二十二話 博物館地下
司と美海は突如現れた隠し階段を見つめる。
「これって、鬼道って人が言ってた中枢のある地下に向かう階段ですよね」
美海が博物館入り口での話を思い出す。
「でも……、罠ですかね」
「たとえそうでも、行くしかないさ。ここを通れば五年前の真実が分かるかもしれない、そう思うと怖気付いてる場合じゃない」
美海は心配そうになるが司は躊躇わず進む。
「あ、わたしも行きます」
階段を降り通路を少し出たところに広間がある。そこで人の姿に気づいた司は広間に出る手間で止まる。
「あいた!」
美海が立ち止まった司に気づき顔をぶつけ司に口を塞がれる。
奥を向いていた広間にいる人物がこちらに気づいたのか後ろを振り向くがすぐに元の場所を向く。
「どうかしたかね」
「いえ、なんでもありません」
司の方を振り向いた人物がもう一人の人物にそれを指摘されるが気のせいだと思うことにした。
広間には二人の人物がいる、一人は中年の男性で髪を七三分けにし白いタキシードに白いズボン、白いシルクハットという全身白ずくめの格好に木目調のステッキを所持している。
もう一人は白髪の老人で髪をオールバックにし灰色のズボンに赤いチョッキ、赤い蝶ネクタイをしている。
「ありさの調子はどうだね?」
老人の方が口を開く。
「再調整まであと数日と言ったところでしょうか」
中年の方が答える。
「それはよかった、あまり遅くなって魔法使い達に私達の計画を邪魔されるわけにはいかないからね。女王が再びこの世に君臨すれば魔法使い達はあちら側の魔法使いの邪魔されず好きに動けるからね」
二人が見ている方向には巨大な水槽があり天井部分から中にいる少女にいくつものコードが繋がっていた。手脚が黒く巨大なものになっておりその先から長い爪が生え羽や角もありどれも歪な形状となり額部分には赤い石が埋め込まれている。最も少女は今眠っている状態なのでその真価を見ることはない。
司は二人の会話を聞き核心を得る。水槽の中にいたのは以前会った魔王院ありさという少女、さらにその外形から司が五年前戦った少女とも一致する。魔王院ありさと五年前の敵が完全に一致した瞬間である。二人の会話を聞くに今ならありさを容易に倒せる、しかし魔法使いではない美海を連れての戦闘を行うのは危険である。
司がそう考えたその時……
「司さん、あの水槽の中にいるのってなんでしょうね」
美海が声を出してしまった、それも広間に聞こえるほど大きな声で。
広間の男達が振り向く。
「おや、侵入者が紛れているようだね」
「どうやら私の思い違いではないようですね」
「頼めるかね?」
「お任せを」
中年の方が老人に頷く。
「ちっ。おい次女の方、ここは一端逃げるぞ」
「え、ちょっと司さん?!」
戸惑う美海をよそに司は彼女を抱えもと来た道を急いで戻る。
「お前達、なぜここに?」
地下通路を出て天使と悪魔の像の部屋に戻ると李梨花達四人が勢揃いしていた。
「なぜってこの部屋からすごい音がしたから地下の中枢てのがあると思って来ただけよ。てかあんた、また雰囲気変わった?」
李梨花が代表して司の質問に答える。
一方司は以前京之助と対峙した時同様神秘的な雰囲気を纏っていた。
「話は後だ。ここは危険過ぎる、早く逃げるぞ」
司の方はそれどころではない。
「どういう意味だよ?」
「地下で何か見たの?」
彩音と沙紀絵が口々に喋りだす。
「なんか水槽からコード出てて手脚が怪物みたいな女の子に繋がってました」
司いや、アマツカに抱えられたまま美海が地下で見たものを説明する。
「なにそれ、人体実験? 」
と魔法使いのエリアにいた李梨花。
「いや、人工魔獣の方じゃない?」
こちらは魔獣エリアを見た彩音だ。
「まさか……五年前のあいつ? 」
憶測を語る他の者と違い美羽羅は一人真相に気づく。
「そいつは眠っていたが敵の首領と側近もいた、今のお前達がやつらと戦うのは危険だ」
「あたし達でも危険て、どういうことだよ」
「あの二人は魔法使いのスペックを軽く上回る、天使一人がギリギリ倒せる程度ってことよ」
沙紀絵の疑問に美羽羅が答える。
「冗談だろ?」
「冗談言ってるように聞こえる?」
カツーン、カツーン、一同が会話してる内に地下からゆっくり革靴の音がした。
「まずい、やつらに鉢合わせする前に早く逃げるぞ!」
「うん!」
「わ、わかったわ」
「行きましょう」
「とにかく、ここは逃げるでいいんだよな」
「あ、わたしは抱えられたままなんですね……」
ー ー ー ー ー
フロアを走り急いで博物館の外に出る一同。
「て、どうやって帰るんだっけ」
帰る手段を思い出そうとして出入口近くのバス停に目をつける李梨花。
「そんな、あと40分はバスが来ないわ!」
博物館は街外れにあるため他のバス停まで行くのにも時間がかかる。
「どうすんだよこれ、帰れないじゃねえか!」
「こうなったら走って街まで……」
「やれやれ、ここから逃げられるとお思いですか?」
一同が慌てていると白ずくめの紳士が中から現れる。
「久しぶりだな、外道に落ちた裏切り者。こんなことをまだ続けているとは貴様は天使の風上にもおけんよ」
アマツカが紳士に嫌味を飛ばす。
「今度こそ、あたし達が始末してあげようかしら?」
美羽羅の方は不敵な笑みを浮かべながら挑発する。
「全く、口の減らない方々だ。そちらこそ女王相手に負けたのをお忘れですか?」
「ふん」
紳士の皮肉に鼻を鳴らすアマツカ。アマツカは五年前ありさを倒したのではなく相手が意識を失ったことで決着がついている。
「そんな、あいつ、は……」
そんな中、李梨花が紳士を見て驚愕に震える。なんと目の前にいる紳士はかつて李梨花の家族が死ぬ前に見た男と同じ顔をしていたのだ。突然現れた復讐相手に李梨花は戸惑うがすぐに魔導システムのペンダントを取り出す。
「魔法演奏!」
言葉と共にペンダントのボタンを押し魔法使いの衣装に変わる李梨花。
「ちょっと、さっきの話聞いてなかったの?!魔法使いじゃあいつには勝てないって言ったでしょ!」
「はぁぁぁぁ!」
美羽羅の制止を振り切り紳士に切りかかる李梨花。




