十三話 李梨花はなぜ魔獣を倒すか
美羽羅に負けた李梨花が魔法使いの特訓をしようとするけど李梨花自体イレギュラーな設定だから特訓に付き合ってもらう他の魔法使いを説得するために回想を話す話
「特訓?」
組織のあるビル屋上にて彩音が李梨花に聞く。李梨花が美羽羅に勝つための特訓を司や他の魔法使い達に申し出たのだ。
「ああは言ったけど今のあたしじゃ美羽羅には敵わない、だからあたし自身なり戦い方を鍛えて今より強くなるしかない。そのためにみんなに手伝って欲しいの、勝手なのは分かってる、けどあたしはやつに勝ちたい。挑戦されたからじゃない、元々イズミを使うはずだったあいつより弱いんじゃ魔法使いの名が廃る、あたしはイズミの、本当の意味での使い手になりたいの!」
李梨花は先ほどはあまり出さなかった胸に秘めた思いを吐き出す。
「いや、李梨花さんそもそも魔法使いじゃないですよね」
司が指摘する。李梨花は元々魔導システムを所持していたのではなく偶発的に使用して魔獣を倒したため所有権を得ただけであって本来魔法使いになるべき人間ではないのだ。
「でも、一応魔法使いやってるしそういうのは元からとかそうじゃないとか関係ないと思うのよ」
元からでないとはいえ自分も魔法使いであると必死になる李梨花。
「李梨花ちゃん、なんでそんなに魔法使いになりたいの?」
「そうだよ、魔法使いとかロクなもんじゃねえぞ。怪物退治しなきゃなんないし修行とかも色々つれえし」
彩音と沙紀絵が李梨花に疑問を持つ。
「そもそも僕と彩音さん達魔法使いはともかくなんで学生の李梨花さんが秘密組織の戦闘員とかやってるんです?」
司のさらなる指摘。司達の組織は表向き別の産業を会社としてやっているが魔獣退治の方は表向き知られてはおらずごく一部の選ばれた者だけが魔獣退治の部所に配属されるのである。そのメンバーは大学生以上の年齢の者で例外なしに李梨花のような中高生が在籍することはほとんどない。
「復讐よ」
李梨花の不穏な言葉に場の雰囲気が凍る。
「あたしがまだ小さかったころ、両親と妹が殺されたの。魔法使いにね」
そう言って李梨花は当時の記憶を語り出す。
「どうだ李梨花、今日の晩メシは?」
李梨花の父親が微笑みながら言う。
「楽しいよ!だって、お父さんといっしょだもん!」
父親を手繋いだ李梨花が言う。この日は李梨花の十歳の誕生日で父と母、妹と四人で外食に来ていた、今はその帰りである。李梨花の父は刑事をしておりその多忙さから普段あまり家にいることが少なく久しぶりの家族揃っての食事になる。
「良かったねー李梨花、お父さんといっしょにご飯が食べれて」
李梨花の母親も微笑む。
「おねえちゃんだけじゃなくてあたしの誕生日の時もちゃんとお父さんも祝ってよね」
「はいはい、いい子にしてたらな」
李梨花の妹が自分も誕生日を父に祝って欲しいとねだる。
その時、反対側の道に白いスーツにシルクハットを被った男がいた。顔には皺がところどころ寄っており中年男性と思われる。男は李梨花の父親を見ると獲物を見つけたかのようにニヤリと笑う。それに気づいた李梨花の父親は李梨花達に言う。
「お父さんちょっと用事が出来たからみんな先に行っててくれないか」
「えー、お父さんいっしょに帰らないのー」
「なんかさびしー」
文句を言う李梨花達。
「すまんがこの子達を頼む」
「任せて下さい。ほら、二人ともいい子だからお母さんといっしょに帰りましょう」
『はーい』
母親の言葉に元気よくうなずき母親と共にその場を去る娘達。
「うわぁー!」
李梨花達が父親と離れて暫くした後父親のものらしき悲鳴が聞こえたのだ。
「こら、待ちなさい!」
悲鳴を聞いて走り出す李梨花の妹とそれを追う母親、李梨花も遅れてそれに続く。
やや遅れて悲鳴のあった場所についた李梨花は驚愕の光景を見ることになった。父も母も妹も地面にうつ伏せに倒れ身体から大量の血を流しているのである。李梨花は慌てて父親に近づく。
「お父さん!ねえ、しっかりしてお父さん!お母さん!美々花!ねえってば!」
必死に家族の名を呼ぶ李梨花。だが返事をする者はない。
「李梨花か……」
「お父さん!無事だったんだね!」
父だけが苦しげながらも顔を上げる。
「いいか、よく聞け。さっきの白づくめの男、やつにだけは気をつけろ、やつに近づけば命はない。あの男には、決して近づく……な」
父はひとしきり話し終えるとガクリと顔を倒す。
「お父さん!?ねえ、お父さん起きて!ねえってば!」
李梨花は必死に父親を揺するが返事はなく沈黙したままだった。
「それからあたしは親戚のおばさんに引き取られて今に至るてわけ。お父さんは近づけば命はないとか言ってたけどそんな遺言聞く気ないって言ったらおばさんがこの組織を紹介してくれたのよ」
ことの顛末を話し終える李梨花。魔法使いいる組織にいれば家族を殺した男に会えるかもしれない、そう李梨花は考えたのだ。
「白づくめの男ねえ、もしかして魔法使いかなにか?」
「分かんねえぞ、ひょっとしたら天使ってこともあるかもしれねえし」
彩音と沙紀絵が李梨花の話に出た白づくめの男について話し合う。
「え、なんでそこで僕のこと見るの?」
そこで彩音と沙紀絵は司の方を見ながら話していたのだ。
「いやだって白づくめって言ってたし」
彩音の指摘。司は魔法使いではないが天使という特殊な存在である、普段は普通の格好であるが戦闘時には白い衣装を纏うのだ。
「いや、白は白でもスーツだから!さっきの話に出たおじさん天使とかじゃないから!人違いだよ!」
司の必死な反論。
「つうか天使てなんだよ、五年くらい前はもっと老けて人間離れじみた顔してたのに急に中学生になるっておかしいだろ!」
「うんうん」
沙紀絵の叫びに彩音がうなづく。彼女達の周辺に天使は司一人なので司はこの中では最もイレギュラーな存在なのだ。
「人間、じゃなかった天使も色々あるんだよ……。思うところはみんなあると思うけど僕は人類の味方だから。大丈夫、川太郎君が保証するから」
「司くんは置いといて李梨花の特訓はわたしたちがやってあげる。徹底的に鍛えてあげるよ!」
「ああ、そういうことならあたし達も大歓迎だぜ」
司を無視して彩音と沙紀絵が李梨花との特訓を約束する。
「二人とも……ありがとう、あたしやったるわ!」




