二十一話 アンダーウィザーズ博物館
受付で京之助と別れた一行は美羽羅と李梨花、彩音と沙紀絵、司と美海はそれぞれ二人組で博物館の見学を開始する。
「これって司さんですか?」
「いや天使ぽいけど僕とは別人だからね?」
天使の像を見て司と間違える美海。司、美海ペアは天使や悪魔を模した像のある場所に来ていた。
「プレート?」
像の横にはプレートがあり次のような説明があった。
この世界は単一な存在ではなくこことは別の異世界というものが存在する、その一つが天界である。
天使には神とそれに従う天使が存在し世界の善悪のバランスを管理、統括している。
もしそれが乱れたならば神はただちに天使を遣わしその歪みを修正するであろう。
「えっと……これ本当に博物館の紹介文?」
「別に本当のことなら大丈夫なんじゃないですかね」
「そういうボケはいいから美海ちゃん。大体こんなの世間的に信じられるわけないじゃん。神話の一端か与太話で終わりだよ!」
「でもなんかこの像、本物の天使に見えるんですよね」
「やめて、なんだか恐くなってくるんだけど」
「あ、こっちに悪魔の像もありますよ!」
美海が天使の像の隣側を指す。石膏を素材にしているためか悪魔という闇の住人ながら白い色で構成されているアンバランスさが奇妙に映る。こちらにも説明用のプレートがある。プレートにはこう書かれている。
悪魔とは人の悪意が具現化したものである。人間世界とは違う世界に住み、気紛れで人間世界に現れ悪事を起こす。
また、悪事を働く人間を罰したり時には人間に召喚され人間に協力することもある。
プレートを読み終えた司。
「やっぱりおとぎ話かなにかだね」
「うわ、この人おっぱい大きいです。悪魔ていうかサキュバスさんです、催淫されそうです!」
悪魔の像の胸部分を触りはしゃぐ美海。
「なんで君はそういう話地味に知ってるのさ!あと展示品勝手に触ったら駄目だよ!」
「はーい」
「これは………!」
司はもう一つ際立った存在感を放つ像を見つける。それは司がかつて夢で見た過去の映像にいた怪物の少女そのものなのだ。なぜそんなものが、司は思わずそれを口にせざるを得なかった。
「あ、この人だけ手脚がごついですねー。なまらごっついわー、ごっつくてわくわくするわー」
美海が司の視線に気づき像の腕を触り始める。
「何を言ってるのさ君は」
「で、この人お知り合いですか?」
ふざけてるのか感がいいのかいきなり核心を突く美海。
「多分知り合いかな、あはは……」
自分達の切り札と思われる人物の像を作るとはどんな趣味だろうか。ここでは怪しげな偶像崇拝でもやってるのか。
プレートを見ると長い説明文はなく短く我らの切り札、古き世界を取り戻し世界に再び混沌をもたらすとある。
そうこうしてるとゴゴゴゴゴゴという音を立てながら少女の像が床ごと動いていく。
ー ー ー ー ー
一方、彩音と沙紀絵のペアは狼男やドラゴンなど神話のモンスターの模型が展示されているエリアにいた。
「なあなあ、彩音見ろよ!ドラゴンいるぜドラゴン!」
沙紀絵が飛び跳ねながらフロアを走る。
「へー、ドラゴンの模型とかすごいねー」
彩音が関心する。
適当にフロアを見てると彩音は気になるプレートを見つける。そこには文章が書かれており左上に魔獣と書かれている。
「なんで魔獣?え、え?」
辺りを見回す彩音、しかしそこには神話の怪物達の模型しかない。神話の怪物もある意味では魔獣と呼べる代物ということだろうか。プレートをこうある。
魔獣、それはこの世ならざる生き物と言われているが現実にも存在する。人間の恐怖や嫉み妬み憎しみと言った負の感情により発生しその凶暴性から人間達を襲う。古来より魔法使いや呪術師により魔獣は発見次第退治され現代の科学力の発展により発生数そのものが減少している。しかし魔獣はこの世の生き物と似た外見もある。キメラや龍に関しては遺伝子操作や動物実験を行えば誕生させることも可能である。我が組織の科学力ならばそれが現実のものとなるであろう。
「だめ、さっぱり分かんない……」
プレートを読み終えた彩音は酷く混乱する。
「どうしたんだよ彩音」
沙紀絵が彩音の反応に驚き近づく。
「なんか魔獣は人間の負の感情から出てくるとか魔獣は人工的に作れるとかあってチンプンカンプンな話」
「なんだよそれ」
「さあ?」
ドラゴンの模型のところに戻った沙紀絵はドラゴン口の中が少々出っ張ってるのを見つける。
「なんだこれ?」
ポチッとな、 ゴゴゴゴゴゴとどこかで何かが動いたような大きな音がした。
ー ー ー ー ー ー ー
また別の組、李梨花と美羽羅は魔法使いの像があるエリアに来ていた。その中に魔法使いに関して説明文のあるプレートを見つける。
