二百二十六話 ギター少女の正体
翌日、彩音は大見え橋に唯を呼び出した。離れた場所には唯の護衛もいる。
「珍しいわね、あなたがわたしを呼び出すなんて」
唯が言った。
「別に大したことじゃないよ。昨日家からいなくなったらしいけど元気かなーって、変な人とか出なかった?」
「心配してくれてありがと。でもこっちはなんともなかったわ」
「そう、よかった。ところで君、変な人から魔法使いになれるアイテムなんて貰ったりしてないよね?」
彩音はまさか唯がとは思わないが一応聞いてみる。
「わたしが?貰ってないよそんなのー、もし貰ったら彩音ちゃんにも教えてるよー」
あっけらかんに答える唯、どうやら目論見は外れたようだ。
「だよねー、変なこと聞いてごめんね」
「別にいいよこれくらい。で、話てそれだけ?」
「あー、最後に一つだけ」
念のためもう一つ聞こうと彩音は一本指を立てる。
「なにかしら?」
「夜のアパートでゲリラライブなんて……………してないよね?」
彩音はゆっくり間を置きまるであなたが殺人の犯人ですよね?と聞くように尋ねる。
「ぷっ、あっはっはっ、はーははははは!」
唯は突然タガが切れたように笑いだした。
「急に真面目な顔でなに言うかと思ったらアパートでゲリラライブとか……………ないない、ないよそれは」
唯は手を横に振り否定する。
「ゲリラライブくらいならやるかもしれないけどアパートでなんてやらないって、やるとしても人通りの多い駅とか繁華街でやるよ。アパートでやることなんてまずないから」
ここまで否定されては彩音が昨日会ったのは本当にただのそっくりさんのようだ。
「だよね、ありえないよねー。ほんと変なこと聞いちゃってごめんねー」
「いいのいいの、彩音ちゃんもそういう時あるよね」
「じゃあわたしもう行くから」
「今度一緒にお茶しましょっ」
「うん」
二人は別れそれぞれの帰路につこうとする。と、その前に彩音が振り向いて言った。
「ぼっくと、きっみのランデブッ」
唯が驚いた表情をして彩音の方を向く。
「いやー、アパートでゲリラライブしてた子が歌ってた歌なんだけどどうも頭に残っちゃって。聞いたことない?」
彩音は照れくさそうに言う。
「別に」
その時の唯の表情は今まで彩音には見せたことないような仏頂面だった。
一人帰路を歩く彩音が独り言を言う。
「一か八かカマかけたけどまさか当たりだったなんてねえ。ビンゴ!」
彩音はそう言うと虚空に人差し指を両手で向けた。
相原唯が彩音と別れた後、唯を見つめる者がいた。
「こんなところにいるとは好都合だ、ここでやってしまうか」
建物の影から唯を見ていた男、篠井がほくそ笑む。
篠井が影から出ると知らぬ男が二人出てきた。二人とも同じ前合わせの服を着ており妙な気配を出している。十一と相良だ。
「お前が篠井だな」
「相原唯はやらせないよ」
男達が口を開く、どうやら篠井の邪魔をするつもりのようだ。
「おいおい、この俺の邪魔をするっていうのか?」
篠井が十一達を睨みつける。
「邪魔だけとは」
相良が言う。
「思わんことだ!」
十一がそれに続く。
二人は腰のホルスターから特殊な形状の銃を取り出しトリガーを引く。
「うおっ」
たまらずジャンプして回避する篠井、だが光線は連続で飛び回避しきれず篠井は地面に落下してしまう。
「いってえ。けど、これでやられると思うなよ」
今の篠井は以前とは違う、トータルで給料の半分をはたいて手に入れた魔導ユニットがあるのだ。その力があれば並の相手など敵ではない。
「くらえっ!」
篠井がバッと腕を広げると周囲に大量の爆弾が出現し十一達に飛んでいく。
十一達はシールドを発生させ爆弾を防御する。しかし爆弾の量が多くシールドにヒビが入る。
「相良さん、これ以上の攻撃は危険です!」
焦る十一。
「耐えろ!今はそれしかない!」
相良はそう言うがヒビはすごく大きくなりシールドが破損してしまう。
『ぐあっ』
十一達は爆弾の強い爆発の威力に吹っ飛ぶ。
「なんだこれっぽちの力か。俺はもう行くぜ、目的があるんでな」
篠井は十一達の後ろを通り過ぎていく。
·
「ま、待て…………」
十一は手を伸ばすがその手は虚しく空を掴むだけだった。
「鬼龍、本部に連絡だ!」
相良が命令する。
「は、はい!」
★★★★★★★★★★
司side
ウィザードマテリアルの本部で待機してた僕達は十一さんから篠井が現れたという連絡を貰うんだけど豊太郎は最後まで聞かずオフィスを出て行ってしまったんだ。まあほっとくわけにも行かないから僕とさなえが追ってるんだけど。
「ちょっと豊太郎、勝手に部屋出てきちゃったけど大丈夫なの?」
「知るかよそんなの。それよりまずは唯の安全だ、あいつに何かあったらただじゃおかねえ」
今の豊太郎は猪突猛進、暴走列車だ、自分で止まろうとしない限り走り続けるだろう。
「前から気になってたけど豊太郎て相原唯のこと好きなの?」
さなえが突拍子もないことを聞く。今聞くようなことかなそれ。
「べっ、べべべ別に俺はあいつの好きとか愛してるとかじゃなくてだな…………」
うわ、暴走列車かと思ったけど案外あっさり止まったんだけど。こいつも結構単純だな。
「愛してるのか」
アマツカが聞く。それは確認かい?
「してねーよ!俺はあくまで一ファンとしてだなー、彼女の安全をだなー」
必死に否定する豊太郎。
「だとしても今までの君の唯ちゃんに対する見方とか振る舞いはファンていうか一部熱狂的なファンのそれだよね」
僕は嫌味ぽく言ってみる。
「う…………」
言葉に詰まる豊太郎。
「一部熱狂的なファンてなーに?」
「ファンの中でもより強くそのコンテンツを愛する少ない割合で存在する人間達、とでも呼ぼうか」
ヴァミラとガルムが人類の文化について話し合ってる。いや君らそこはあんま興味持たなくていいからね?
「へー、ホータローてその一人なんだ。すごいねー」
「お、おう。俺はすごいんだぞ」
豊太郎が胸を張る。
「すごくないから、ただの変態だからそれ」
僕はすかさず突っ込みを入れる。
「ホータローてヘンタイなの?」
「うん。相原唯という偶像を追いかけて興奮してる変態、それが二宮豊太郎なの」
さなえがヴァミラに言う。
「わーホータローのヘンターイ」
ヴァミラが叫ぶ。
「てめえ俺のヴァミラに何教えてんだ!俺が変態だって噂がビル中に広まるじゃねえか!」
豊太郎が怒ってさなえを揺する。
「事実だから問題ない」
「が、じ、事実…………」
非情なさなえの言葉を受けて豊太郎は呆然とする。
「じゃ、行こっか」
僕はみんなに呼びかける。
「いいの?」
さなえのこのいいのは他の人に勝手に飛び出してるけど本当にこのままわたし達だけで相原唯を助けていいの?という意味だ。
「いいんじゃない?善は急げて言うし。それに部隊決めたり出動の準備してる間に唯ちゃんが殺されたらおしまいだよ」
「それは一理あるな」
「わたしも賛成だ」
頷くガルムとアマツカ。
「分かった、行こう」
「ちょ、待て!置いてくなー!」
屋上に向かうエレベーターに乗ると動く前に豊太郎が入ってきた。
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