百九十七話 岩避けの修行
僕達Mギアチルドレンは播磨さんと一緒に熊と猪の肉を解体、余った分は乾燥室に置いて干し肉として保存、皮とかは記念にとっとくんだって。
次に播磨さんは木の実チームが選別した山菜を確認する。梨李香さん達は素人だからね、図鑑を見たとしても一応確認しないと。
僕達が作業してる間釣り班がバーベキューの網と台を用意する。
準備が整って食材達が火のついた網の上に置かれ焼かれていく。僕達は焼けた食材から口に入れていく。
「食事しながら聞いてくれ!昼食の後三十分くらいしたら次の修行を始めるぞい。くれぐれも勝手に外へ行くんじゃないぞ」
とのことなので僕達はお昼休憩もそうそうにまたロッジの外にあつまった、からの川原に移動。さっき熊を狩ったとこだね、川原のはしっこのとこに岩が山積みされてる。
「なあ、こんなとこまで来てなにすんだよ」
豊太郎が聞く。
水吾郎さんは岩が集まってるところに歩いてく。ん?嫌な予感がした。そして片手でぐぐぐと腕の筋肉がはち切れるくらいな力で岩を持ち上げた。おじいちゃんなのにすごい筋力。で、もう片方の手も同じように。あ、あああ…………、まさか、まさかこの人は…………
「今からお主らに岩を投げていく、それを全て避けて見せるんじゃ!」
やっぱりー!
「いや、それ無茶だろ。あたったら死ぬって」
「そうよ、やめましょうよおじいちゃん」
豊太郎と美羽羅さんが慌てて止める。
「甘いわ!お主らを鍛えるにはこれくらいの厳しい修行がいるのじゃ!さあ覚悟せい!」
向こうは本気だ、やるしかない。
「ふん!」
まず二つ岩が飛ぶ。
「任せて!」
「オレにやらせろ!」
ヴァミラとレオパルドが前に出て火炎弾とエネルギー弾を飛ばした。岩に命中、ドガァン!砕け散る岩、そしてガラガラと地面に落下していく。水吾郎さんと岩の残骸との距離、5メートル。僕達と岩の残骸との距離、10メートル。全然届いてないねこれ。
水吾郎さんが悲しくなり肩を落とした。あーあ、折角頑張って僕達の修行考えてくれたのに。
「お主らあっ!台無しじゃろうがぁ!」
叫ぶ水吾郎さん。ああ、空しい、彼の苦労が台無しになった瞬間が空しい。
「ごめんなさい」
「すまない、これはやるべきことではなかったか」
謝るヴァミラとレオパルド。悪気ないけど悪さになっちゃうのって流石モンスターて感じするね。
再び水吾郎さんが新たに岩を持ち上げる。
「いいか、壊すんじゃないぞ、避けるんじゃぞ」
念を押してくる水吾郎さん、逆に岩を壊したくなるのは気のせいかな。
投げられる岩。避ける僕達、新たに充填される岩、三度目の投石。なんかあれ壊したくなってきたな、矢とかビーム撃って壊そうかな……………そう考えてると岩が真っ二つになった。岩を切ったのは紫色の輪っかだ。その技を知る僕達は技を打った主を見る。
奈々子ちゃんがちょうどフリスビーを投げたみたいなフォームで固まってる。
「わたしが悪いっていうの?だってあれだけ壊すなって言われれば逆に壊せって意味でしょ?!ねえ?!」
奈々子ちゃんがまくし立てるように言い訳する。僕も同じこと考えてたけど本当に壊しちゃだめだよ…………。
「お主……」
水吾郎さんが悲しい声で言う。
「はい」
「向こうで座っておれ」
「あ、はい」
僕達からずっと離れたところに移動させられる奈々子ちゃん。折角修行に来たのに、残念。僕がやらなくてよかったよ。
空にオレンジの光がかかり夕暮れを告げる。
「ふむ、もういいじゃろう、今日の修行は終わりじゃ!帰って風呂にするがよい」
水吾郎さんが修行の終わりを告げた。
「はぁ、はあ…………」
「ぜえ、ぜえ………」
僕達は飛んでくる岩を何度も避けバテバテになっていた。この状態で、ロッジまで、帰るとかむりぃ。
中には途中で恐がったり体力の限界を感じて自分から岩が届かない位置まで逃げる人もいた。特に一番早かったのが氷菓ちゃん、まだちょっとしかゼエゼエ言ってないのに体力の限界来る前にすぐ逃げてた。さなえが二番目、他の人よりは早いけどヨロヨロするまで頑張った、逃げる時は脱兎て言葉が似合ってたけど。悠が三番目、なんでMギアチルドレンの俺がこんな目に遭わなければならないんだ!て叫びながら逃げてった。四番目は雷香さん、モデルがこれ以上体力使ったら仕事に支障が出るわて決め台詞言いながら去っていったよ。
最後まで残ったのは僕と豊太郎、絵里香ちゃん、梨李香さん、美羽羅さん、美海ちゃん、沙紀絵さん、彩音ちゃん、雨生くん、アマツカとモンスターのみんなだ。魔法使いとして戦ってた人達や人外はともかく豊太郎と絵里香ちゃんが耐えられたのはすごい。
岩を避ける修行を終えてロッジに戻った僕達は水吾郎さんに言われた通りお風呂に入ることにした。ていうか大浴場だよ大浴場!テンション上がるよー。流石は林間学校にも使えるロッジ、お風呂も広いや。
「いちばんぶろだー!」
「初乗りは渡さん!」
ヴァミラとガルム、レオパルドが一目散に湯船に向かって走ってく。ガルムはオスだから男湯に入ることになったみたい。あ、ちょっと。そして湯船にジャボンと入る三匹。
「僕の一番風呂が………」
僕の延ばした手が虚しく宙を漂う。
「馬鹿か貴様らは!体を洗わずに湯船に浸かるやつがいるか!そんなことをすればヤクザの大王にしばかれるぞ!」
雨生くんのお説教が飛ぶ。ヤクザの大王て誰?
「ごめんなさーい」
「悪いことをした」
「もうしわけない」
ばつが悪そうに戻ってくるヴァミラ達。
「ほら、俺が洗ってやるからこっちこい」
「レオパルド、お前も来い」
豊太郎と悠がそれぞれのモンスターを呼ぶ。
ガルムだけ相手がいなくなってキョロキョロしてる。
「ガルムは僕が洗ってあげるから大丈夫」
僕の言葉にウンウンと頷くガルム。その仕草はちょっと可愛いかった。
僕はガルムの毛がふさふさした体を石鹸とタオルを使いながら丁寧に洗ってあげる。
「さて、お前のことは俺が洗ってやろう」
「いい、体を洗うなど私1人で………」
「いいから任せろ」
「おい、やめ、やめろー!」
アマツカが雨生くんに洗われてるけど気にしない。
「おい司、どうにかしろ!」
アマツカが叫ぶ。
「雨生くん、アマツカのことちょっとお願いね」
「任せろ」
「司…………見損なったぞ………」
アマツカが涙目で言う。いや泣くほどのことかなあ。




