二百二十話 アイドルに魅入られた者達
魔導奏者りりかさん220
僕達に気づいた唯ちゃんが顔を上げる。
「あなた達は?」
「豊太郎の友達って言ったら分かるかな」
「豊太郎くんの友達がなんのよう?」
「どうして豊太郎に本当のことを言わなかったんだい?別にあいつなら本当のことを言っても受け止めてくれると思うけど」
「橋から落ちようとして助けられた時、一目彼を見た時思ったの。あれは優しい人の目だって、わたしのお母さんが死んだって言ったらきっとショックでわたしを励ますどころじゃないから」
はかなげに言うその子の瞳にはうっすらと涙が浮かんでて、それはきっと家族を失った悲しみとかじゃなくて豊太郎の優しさに対する涙に思えた。
「あー、それはありうるね。僕も前泣きつかれた時あるし」
豊太郎って馬鹿に見えるけどああ見えて繊細ていうかもろいていうか。
「でも彼はそのことを知ってしまった」
さなえが言う。
「え、どうして…………。本当のことを知ったらきっとあの人は悲しむ、なのにどうして…………」
唯ちゃんがさなえの言葉にショックを受ける。
「悪いね、てっきり豊太郎は知ってるかと思って言っちゃった。てへ」
僕は舌を出す。
「てへって………」
唯ちゃんが僕の仕草に引いてる。
「唯ー!どこだー!いるなら返事してくれー!」
橋の上から豊太郎の声がした。
「時間だ、あいつに会いに行こうか」
アマツカが現れ唯ちゃんに言う。
「うわっ!なにあなた、急に出てきたんだけど」
唯ちゃんがアマツカにびっくりする。まあいきなり男の子が出てきたらそうなるよね。
「僕の友達、アマツカだよ。空を飛べる特技があるんだ」
僕はアマツカを紹介する。
「えっと………ヴァミラくんみたいな子?」
「ヴァミラを知ってるんだ」
「ならわたしもガルムを出す」
さなえがMギアを構える。
「ガルムだ」
ガルムが出てくる。
「わー、可愛いー。ヴァミラくんとは大違いだよー」
唯ちゃんがガルムを抱きしめてなでる。ガルムも心地いいのか気持ちよさそうにしてる。
「俺は可愛いくないのか………」
アマツカが何かすねてる。
「君、前は肉体年齢僕と同じくらいだったよね?」
「だが今は幼児と大して変わりないがな!」
えっへんと言い張るアマツカ。その体完全に気に入ってるでしょ。
★★★★★★★★★★★★
クラスのみんなと一緒に相原唯に会った次の日のウィザードマテリアル、僕は彩音ちゃんやさなえ、アマツカやヴァミラ、ガルムとで相原唯のCD、恋のチューリップをかけていた。大音量、リピートしながられっつだんしんぐ!
『こーいーのー、チューリップー、かーがやーいてー』
歌詞もノリノリで歌う。
「うるせぇぇぇ!」
豊太郎がダン!と机を勢いよく叩く。
「音楽ってのはなあ、一人で静かに聞くもんなんだよ。お前らみたいに騒ぐもんじゃねえんだよ!」
すごい怒ってる。
「なに言ってるんだよ豊太郎、それ言ったらカラオケ屋さん潰れちゃうじゃん」
僕は反論する。
「ここカラオケじゃねえし」
「なによあなた達、アイドルとか好きなの?そういうタイプだった?」
梨李香さんが言う。
「最近はまった」
さなえが言う。
「いやー、最初は豊太郎くんがはまってたんだけどわたし達もなんか影響されちゃって…………今じゃこの通り」
彩音ちゃんが左手を奥に、右手にマイクを持つようなポーズをとって相原唯の真似をする。
「なに言ってんだ、アイドルと言えば今時二次元だろ。三次元アイドルとか今時古いって」
沙紀絵さんが馬鹿にしたように言う。沙紀絵さんはアイドルを題材にしたアニメやゲームが好きなんだ。
「それは違う、三次元があるから二次元がある。なにより生の迫力には勝てない」
さなえが反論する。
「はあ?二次元こそ神だろ!」
「二次元のすごさは認める、けど三次元を否定してはいけない」
「何言ってんだよ。おまえ前はあたしと同じで二次元アイドル追ってたじゃねえか!なのにどうして三次元の鞍替えなんてしやがった、あたしを裏切るのかよ!」
沙紀絵さんがさなえに指をビシイッとつきつける。いや意味分かんないし。
「はいはい二人とも落ち着いて、沙紀絵は高校生でしょみっともない」
美羽羅さんが止めに入る。
「ちっ、分かったよ」
指をしまう沙紀絵さん、この辺り物分りがいい。
「わたしは元より喧嘩する気はない」
さなえが言う。




