二百十六話 はすのみトレジャーハンティング終幕
今回でこの章は終わりです
焼肉屋を出ると商店街のスピーカーから声がした。
『トレジャーハンティングの挑戦者に連絡する!各店舗からの情報によるとスタンプを九つ集めたチームが出始めてるようだ、早くしないと魔法使いの証が他のチームに取られてしまうぞ!』
「ほんと?!じゃあ急がないと」
「あ、ちょっと」
絵里香ちゃんは僕の手からバッと台紙を奪って走っていった。は、はやい……………。
「絵里香?」
絵里香ちゃんを追う氷菓ちゃん。
「僕達も行こう」
真壁くんが誘う。
「うん」
僕とアマツカも続く。走ってて感じるけど腕いった、腕相撲の疲れ残ってて腕痛い。
最初の受付のとこに戻ると鬼道京之助がいた。まさか、間に合わなかったの、か…………。
「みんなー、魔法使いの証貰ったよー!」
絵里香ちゃんが円の形をした表面に宝石が散りばめられた本体にストラップのついた魔導システムを持って手を振ってる。あ、鬼道は元々一等には興味ないんだっけ。
「やったね絵里香ちゃん」
「おめでとー!」
僕達は絵里香ちゃんに歓声と拍手を送る。台紙は絵里香ちゃんのじゃないけどいっか、真壁くんも拍手してることだし。僕とアマツカは元から魔法使いみたいなものだから新しく手にする必要はないかな。
「おめでとさん、早速彼氏さんに晴れ姿を見せてやりな」
受付のおじさんが絵里香ちゃんに言う。
「だから違いますぅ」
口を尖らせて否定する絵里香ちゃん。
「いいからいいから、あそこで見せてやんな」
おじさんが後ろのステージを示す。バンドとかのライブに使いそうな広さだ。
「はい!」
そのすぐ後申し合わせたようにアナウンスが鳴った。受付のおじさんが連絡したのかな。
『たった今連絡があった!トレジャーハンティングの優勝者が決まった!中央ステージでお披露目があるぞ!是非来てくれ!』
しばらくしてステージ前に集まる人だかり。今日商店街の中にいる人達のほとんどがいるだろう。こんなにたくさんの人が集まってるのを見るのは滅多にないかもしれない。
ちょっと酔ってきた。
「アマツカは大丈夫?気持ち悪くない?」
「いや、問題ない。この程度で俺が酔うなどありえん………」
強気で答えてるけどちょっと青ざめてるな。
「アマツカ、ちょっと遠くに行こっか」
僕はアマツカと人混みから離れようとする。
「何を言う、俺は酔わないと先程行った、はず………」
と言いつつよろめくアマツカ。
「ごめんみんな、僕達ちょっと離れるよ」
僕は真壁くん達に言う。
「司くん大丈夫?」
「ちょっと人混みで酔っちゃって………」
「大丈夫かよ………」
氷菓ちゃんが心配してくれる。
「人混みから離れてればきっと大丈夫だよ」
「無理すんなよ」
「うん」
僕はアマツカと一緒に人混みから離れた位置に移動する。人がほとんどよりたがらないステージのわきだ。
「だから俺はいいと言っただろう」
まだ言ってる。
「無理しないでアマツカ、君が辛いと僕も心配なんだから」
僕は優しくアマツカに語りかける。
「司…………分かったよ。今はお前に従おう」
「どこのバカ親子よ天使共」
なぜか奈々子ちゃんも一緒にステージわきに来ていた。
「なんでいんの?」
「決まってるじゃない、わたしも人混みが苦手なのよ。正直言いづらかったけどあなた達が抜けてくれてわたしも抜けやすくなって助かったわ」
恥ずかしげもなく言う奈々子ちゃん。いるよねー、自分からは何も言い出さないくせに他の人が言うと乗っかる人ー。
「因みにあたしもいるぞ」
「なんでいるのさ!」
氷菓ちゃんもなぜか奈々子ちゃんと一緒に出てきた。
「だって知らないやつと一緒にいてもつまんないし」
そうか、もがさんも真壁くんも氷菓ちゃんにとっては今日会ったばかりだから知らない人って言っても違和感ないね。僕ももがさんのことは全然分かんないけどね。
「それでは優勝者の佐橋絵里香さんです、どうぞ!」
商店街の人に頼まれて鬼道京之助がマイクを持ち絵里香ちゃんを紹介する。
プシューという煙と共に絵里香ちゃんが出てくる。ただの商店街のステージなのにこんな仕掛けあるの?
