二十四話 海浦水吾郎
今回は海浦家のおじいちゃんにして主人公組織の大ボスが出てきます
「ん……」
目を覚ます李梨花、そこは自宅のベッドではなかった。周囲にベッドやカーテンが並んでおりどこかの病院のようだった。
「おはよう、調子はどうかしら?」
李梨花の右のベッドにいた美羽羅が話しかけてきた。
李梨花は自分達が敵の本拠地に潜り込んだ先で敵組織の幹部であるテンザと戦い負けたことを思い出す。そこでようやく自分の無力さを自覚する。その無力さとそれを自覚せず復讐心に囚われたせいで美羽羅にも傷を負わせてしまった負い目を感じ頭を抱える。
「ごめん、美羽羅。あたしのせいであんたまで巻き込んじゃって」
「別にいいわよそんなの。それにこの間あたしもあなたに迷惑かけちゃったからおあいこってことで」
美羽羅が以前李梨花を襲ったことに触れる。
「本当に……ごめん」
「だからいいって気にしなくて、あなたな無事ならそれで充分よ」
「うん……」
李梨花の顔は俯いたままだ。
「ぐっもーにん、えぶりばでぃ」
病室のドア開き老人が現れる。言葉としては英語のものだがイントネーションのせいで日本語にしか聞こえないものである。老人は白いしわくちゃのシャツに茶色いレザーベストをまといテンガロンハットに長い白髭を蓄え長髪を後ろで束ねまるで西部劇にでるカウボーイのような格好している。
「おじいちゃん!」
美羽羅が老人を呼ぶ。
「え、誰?」
「あたしのおじいちゃん、海浦水吾郎。組織のリーダーよ」
「君が李梨花ちゃんじゃな、息子や孫達から話は聞いてるよ」
李梨花に挨拶をし右手を差し出す水吾郎。反射的に自分も右手を差し出す李梨花。
「いっつ、しぇいくはーんづ!これで君とワシは友達ー!いえーい!」
李梨花の手をガッシリ掴みテンションを上げる水吾郎。
「い、いえーい?」
李梨花は何がなんだか戸惑ってしまう。両生類のような名前で異様なテンションという変わった老人だ。
「あの、組織のリーダーって言ってましたけど……」
李梨花は気を取り直して水吾郎に尋ねる。
「ただの現場監督じゃよ、使いぱしり使いぱしり」
「えっと……今まであたし達があんなにヘコヘコしてた相手って……」
「ふぉっふぉっふぉ、要は中間管理職というやつじゃな」
水吾郎が髭をなぞりながる。
「あたし、てっきりあのお父さんの方が組織のトップだと思ってたよ」
李梨花は思いがけない事実に愕然とする。
「まあ、おじいちゃん基本家にいないからね 」
美羽羅が会話に割り込む。
「すまんの、あまり会えなくて」
水吾郎が長い髭を撫でながら謝る。
「それは言わない約束でしょ」
美羽羅の合いの手。
「あの、それって組織にも顔出してないてことですか?」
李梨花が手を上げる。
「そうじゃよ。でも大丈夫、あの川太郎でもワシには敵わんし」
この男、組織にほとんどいないにも関わらずリーダー気取りである。そのくせ時には好き勝手言って我儘言うつもりという暴君ぶりである。
「ところでお主ら、剣山とやりあったらしいの」
水吾郎が話題が変える。
「あの、あたし達が交戦したのは剣山じゃなくてテンザです」
李梨花が間違いを修正する。
「おお、そうじゃったそうじゃった。テンザンじゃテンザン」
微妙にまだ違うが二人はわざわざ修正するのも面倒なのでそのままにしておく。
「で、李梨花ちゃんが使ってるイズミちゃんがの、そのテンザンとかいつやつとの戦いで壊れてしもうたんじゃよ」
「イズミちゃんて誰?」
「そんなっ、どうして?!魔導システムって大昔に作られて今でも現役でずっと使ってるからよっぽど壊れにくい作りになってるんじゃないんですか?!」
聞き慣れない単語に困惑する美羽羅をよそに李梨花が水吾郎に詰め寄る。
