二百一話 人生ゲームと恋の話
「あー、そろそろ細かい話は終わりにしてゲームでもしよっか。あたし人生ゲーム持ってきてるんだ」
絵里香ちゃんが部屋の端っこにある箱を指す。さっき悠と豊太郎の部屋に移動したから置いてかれちゃったのか。可愛いそうに人生ゲーム。
「気分じゃない、俺は部屋に戻る」
部屋を出ていく悠。ちぇ、感じ悪いのー。
残ったのは豊太郎と雨生くん、氷菓ちゃんと絵里香ちゃんの僕を入れて五人、少ないな。誰か呼んで来よう。
「なら沙紀絵と雷香呼んでくるよ」
「あたしはふじのん呼ぼうっと」
氷菓ちゃんと絵里香ちゃんが動く。ふじのんて誰?
とにかく、さらに三人増えて八人で人生ゲームをやることになった。
「ねえ?やっぱり泊まりのイベントと言えば恋バナだと思わないかしら?」
人生ゲームのさなか、雷香さんがこんな話をしだした。
「はあ?なんだってそんな………」
嫌そうな氷菓ちゃん。
「恋バナ?するする!」
絵里香ちゃんはテンション高めでノッリノリだね。
「恋バナって、誰が誰を好きとか?あ、このマスあったり、と」
僕はマスの効果で自分のところにお金を増やす。
「司は誰が好きなんだよ?」
豊太郎がサイコロを転がしながら聞いてきた。
「いきなり?!あ、えーと………」
ちょっと返答に困った、せめて心の準備を…………て思ったら氷菓ちゃんがこっちを睨んできて絵里香ちゃんが顔のとこに拳持ってきてウインクしてる、そして雷香さんが僕のあごを持って自分に口に…………ちょ、これキスするパターンだよね?ちょっと、ファーストキスなんですけどぉー?!やばいやばいファーストキス取られるって。
「ていやー!」
絵里香ちゃんの足が雷香さんの顔に飛ぶ。
「おごふぁー!」
ほおに一撃を食らってふっとんだ。あうぅ、とても痛そうだ。壁際まで行って、気絶。北山雷香、脱落、これで人生ゲームの勝率が上がった。
「ハレンチ、撲滅、いずれもーマッハー!」
なぜか僕の前で決めポーズを取る絵里香ちゃん、とりあえず頷いておいた。
「あ、俺一回休みかよ…………。雨生、次お前な」
豊太郎の番が終わった。
「俺か」
サイコロを転がす雨生くん。
「で、話を戻すが………」
コマを動かしながら雨生くんが言う。
「えー、戻すのー?この空気でー?」
「ああ、お前はこのロッジにいる中でどの女が好みなんだ?」
「雷香さんはまず却下だね、スキンシップが強すぎる
」
あ、また氷菓ちゃんと絵里香ちゃんがまたこっち見てる。
「この二人でって言ったら絵里香ちゃんかな」
僕の言葉で顔に絶望が浮かぶ氷菓ちゃんとガッツポーズをとる絵里香ちゃん。
「なんであたしじゃなくてこいつなんだし」
氷菓ちゃんが絵里香ちゃんを指差す。え?選ばれなくてショック受けてるのにさらに自分から傷抉られに行くな?
