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魔導奏者りりかさん  作者: 兵郎
十九章アイドルと豊太郎
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二百二十三話 マネージャーの憂鬱




「あの野郎、よくも唯のライブを。ぜってえ許さねえ」


ライブ会場からの帰り道、豊太郎はまだ怒っていた。怒っても仕方ないんだけどな、犯人逃げちゃったし。


「大丈夫?恐くない?」

さなえが唯ちゃんを心配する。


それに対して唯ちゃんは


「心配してくれてありがとう。でも大丈夫、みんながいてくれるから」

て答えた。


いい子だなー、健気だよこの子は。


「大丈夫だよ唯ちゃん、唯ちゃんのことは僕達が守るから」

僕も唯ちゃんに声をかける。


「司くんもありがとう、でも無理はしないでね 」


「うん、気をつける」


「だが四六時中彼女を見張るのは無理がないか?お前達にも学校がある、今を生きる若者として学業を疎かにするわけにはいかないだろう」


アマツカが後ろの席から言った。この車は後部座席が二つある車だからアマツカやヴァミラ、ガルムも座れるんだ。一つ目の後部座席には僕とさなえ、豊太郎、唯ちゃんがいるんだ。彩音ちゃんは助手席のとこにいる。


アマツカの言葉は正しいには正しいんだけどここでそれを言うのは野暮って気がするんだけどな。


「大丈夫大丈夫、唯ちゃんのお家にはもう組織の人が陣取ってるから。魔法使いだから簡単にやられることもないし 」

彩音ちゃんが言う。


「それじゃあ安心だね」


「よかったよかった」


「いや、俺は唯の家に泊まりこんで犯人をおびきだす、そしてこの俺がぶっ飛ばす!」

豊太郎が拳を握り締める。


「ホータローかっこいー」

ヴァミラが拍手する。


「だからお前達は学生……」

「明日は日曜だ」

アマツカの言葉にガルムが言葉を被せてくる。


「なら問題ねえな。いいだろ?唯」

ガルムの言葉に豊太郎が唯ちゃんに承諾を取ろうとする。


「えっと………」

うん、返答に困ってるみたいだね。


「豊太郎やっぱりだめだよ、そういうのは」


「お姉さんやお爺さんが心配する」


「分かったよ、ちぇ…………」



★★★★★★★★★★★



相原唯の元マネージャー篠井は唯のライブを襲撃するも邪魔が入ってしまいやる気を削がれ逃げていった。その後どこへ行くとも分からずさまよっていた。


篠井は唯がアイドルとしてデビューした時から担当していた。まだ名の知らぬ彼女のために色んなテレビ局や雑誌の出版社へ行き彼女の魅力を伝えた。色んな仕事を持ってきた、その苦労は計り知れない。


デビュー当初は新人ということもあり容易に仕事が手に入った、しかし彼女自身に魅力がないのか最近ではあまり仕事が入らなくなってしまった。そこで篠井は水着という露出度のある衣装でグラビアに出せば彼女の人気が復活するのではと思った。だが彼女は絶対にyesとは言わなかった、おまけに芸能事務所の社長を利用しとうとう自分をクビにしてしまった。本当に解雇されたわけではないが彼女のマネージャーを降ろされたのでは実質解雇と同じではないか。


篠井は今まで唯のために頑張ってきた自分の努力や行いを否定された気がしてむしゃくしゃしてしまった。そんな時魔法使いという力をくれるという男と出会い唯のライブを襲撃することを思いついたのだ。


「あー、くっそー!なんだっていいとこで邪魔が入るんだよ!」


篠井は襲撃が失敗したことに苛立ち空き缶を蹴る。コーンといい音がし遠くに着地する。


空き缶を飛ばすも怒りは晴れずむしゃくしゃする。


「どうすりゃいいんだくっそー!」


本当にどうすればいいのかわからない。そうだ、唯の住所は知っている。唯の自宅を直接襲撃してはどうだろうか、きっと唯も恐怖におののくだろう。


そう思った時、後ろから何者かが声をかけてきた。


「何かお困りですか?」


以前魔導ユニットとやらを売ってきた男だ。ステッキを持ち白いタキシードに白いシルクハットという白づくめの出で立ちで顔には中年の証であるしわが刻まれている。


「おい、邪魔が出るなんて聞いてないぞ!」

篠井は男に抗議する。


「おや、今回は邪魔が入らないと思いましたが意外ですねえ」

男はとぼけたように答える。


「まあいいさ。なにせ俺はこれから唯の家を直接襲いに行くんだからな」

篠井が勝ち誇ったように言う。


「それはいいですねえ。そうだ、どうせなら新しい魔導ユニットを買いませんか?前のものを返品して追加料金を払う必要がありますが性能は遥かに上がりますよ」


男がキャッチセールスのごとく商品を売り込む。


「マジか、それはお得じゃねえか」


篠井は興奮する、魔導ユニットという特別なものとはいえやはりお買い得なものがあるなら欲しいというものだ。


篠井はさきほど使った魔導ユニットを差し出し追加料金の銀行振込用の用紙と新たな魔導ユニットを貰うのだった。

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