「どうもー、佐橋絵里香でーす!本日から魔法使いになりましたー」
絵里香ちゃんが手を振るとキャーとかオーという歓声の中に絵里香ちゃーん!という僕達知り合いの歓声が混じる。中でも目立ってたのが絵里香ー!絵里香、絵里香、絵里香ー!というすごい連呼してる人がいた。ステージわきから見える位置にいたんだけどケーキ屋の店長だったよ。もしかして、絵里香ちゃんのお父さん?
絵里香ちゃんがバッと魔導システムのデバイスを構える。
「魔導演奏!」
デバイスのボタンを押して叫ぶ。その体が光に包まれ姿が変わる。その姿はいかにも魔法少女然としてて可愛らしいものだった。色はピンクで胸には大きなリボン、スカートや袖にはフリルが舞っていて頭には大きな帽子を被っていた。
正直可愛いね。
「絵里香ずるい、あんな可愛い衣装が魔法使いの衣装とか」
氷菓ちゃんが羨ましそうに絵里香ちゃんを見る。君の魔法使い衣装も一応ドレスなんだけどな。
「ふん、あいつにしては上出来ね」
奈々子ちゃんは腕を組んでふんぞり返ってる。なんでそんな偉そうなのさ。
「可愛いー!」
「キャー、抱き締めてー!」
絵里香ちゃんがポーズをとる度に黄色い悲鳴が上がる。一部おかしいの混じってるけど。
「絵里香ー!こっち向いてくれ絵里香ー!」
絵里香ちゃんのお父さんとおぼしき人が一眼レフカメラを手にパシャパシャ撮っていた。気持ちは分かるけど落ち着いてお父さん。
「ああ、まさか都市伝説にもある魔法使いにまた会えるなんて僕は感激だー!しかも僕は魔法使いが誕生する瞬間に立ち会っている、これは前代未聞だぞー!」
真壁くんもどこから持ち出したかデジカメで絵里香ちゃんを撮っている。君、絵里香ちゃんのお父さんと気が合うんじゃないかな。
★★★★★★★★★
絵里香side
ステージでのわたしの魔法使い姿のお披露目が終わってステージ裏にいるとひょうちゃん達がいた。
「みんなーわたしの姿どうだったー?」
「悪くないんじゃないの?」
て奈々子ちゃん。
「悔しいけどあたしにその衣装は合わないわね、立派なムー大陸の姫になりなさいよ」
もがちゃんが言う。
「ムー大陸のお姫様にはならないよ」
もう、もがちゃんはいつも変なこと言ってー。
「絵里香ちゃんこっち見てー」
「あ、はい」
真壁くんに言われてそっちを向くとデジカメを向けてパシャっと写真を取ってくる。
「もう一枚」
人差し指を立てる真壁くん。じゃあポーズでも取ろうっかな。真壁くんはパシャパシャと何枚も写真撮ってくる。
「もういいかな?」
「うん、こんなもんかな。フフフ………」
何か笑い方が恐いわだけど、変なことに使わないよね?
