十五話 決戦!李梨花対美羽羅
今回の決戦で李梨花と美羽羅の話は次のエピローグ的なので一端終わりになります
外出から戻って来た美羽羅は居候先である黒羽家のポストから白い封筒のようなものが飛び出ているのを見つける。警戒しながらも手にしてみるとそこにはかなり達筆な字があり墨で果たし状と書かれていた。ネットワークが発達した今時に誰がこんな凝ったものを思わざるをえない。美羽羅の警戒心は更に増す。果たし状を開いてみると次のような文章があった。
海浦美羽羅、魔法使いの名誉と力を賭け我と勝負せよ。
明日正午町外れの廃工場で待つ。
城野李梨花
追伸
あ、勝つのはあたしだから。くれぐれもよろしく。
「城野李梨花……、あたしを馬鹿にして……。覚えてなさい!」
美羽羅の手の中で果たし状がグシャリと潰れる。
「それで今ウィザードマテリアルのご子女の様子はどうだい?」
紗栄子と向かい合い喫茶店で男が聞く。男は黒いスーツとネクタイ、ピンクのシャツに金のカフスボタンという裕福な風貌をしている。ウィザードマテリアルというのは司達が所属する魔獣を退治する組織の名だ。
「この間は本来あの子が使うはずだった力の青い魔法使いを圧倒していたらしいわよ」
「それはよかった、こちら側の魔導ユニットも中中の出来のようだ」
男が満足そうにうなずく。
「けど一つ困ってることがあるのよねー」
紗栄子が頬に手を物憂げに言う。
「ほう?」
「向こう側の魔法使い達がわたしの可愛いお客さんの邪魔をしてくるのよー。もうこの間は三人もいたのにあっという間にやられちゃったわ」
「敵側の魔法使いですか、面白そうですね」
男は立ち上がり自分の分のコーヒー代を置きテーブルを離れる。
ここは美羽羅に指定した廃工場。彼女との決戦当日、李梨花達は美羽羅より先に現場に到着し場を整えていた。万が一李梨花がやられた時のために周囲に司達や部隊も控えている。
「来た!」
廃工場の入口に美羽羅が現れる。
「全くあたし相手にあなた一人でやるとか舐められたものね」
李梨花の仲間は姿を隠しているため美羽羅からは目の前の李梨花しか見えない。
「それはどうかしら?」
李梨花に言われ美羽羅が周りに目をやると周囲に隠れた李梨花の仲間の気配に気づく。
「ふーん、今は隠れてるてことはあなたがやられるまで手を貸さないて感じかしら?」
「そういうこと、あんたなんてあたし一人で充分よ」
「この間あたしに負けた人がそんな大口叩いちゃって、後悔しないことね!」
美羽羅が魔導システムのブローチのボタンを押し青いファンシーな学生服に変わる。銃を構えトリガーを引く。
「はっ」
放たれる弾丸。
「今だ!」
李梨花が手を突き出すとバリアが発生、攻撃を防ぐ。
「バリア、そんな、あたしでもシールドを出すので手いっぱいだったのに……」
美羽羅が自分との差に驚く。
「だったら……」
美羽羅が銃の先端からビームを生やす、弾丸のように発射するのではなく常にエネルギーを放出し続け剣として使えるようになる。
「ハァーッ!」
美羽羅はビームサーベルを構え李梨花目掛け走る。李梨花が銃で応戦するが美羽羅は眼前にシールドを発生させ防ぐ。
「ちょっと!向こうがビームサーベルやシールド使えるとか聞いてないんだけど!」
李梨花が通信機越しに司に抗議する。
『理論上使えるんだから美羽羅ちゃんも使って当然でしょ!』
「いやいや、この後どうすんの?!」
『ギリギリまで引き付けて反対側に跳んで下さい。その後は自分でどうにかして下さい』
「結構雑なアドバイスね。まあいいわ」
美羽羅が近づいたところで司の指示通り動く李梨花。
「なに?戦うのは一人だけど人にアドバイス貰わないとまともに戦えないわけ?」
美羽羅がこれはしたりという顔で言う。