「えーだって氷菓ちゃん小さいし」
ごまかすのも面倒なので正直に答えた。
「あたしはもう中学生だぞ!」
氷菓ちゃんが立ち上がって言う。て言われてもな、氷菓ちゃんたまに僕に抱きついて来るけど同じ中学生にしては小さいんだよな。
「絵里香ちゃん、ちょっと立ってみて」
「あ、うん」
絵里香ちゃんと氷菓ちゃんが並ぶ。頭一個分、とまでは行かないけど大分身長差あるね。氷菓ちゃんは背の順で並ぶと絶対一番前に行きそうな背丈。
「あー、みなっち小さいね」
絵里香ちゃんが氷菓ちゃんに頭に手のひらを近づける。その手を見て涙目になる氷菓ちゃん。
「あたしはチビなんかじゃなーい!」
氷菓ちゃんは部屋から脱走していってしまった。悪いけど氷菓ちゃんはチビだ、あいにく僕はおチビちゃんに興味はないんだ。可愛いのは認めるけど。
『これで一人脱落』
僕と絵里香ちゃんは同時にガッツポーズを取る。
「最悪だなお前ら」
豊太郎が僕達をジト目で見るけど気にしない。
「じゃあ司は絵里香が好きなのか?」
沙紀絵さんがサイコロを回しながら言った。
「うーん、それも何か違うような…………」
僕は言葉を濁ませた。
「えー、あたしじゃないのー?」
口を尖らせる絵里香ちゃん。
「大体さあ、絵里香ちゃんと僕って最近会ったばっかじゃん。なのに好きとかどうかなんて言われてもなあ………」
「えー、じゃあ他に誰かいるのー?」
絵里香ちゃんに言われ沙紀絵さんやさなえに目が行く、そして右へ、上に、梨李香さん達の顔を頭に思い浮かべていく。梨李香さんに美羽羅さん、美海ちゃんと彩音ちゃん、奈々子ちゃん、この中で…………ておおっ、僕の周り女の子おおっ!この部屋だって四人いるのに向こうにも四人とか多いよ、男子は合わせても四人しかいないのに。ゆっくり考える、この中で誰がいいか………。
「梨李香さん……………?」
思わず口から出る名前。周りからほう、マジかよ、ええーという声が漏れる。
「梨李香さんかあ、あの人サバサバしてるけど俺達によくしてくれたよな」
豊太郎が言う。
「でもリリイちゃんそんな可愛いくなーい」
絵里香ちゃんが口を尖らせる。
「あいつ基本魔獣倒すか魔法使い倒すしか頭にねえからな、脳筋?」
沙紀絵さんが言う。
梨李香さんの評価バラバラなんですけどー、梨李香さんていい人なの?ダメな人なの?
「で、その城野が好きと」
雨生くんが結論を言う。
「あ、いや、好きていうか、無意識に出たていうか………」
だめだ、なんとか違うて言おうとしたいいけどいい理由が出ない。
「無意識に………」
「重症だね………」
雨生くんと絵里香ちゃんが口を開く。
「だからぁ違うって!」
僕は必死に否定する、なんか恥ずかしくてたまんないよ。
「つかっちー、あたしの番終わったよー」
「あ、うん」
絵里香ちゃんからサイコロを受け取る。
「梨李香さんは確かに頼りがいあるし強いけどやっぱり女の人として好きっていうより仲間として好きって感じかな」
そういえば梨李香さんの女らしい部分てあまり見ないな。メイクもあまりしないし私服も長いズボンで濃い色のジャケットっていう男っぽい感じだし暇な時はデスクでぐーたらポテチ食べてて……………、梨李香さんて本当に女の人?て感じする。そのくせ戦いにはアクティブ過ぎるしやっぱ沙紀絵さんの言う通りゴリラになるのかな。
「やっぱあいつ女っつうかゴリラだな」
沙紀絵さんがバッサリ切り捨てた。
「あ、宝くじ当たった」
『えー!』
僕はマスの効果でおもちゃのお金を大量に自分のとこに置く。その時、部屋の空気変わった。誰が誰を好きとかそんな話しなくなった、いわばこっからはガチ人生ゲーム、遊びなど…………そこにはない。
それから僕達は何度か人生ゲームをやることになった。いいマスに止まり得をするか、悪いマスに止まってイライラするか、僕達は一喜一憂した。
人生ゲームにも疲れてゆっくり休む僕達。
「で、二宮はどの女が好みなんだ?」
再び恋バナの話を持ってくる雨生くん。
「今度は俺かよ!さっきので終わったかと思ってたよ!」
急に指名されてびっくりする豊太郎。
「あー、俺は………」