魔法使い、それは古より伝わりし異形の技。日本では陰陽道とも言う。占いや超常現象、気象操作などその力は多岐に渡り中でも戦闘能力はかなりのもので魔獣退治や戦争への加担もその一つである。かつて欧米の地の魔法使いは悪魔を召喚し自分達の肉体を強化する道具を作らせたという。その力により魔法使いは栄華を誇ったが様々な理由から民衆に蔓延していた恐怖心は魔法使いをそれらの原因と称し魔女狩りを始めた。魔法使いは魔女狩りを恐れある者は遠い異国の地へ、ある者は魔法使いであることを隠し続けた。最も恐れ知らずな一部の者もいたが。魔法使いを強化するユニットは魔法使いでない人間をも魔法使いにすることが可能である。いわば人類の進化系である。ユニットの数が増えれば人類の大多数が魔法使いになることが可能になり人類は新たなステージを迎える。
「ねえ、どういうこと?魔導システムが悪魔に作られたって、あれって人間が作ったんじゃないの?!」
プレートを読み終えた李梨花が魔導システムの由来に困惑する。
「多分その辺りの真実は消されて後世に伝えられたんでしょうね。人間が悪魔に頼って魔導システムを作ったなんて知られたら面子上問題だもの。そしてその話がここにあるってことはアンダーウィザーズは悪魔が管理してる組織てことになるわね。ま、実際そうなんだけど」
美羽羅がプレートの内容と魔法使いの伝承を擦り合わせるが李梨花は一つ気になる点を見つける。
「ちょっと待って、もしかして美羽羅ってアンダーウィザーズそのものについて何か知ってる?」
「勿論よ。お父さんや妹には秘密にしてたけどあたし十歳の頃から怪物退治やったり悪の魔法使いと戦ったりしてたのよ。あなたの持ってるその青い魔法使いの力でね。つまりあなたの先輩であり先代の海浦家の魔法使いてわけ」
軽くウインクする美羽羅。
「嘘でしょ、これあなたの使い古しなの……」
魔導システムのペンダントを取り出し驚愕に震える李梨花。
「中古品みたいに言わないでよ、実際先祖代々使い古してるけど」
「で、あんたがこれを使ってた時に敵の幹部に会ったってこと?」
李梨花が魔導システムのペンダントを示しながら尋ねる。
「そういうこと、悪い魔法使いと戦ってたから出てきたんだけど自分達の方から名乗ってたから間違いないわ」
「じゃあここに来る間悪魔だの天使の像がいたのは……」
「間違いなく自分らの趣味を広めるためでしょうね。
それよりも問題は魔法使いが人類の進化系て書いてあるとこね。組織の最終目標は世界征服でも自分達の功績を抹消した人類への復讐でもなく人類の総魔法使い化ね」
「それの何が悪いの?別にみんなが魔法使いになれるならそれでいいじゃない。面白そうだし」
悲観的に捉える美羽羅と反対に李梨花は楽観的でいる。
「はあ、分かってないわね。一般人が魔法使いになるってことは善悪も道徳もなってない馬鹿が魔法使いの力を使って悪さしたり下手したら死人が出るってことよ。あんたんとこの組織もそういう連中の退治やってるでしょ」
美羽羅が頭を抱える。
「そういえば最近その手の敵にでくわすような……」
「あんた、それでよくあたしの後釜なんてやってられるわね。大体なんであんたみたいなのが魔法使いやってるのよ」
「別にいいでしょ、そんなの」
「いいから話しなさい」
そっぽを向く李梨花に美羽羅は顔を掴み自分の側へ向かせる。
「わ、分かったわ」
美羽羅に迫力にガクガクと頷くしかない李梨花。
「………というわけよ」
「白ずくめの紳士………、まさかあいつが?」
美羽羅が何かに気づいたような顔になる。
「もしかして心当たりが?」
「確証はないけど多分そいつ敵の首領の側近よ、天使だけど悪魔に加担してる変なやつだけど」
「ごめん、意味分かんない。天使て?」
「アマツカみたいな白い格好のやつよ」
「アマツカって確か司が前に一度だけ自分のことそう呼んでたような……、でもなんで?」
「まさか天使は人類の味方なんて思ってるんじゃないでしょうねぇ。あいつは例外よ、たまたま人間の味方をしているだけ、やつらも所詮非人間、人間のことなんて神の作ったおもちゃ程度にしか思ってないのよ」
「なんか頭がこんがらがってきたわ…… 」
「それよりも敵の中枢を探すわよ。確か鬼道さんは地下にあると言ってたはず」
話題を変え当初の目的に戻る美羽羅。
「地下ってあんた、ここに来る前に他のところも回ったけどこの建物に地下に続く階段とか無かったわよ」
反論する李梨花。
「道は何もあたし達の見える範囲にあるとは限らない」
「どういうことよ」
「隠し通路、もしくは隠しスイッチがある可能性があるわ」
「隠し通路て漫画じゃあるまいし……」
「普通に探してないんだから他に何があるっていうの。いいからまずこの部屋から探して」
「はあ……?」
二人はプレートや像周辺を探すがスイッチや通路への入り口らしきものは見当たらない。
「ここにはないみたいね 」
「てことは他の部屋かしら」
この部屋での捜索を諦め別の部屋に移動しようとしたその時、遠くの場所でゴゴゴゴゴゴという地響きのような音した。
「ねえ美羽羅、今のって……」
「誰かが先に見つけたみたいね、行くわよ」
「ええ!」
音のした方向へ向かう二人。
次回、新たな敵幹部が出てくる予定です




