二百二十一話 アイドルとマネージャーの激突
「何度言ったら分かるんだ!お前にはもう水着しかないんだぞ!それなのになぜいつまでライブだのコンサートにしか出たがらないんだ!」
オフィスでアイドルのマネージャーとおぼしき眼鏡をかけた小太りの男が少女に向かってわめく。少女の名は相原唯、アイドルをやっているが最近CDの売り上げが伸び悩んでいるためマネージャーに人気復活の手段として水着を着てグラビアに出るよう何度も言われてるのだ。
「そっちこそ分かってない!こっちはアイドルなの!モデルじゃないの!歌を歌う人で水着なんてやたら露出度高い服なんて着て人前なんか出たくないの!」
唯も負けずに反論する。
「なにをー!今まで誰に育ててもらったと思ってるんだ!お前にいくらの金がかけたと思ってるんだ!」
唯はマネージャーのその言葉に自分の堪忍袋の緒が切れる音がした。今までこの男の小言にも我慢してきたがもう限界である、我慢がならない。
「頭きた!」
「失礼します」
唯は芸能事務所の社長室に入りマネージャーも中に入る。
「どうしたの唯、そんな慌てて」
髪をアップにまとめた落ち着いた雰囲気の女性が出迎える。
「社長、彼をマネージャーから外してください!今まで我慢してきましたがもう耐えられません!水着なんてやりたくないんです!わたしはアイドルなんです!」
唯は社長に懇願する。
社長はため息を間を置いたがすぐに答えは出た。
「分かったわ。篠井くん、あなたには今日から唯のマネージャーを降りてもらうわ。しばらくは事務に専念しなさい」
「そんな!あんまりです、急にそんなこと言われても困ります!」
「これは社長命令よ、これ以上あなたがいると彼女の芸能活動に支障が出るわ」
篠井は抗議するも社長に跳ね除けられてしまう。
「分かりました」
不服だが篠井は命令を聞くことにした。部屋を出る篠井。
「唯、そろそろライブの日だけど大丈夫よね?お母さんが亡くなったばかりで中止とかした方がいいかしら?」
「そんないいですよ別に、わたし大丈夫ですから」
唯は社長の申し出を丁重に断る。
「本当に?無理とかしなくていいのよ」
社長の声色には本気で唯を心配する優しさがある。
「大丈夫です、わたしそんな弱くありません。それに、友達もいますから」
「友達?」
「はい。正直母が死んでわたしも死んじゃおうかなて思う時もありました。けど、わたしを励ましてくれた人がいたんです。最初は一人でしたけど、一人がたくさんの人を呼んでわたしを支えてくれました。だから大丈夫です」
唯は豊太郎と会ったこと、豊太郎のクラスメイト達が探しに来てくれたことを思い出しながら言った。
「そう。よかった、あなたに仲間がいて、きっと天国のお母さんも喜んでるわ」
「社長もわたしのアイドルとしての仲間ですよ」
唯の思わぬ言葉に社長は目をきょとんとさせてしまうがすぐに笑って言う。
「言ってくれるじゃない。次のライブ、彼らのためにも頑張りなさいよ」
「はい!」
★★★★★★★★★★★
豊太郎side
ある日、俺がいつも同じようにヴァミラと大見え橋を走ってると唯に会った。
「おはよっ、豊太郎くん」
「ユイ、オハヨー」
ヴァミラが唯に挨拶する。
「よう、どうしたこんなところで」
「用がないと会いに来ちゃだめかしら?」
唯のミステリアスな表情にドキッとしてしまう。なんだよこいつ、初めて会った時はあんなだけどなんで今はあんな可愛いんだよ。
「べ、別になくてもいいけどさ」
俺は顔が赤くなってるのを悟られないように唯から顔を反らす。
「ていうのは冗談で、ここにわたしのライブチケットが五枚あるんだけど持ってかない?」
なんだ、それが目的か。
「くれんのか?」
「もちろん、司くん達も連れてってあげなよ」
「ああ、ありがとな!」
俺は唯からチケットを貰う。ん、五枚?俺、司、彩音、さなえは決まりだろ。後は……………誰を誘おうか。
「司くんと、さなえちゃんに彩音ちゃん、あとアマツカくんでしょ」
「あ、そっか。あいつも一人としてカウントするのか」
「だめだよ友達のこと忘れちゃあ」
「すまん………」
「チケットは五枚しか貰えなかったからクラスの他の人も誘ってあげてね」
「ああ」