「だって短期間でご主人様を二人も変えるわご主人様の身の丈に合わない魔法を使わせるなんて乱暴な使い方したらあの子も体壊して当然じゃろ?」
「それは……そうですけど……」
「ま、嘘じゃけど」
水吾郎はおどけた表情で言う。さっきの真面目な顔など嘘のようだ。
「嘘ぉ?!」
自分の非を責められたにも関わらずそれを嘘だと言われ衝撃で目が飛び出そうになる李梨花。
「まあほんとはシステムの許容量を超えるダメージを受けたせいなんだけど。因みに美羽羅のも壊れちょる」
「うわ、最悪。ていかおじいちゃん、うちの愛機になに変な名前つけてんのよ」
ご主人様を二人ものところでイズミの正体が海浦家の魔導システムだと気づいた美羽羅が突っ込む。
「技術部の人がつけてくれたんじゃ、可愛いじゃろ」
「はい!」
美羽羅と反対にお気楽な水吾郎と李梨花。
「可愛いそうに、元はあたしの専用機なのに……」
自分の預かり知らぬところで愛用する道具が勝手に名前をつけられ絶望する美羽羅。
「でも今はあたしのだから関係ないし」
「壊れたんだから返しなさい、どうせ持ってても使えないし」
しかし水吾郎が放ったのは予想外の言葉だった。
「その心配はいらんぞ、だって直るし。直るっていうか新しく作り直すんじゃが」
「え?向こうの組織ならともかくウチにそんな技術力なんて……」
李梨花の反論。
「いえ、アンダーウィザーズの博物館で見たことが本当なら技術者である悪魔がいれば魔導システムの生産や修理も可能なはずよ」
美羽羅が李梨花にさらに反論する。
「ほう、そんなことまで知ってるとは。流石ワシの孫じゃ」
水吾郎が感心する。
「でも肝心の悪魔がいないんじゃ」
それでも李梨花の懸念はなくならない。
「その悪魔の人、連れてきてるんでしょ?」
美羽羅が水吾郎を言わんとしてることを先読みして言う。
「ざっつらいと!」
水吾郎が親指を上げる。
「最近来たんじゃが今アマツカ、おっと、今は司くんか。とにかく彼の専用機も作ってるとこじゃよ」
「なんで?彼は元々魔法使いにならなくても戦闘能力を有してますよね?」
李梨花の疑問。
「魔法天使…… 」
美羽羅が呟く。
「またまたざっつらいと!いやー、今までは魔法使いの力を人間用の武器に組み込めるようにするのが限界だったんじゃが今回の旅で新たな境地に辿り着けそうじゃよ 」
水吾郎が感慨深げに言う。
「ひょっとして今回の旅ってそのため?」
「いや、たまたまじゃ」
「ずこっ、違うのね」
美羽羅はちょっと期待していたがそれとは違い新たな魔導システム誕生は偶然の産物だったらしい。
「さてと、ワシからの話は終わりじゃ。お主らは怪我人なんじゃからゆっくり休んどくんじゃぞ。それじゃ、後はお前だな役目じゃ」
病室を後にする水吾郎だが入り口で誰かに話しかけている。水吾郎に代わって病室に現れたのは……。
「お父さん?」
「あ、現場監督の方だ 」
美羽羅の父親、川太郎である。
「あー、お父さん?今さら話すこととかないんだけど」
約二ヶ月ぶりの親子の再開にも関わらず美羽羅はそっぽを向いたままだ。家出同然で出てきたのだ、無理もない。
「すまん美羽羅!父さんが悪かった、お前の気持ちを考えず、自分の考えばかり押し付けてしまって。知らなかったんだ、お前がずっと前から魔獣や悪い魔法使いと戦って来てくれてたことに、それなのに……本当にすまない、許してくれ……」
川太郎が深い後悔と共に頭を下げる。
「今さら、気づいても遅いんだけど。ま、家に戻るくらいならしてもいいかな。あ、組織の命令には従わないけど」
美羽羅は川太郎の猛省ぶりにそっぽを向くのをやめ笑顔で右手を差し出す。
「こんな不甲斐ない父さんを、許してくれるのか?」
「いいからお父さんも右手出す」
美羽羅の言葉に恐る恐る右手を出す川太郎。それを美羽羅はガシッと掴む。
「これでお父さんとあたしは仲直り!」




