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魔導奏者りりかさん  作者: 兵郎
十九章アイドルと豊太郎
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二百二十七話 アイドルとマネージャーの痴話喧嘩



「はぁ、はぁ…………」


相原唯は走っていた。後ろからは魔法使いの姿をした篠井が追う。あまりのスピードにひとたび油断すれば追いつかれそうだ。


「そろそろ鬼ごっこは終わりにしようか、唯ぃ」


「くっ…………」


唯はビルとビルの隙間を見つける。


しめた!唯はここがチャンスとばかりにその隙間に入る。


「どこまで行っても無駄ですよぉ」


篠井もその隙間に入り唯を追うが体格上少し入るのに無理があったがなんとか隙間を通る。


篠井が隙間の向こうに行くともう唯の姿はなく困惑してしまう。


そこで上を見るとビルの階段を登る唯の姿があった。篠井はそれを確認すると自分もその階段を登っていく。


屋上に着く篠井。


「もう逃げ場はありませんよ。唯、さん」


篠井がダンスに誘うように手を唯の方に向ける。


「逃げ場がないのはあなたよ」


唯はスッと集音機の部分が黄色い石になっている黒いマイクを取り出す。


篠井は歌でも歌う気か?と思ったがそうではない。


「魔導演奏!」


唯の声がエコーする共にその体が魔法陣を通り姿を変える。へそが露出したファスナーの紫のアンダーウェアの上に黒いレザーと白い柔らかい素材を重ねたフリンジスカート、雷型のレリーフに白いリボンのついたチョーカーという装いだ。


「初心を忘れて荒んだ悲しいマネージャーさん」


唯は篠井を指して言う。


「このわたしが癒してあ、げ、る」


片手でハートを半分ずつ作り、あげるの部分で両手を合わせハートを完成させるポーズを取る。


「あらぁ?わたしの可愛さに思わず声も出ないかしらん?」


返事のない篠井に唯が呼びかける。


「お前が………」


篠井が拳を握る。額には青筋がピクピクと浮かんでいる。


「ん?」


「元はとは言えばお前が悪いんだろうがー!」


今まで唯を追いかけていた時の余裕は消え篠井は怒りを全開にした。そして怨嗟の言葉と共に導火線に火のついた爆弾を投げつける。


「きゃっ、何するのよもう」


唯は空に飛び爆弾を避ける。


「お前が、お前がデビュー後間もなく売れなくなったのが悪いのになぜ俺が勝手に荒んだみたいになってるんだよ!おかしいだろうがー!」


篠井は今度は連続で爆弾を投げていく。


「リズミックブラスト!」


唯がギターを出現させ弦を引くと音符の形をした弾丸が飛び爆弾にぶつかる、二つの攻撃がぶつかり爆発していく。


「別に売れなくなったのもわたしのせいじゃないし!なんでわたしが悪いことにっ、なってんの、よー!」


唯の前にスタンドのついたマイクが現れ彼女の叫び声と共に音波型の攻撃を飛ばす。


「ぐ、ぐうう………」


篠井が悲鳴を上げる。


「分かってないなお前は!それも全てお前がキャラ作りとかテレビやらラジオやら雑誌の出演を全部、全部おざなりにしてるからだろうがー!」


篠井は自分の体ほどの大きさの大砲を出現させた。


「え、ちょ、なにそれ、やばくない?」


唯がそれを見て危機感を覚える。


「飛べ花火!」


篠井が大砲を叩くとドーン!ドーン!と小型の花火が唯めがけ飛んで行く。


「ひゃっ」


唯はその爆発に驚きながらも花火をかわしていく。


「あつっ、あつっ、熱いって!」


しかし一発足に食らい空中にいながら飛び跳ねるようなアクションをしてしまう。




★★★★★★★



司side


豊太郎とさなえがヴァミラの背中に乗って僕とアマツカは空を飛んで唯ちゃんのところに来たはいいんだけど…………。


唯ちゃんと篠井が魔法使いの姿で戦ってる?どういうこと?唯ちゃんて魔法使いだったの?


「彩音ちゃん来てたんだ」


僕は先に来てた彩音ちゃんに話しかける。


「まあね」


「ならなにそこでじっとしてるんだよ!さっさと唯を助けろよ!」


豊太郎が怒って言う。


「それなんだけど何か首突っ込みずらいっていうか、うーん…………」


すごい苦虫を噛み潰したような顔の彩音ちゃん。何か理由でもあるのかな。


と、僕達が言い合ってると唯ちゃん達に動きがあった。


「だってわたしアイドルでしょ?!歌唄う人でしょ?!そのわたしがなんでテレビとか雑誌なんかに出なきゃなんない、のよ!」


ギュイギュイーン!ギターの弦が何度も弾かれて唯ちゃんの周りから音楽を演奏するための音符だかリズムのついた線の固まりをしたビームが篠井に飛んでいく。


「はっ」


篠井は唯ちゃんの攻撃をかわそうとするけどビームは何度も追っていって篠井にダメージを与えた。


「甘ったれたことを言うな!芸能界なんてのはなあ、一に歌や芝居、二に宣伝、三にバラエティなんだよ。仕事選びなんてしてる暇はないんだよ!」


今度は篠井が怒って手の平をかざして唯ちゃんの足元に魔法陣を発生させた。すると魔法陣から炎が出て上に、つまり唯ちゃんのいる方向に向かって爆発したんだ。


「きゃー!」


爆発に飲まれる唯ちゃん。


「唯ー!」


豊太郎が声をあげる。


「ヴァミラ、唯を助けるぞ!」


「ホータロー、オレはちょっと………」


唯ちゃんに助けたい豊太郎に対してヴァミラは乗り気じゃない様子。


「どうしたの?豊太郎の大事な人守りたくないの?」


僕はヴァミラに聞いてみる。


「そうなんだけど、うーん…………」


「おいヴァミラ、そりゃないぜ。俺達友達だろ?」


信じられないという表情の豊太郎。


「ひょっとして………」


さなえが口を開く。


「夫婦喧嘩は竜も食わない?」


彩音ちゃんが続いた。


「うん、それ」


「なんだよそれ」


困惑する豊太郎。


「待って、それを言うなら夫婦喧嘩は犬も食わないじゃないの?」


僕はすかさず突っ込む。


「ヴァミラは犬じゃない、ヴァーミリオンドラゴンつまり竜」


「だから夫婦喧嘩は竜も食わない」


「あ、そう」


よく分かんないけど頷くしかない。何かさなえと彩音ちゃん珍しく気が合うんだけど、どいうこと?

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