。
「ぐ、それは確かに。司達がここを攻めるて分かったら組織の全勢力を投入してたかもしれないわ」
佳代子さんが後悔に頭を抱える。今後悔しても遅いかどね。
「別にいいわよそんなの、今度遭遇した時にまとめて全滅させてあげる。イービルクイーンも含めて」
梨李香さんがつまみを食べるくらいの気軽さで言う。
「そうだね、そうしよう」
この人の言葉が今の僕達には何気に心強かった。イービルクイーンに次いつ会うかは分からない、けど次会ったら必ず倒す。そう心に止めてこの場を後にすることにした。
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