「言ってなさい。こうなりゃやけよ、ビームサーベルだがシールドだか知らないけど突破してやろうじゃない」
「出来るものなら!」
再び李梨花に接近する美羽羅。李梨花は銃を剣にしてトリガーを引くとザッと足を構え意識を集中する。
「ハッ」
トリガーから手離し剣を振るうと魔力の剣が飛ぶ。
「ぐ……」
美羽羅はシールドを出して防ぐが剣の威力に押される形になる。
「もう一発!」
今度は先ほどのように間を置かず再び魔力の剣を飛ばす。美羽羅は先ほど同様シールドを出して防ぐ。
「まだまだぁっ!」
「な、二段攻撃?!」
だが李梨花の攻撃は一撃ではな終わらない、連続で魔力の剣が発生し美羽羅を襲う。魔力のシールドが耐久力を超え消失、美羽羅は李梨花の連続攻撃をもろに受けてしまう。
「きゃあっ」
吹っ飛ぶ美羽羅。
「あたしと妹の後釜なくせにやるじゃないあんた……」
痛みに耐え立ち上がる美羽羅。
「それなら……」
手を地面に置きそこを中心に円状にエネルギーを展開、頭上にまで達すると水状の球体が発生、李梨花目掛け飛んでいく。
「くっ」
李梨花は辛うじて躱すが連続で来る攻撃には対応しきれずダメージを受けて倒れてしまう。
「どうよ、これがあたしの実力よ」
「はっ」
李梨花は横ばいの姿勢から剣を変形、銃を構え弾丸を放つ。
「くあっ……」
よろめく美羽羅。
「ふ、不意打ちとか卑怯じゃない!」
「油断してるあんたが悪いのよ。こっちは遊びじゃなくて本気の殺し合いだっつーの」
李梨花は拳を握ったり開くという動作を繰り返すと銃を持っていない方の手から魔力の弾丸を放つ。
「もうこれ邪魔」
銃を捨て両手で魔力の弾丸を発射する李梨花。美羽羅はシールドを張る余裕もなく李梨花の攻撃を受け続けるしかない。
武器を介さない魔弾の連続発射は止むことは無い。美羽羅でさえ、ある程度意識やエネルギーを集中しなければそのようなことは出来ない。美羽羅は絶望する。もしや自分は家を出た一ヶ月でここまで腕が鈍ったのか、それとも先方の実力が自分を上回るのか、どちらにせよ今の実力では李梨花には勝てないのではと。
「きゃぁぁぁ!」
美羽羅は李梨花の猛攻に工場の奥に吹っ飛ぶ。
「つっ……、なにこれ、頭が……痛い……」
突如襲った痛みに頭を抱える李梨花。
「どうなってんだあれ?急に調子悪くなったぞ」
沙紀絵が物陰から叫ぶ。
「もしかして魔力の使い過ぎ?李梨花ちゃん魔法使うのに慣れてないから……」
彩音が叫ぶ。
「なんかよく分かんないけど隙が出来た!」
美羽羅が銃のトリガーを引く。
「まずい!」
司が李梨花の危機に飛び出そうとした時、李梨花の目がカッと見開き手が動きバリアを展開し美羽羅の攻撃を防ぐ。
「あ、ああ……」
美羽羅は渾身の攻撃を防がれなす術もないと絶望する。
李梨花はバリアのエネルギーを消滅させず手の平に集める。高エネルギーが球状に収束していきやがてバリアとして発生していたものが全て手の中に収まると前方へ螺旋状に回転しながら水流のように発射される。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
魔力の奔流は美羽羅を巻き込み廃工場の壁を破壊し外まで突き抜ける。
「はぁ、はぁ……、やった……のよね……?」
李梨花が苦しい表情をしながら破壊した廃工場の穴から出て地面に倒れ沈黙する美羽羅を確認する。
そこへ突如魔力の剣が李梨花目掛け飛んでくる。体力も少なく咄嗟のことで対応出来ずにいる李梨花、しかし背後から司が現れ魔力の剣を叩きつける。
「ありがとう、司」
「礼には及びませんよ。仲間ですから」
「あわよくばと思ったがまさか仲間が近くにいたとはね」
「誰だ!」
美羽羅の傍らに新たな人物が現れる。