「いいよなあ、お前は可愛い服着れてさあ………」
ひょうちゃんが不満げに言う。そんなにこの衣装可愛いんだ。
「じゃあ、今度着せてあげるよ!」
「絶対だからな!」
あれ、なんか足りないような…………。
「司くんとアマツカは?」
「それなら司会のやつとどっか行ったわよ」
奈々子ちゃんが教えてくれる。
「イベントの受付する時話してたことと関係あるのか?」
ひょうちゃんの言葉が気になった。悪の組織って言ってたっけどあの人……………。
★★★★★★★★
司ide
絵里香ちゃんの魔法使い衣装のお披露目も終わって僕とアマツカは鬼道京之助と商店街から離れた喫茶店にいる。
「それで、話というのはなにかな?」
「君達が魔導システムをばらまく理由や事実は分かったよ。けど、イービルクイーンがアマツカを狙ったり占い館でたくさんの人を殺したりするのは何か違くない?」
「その言い分は最もだ、イービルクイーンの動向は組織の本来の目的から外れてしまっている」
「でしょー、なんでそんなことするのさあいつ」
「ふぅ………」
鬼道はコーヒーを口に含んで一呼吸置く。僕もそれに合わせる。
「イービルクイーン、旧魔王院ありさは元々対魔法使い用の抑止力として存在していた。折角魔導システムを売っても壊されては意味がないからね」
「そういえば五年前は魔法使いと戦う度にやつが襲ってきたな」
アマツカが口を開く。
「それ以上の力は元々必要なかったはずだ。だが君の言う通り彼女は占い館で無用な殺しをしている。加えて魔導ユニットの販売より自分の力を高めることや世界を支配することを野望にかかげ組織の大半もそれに賛同してしまっている」
ふーん、組織のトップが変わると組織そのものも変わるんだね。僕はコーヒーを口に含んで言った。
「ねえ、イービルクイーンに反対する人とかいなかったの?」
「みんなやつのカリスマ性に魅了されてしまったのさ、それにあの化け物じみた腕を見たら誰も逆らえんよ」
「む、確かに………」
組織の人がみんな魔法使いてわけじゃなさそうだしあの爪刺さったら痛そうだもんね。紗栄子さんが記憶なくすくらい。
「だが幹部クラスにも彼女のやり方に不満をもつ派閥もいる」
派閥、組織って大体一筋縄じゃなくて派閥とか露頭組むよね。政治家だって政党で一つてわけじゃなくて政党の中に派閥がいくつかあるし。
「そして彼らの意志と彼らに従った結果が先の暴力団同士の抗争、今回のイベントの賞品ということさ」
「今日のはともかく暴力団はやめてくれる?あれすごい疲れたんだけど」
「それは同意だな」
僕とアマツカは抗議する。
「あ、コーヒーおかわり」
アマツカが声を上げて店員さんを呼ぶ。
「コーヒーは駄目だよ、アマツカはまだ小さいんだから」
僕は注文を訂正する。
「なにを言う、俺もコーヒーは飲めるぞ」
「いやどう見ても君小学校低学年でしょ、飲めたとしても小さいからやめて」
アマツカは一応僕何かより実際の年齢は上だけど今は背が小さくなっている。
「むう、分かった」
納得するアマツカ。
「すいません、やっぱココアで」
僕は注文をどうとったらいいか分からなくなってる店員さんにココアをお願いする。
「かしこまりました、ココア一杯追加ですね」
店員さんが離れる。
「で、なんの話だっけ」
僕は鬼道に向き直る。
「暴力団になぜ魔導ユニットを渡したか、だったな」
「そうそう、それそれ。なんであんなことするの?やっぱ売れんの?」
「それもあるが暴力団は常に勢力争いで血気立ってるからな。自分らが特別だと思わせれば容易く戦ってくれる。暴力団同士が戦うこで力が洗練され、より強い魔法使いに成長していくという仕組みだ。実際君達も普段以上の力を出していただろう、特に君やサメの頭をつけた彼女は」
「見てたんだあれ」
「魔法使いの観察も我々魔導ユニットの売人の仕事だからね」
「で、これからは?」
「今回のように様々な場所に売り込みをしていく限りだよ。無論君達が邪魔をするなら容赦はしないが」
挑発的な笑みを浮かべる鬼道。
「そっちこそやり過ぎはやめてよね」
僕も同じような笑みを返す。
「なあ、ケーキ頼んでいいか?」
アマツカが言う。
「ケーキ?ええと…………」
どうしよう、イベントでもう高い金出しちゃったからこれ以上はあまり使いたくないんだけど…………。
「構わんよ、俺が金を出そう」
鬼道が名乗り出る。
「いいのかい?」
「ああ、君も子供であまり金がないだろう。ここは俺に任せてくれ」
「それは助かるよ」
この人、敵だけど意外といい人かもしれない。
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