ゆっくりと豊太郎の顔が雷香さんの方、というか雷香さんの大きいおっぱいに向いていく。今の雷香さんは絵里香ちゃんにやられたままの体勢で夢の底にいた。濃いピンクのキャミソールの肩ひもがズレたりはだけてお腹をだらしなく見せていた。キャミソールから胸が覗いてるけど今の雷香さんに色気と艶っけというのはみじんもないね、ただただだらしないよ。
「やっぱおっぱいだろ」
豊太郎が雷香さんの胸以外は無視して爽やかな顔でサムズアップしてきた。清々しいくらいに男子の欲望に忠実だよ。
「じゃあ、触ってみる?」
ちょっと提案してみる。
「いいのか?」
「今雷香さん寝てるし、ちょうどいいんじゃない?」
正直僕はちょっとしたイタズラ心が湧いていた。
「ゴクリ………」
豊太郎がのどを鳴らして雷香さんに近づいて行く。ゆっくり、ゆっくり、その足を進める。そして雷香さんの胸に手を………
「て、ほんとに触る馬鹿がいるかこの変態がー!」
できなかった、絵里香ちゃんがすごい勢いで飛んで豊太郎に蹴りを浴びせたんだ。豊太郎は吹っ飛んでぶつかる。
「うそだろ、おい…………」
そしてガクリと倒れた。ハレンチ二号、ここに死す。
「そういえば雨生くんさっきから僕達に誰が好きかって聞いてるけど君は誰かいるの?」
何事も無かったように僕が聞いた。
「俺か、俺の場合…………花村だな」
「沙紀絵さん?」
「あたしかよ」
「理由は?」
「名前がいい。まず名字に花があるという時点で美しい。そして下の名前の沙紀絵、まるで海や浜辺にでもいそうな名前じゃないか。海辺に咲く可憐な花、素晴らしいじゃないか。そしてその名に合わぬ粗暴な性格、それでいながら近日再会してから時折見せる繊細さ。もう、食べてしまいたいな」
雨生くんが身振りをまじえながらじょう舌に話してくる。雨生くんのこういうとこたまに見るけどクールな時とじょう舌な時のギャップがすごいな。
てか食べてしまいたいてやばくない?ほら、沙紀絵さんが雨生くんから遠ざかってるよ。
「なあ、あたしそろそろ部屋に戻っていいか?」
沙紀絵さんがおそるおそる口を開く。
「いいけど、雷香さん連れてって」
「無茶言うなよ、あたし女だぜ?同じ女が相手でも人間背負うとか無理だっつーの」
魔法使いなのに根性ないなー。
「なら俺が行こう」
雨生くんが名乗り出る。いやいやいやそれはだめだ。
『お前はいい!』
大合唱で雨生くんを止める。やめて、雨生くんに女の人とか触らせたらそのまま18禁的プレイをしかねないから!
「じゃあ俺がやるわ」
今度は豊太郎が名乗り出る。
「今度こそおっぱい触れるね」
僕は親指を立てて返した。
「食べるのはだめで胸触るのはいいんだ………」
絵里香ちゃんがなぜかジト目で言う。
「いいんじゃない?」
「駄目でしょーが!」
今度は僕が吹っ飛ばされた。今度も足で一撃、お腹が、お腹が痛いよ…………。
「司………」
珍しくさなえが口を開いていつもと変わらない顔で僕を見てきた。
「失望した」
ぐはっ。なんだろう、短い言葉なのに心に深い傷を負わされた気分だよ、よよよ…………。
「因みに豊太郎にも失望してる」
「うっ……」
胸を苦しそうに抑える豊太郎。君も心に傷を負ってしまったんだね。
そして今度は雨生くんに顔を向けるさなえ。というか雨生くんが自分はどうなんだて期待した顔でさなえを見てる。
「あなたは元々信用してない」
「失望されなくて嬉しいのか信用すらされてなくてがっかりなのか微妙な気分なんだが」
苦虫を噛み潰したような顔の雨生くん。
雷香さんは結局沙紀絵さんが背負って運んで行った。
「もうこんな時間だし、あたしも部屋に戻るよ」
絵里香ちゃんが言う。
「おやすみー」
「また明日ねー」
部屋を出る絵里香ちゃん。
さなえも立ち上がる。
「夜這いとかしたら殺す」
「しないからそんなの」
「俺とお前の仲だぜ?そんな変なのやらないって」
「ほう、それは誘ってるのか?」
僕達は否定したのに雨生くんだけ全力で夜這いする気満々なんだけど。別にお笑い芸人の振りじゃないからね?押すなて言ったら逆に押せって意味じゃないからね?夜這いとか本当にしたらすごい変態さんだからね?!
「アマツカ、こいつ見張っといて」
「分かった」
なぜか雨生くんにアマツカの見張りを頼むさなえ、大丈夫かな。
今回もお読みいただきありがとうございます。お泊まりの回と言えば恋バナ、といいつつおっぱいの話しかしてません。変態でごめんなさい。ブックマークや評価もお願いします




