魔導奏者りりかさん1
魔導奏者
主な登場人物
天城司、城野李梨花 鬼龍十一 榊佳代子 海浦美海、海浦川太郎
とあるビル街のオフィスの一室。そこには若い男女が集まっている。その中の一人の少年が少女に何やら話しかけている。
少年の方は童顔、背丈は中学生程度、体格は細め、髪は襟足にかかる程度、丸っとしたつぶらな瞳、おとなしい性格を思わせる風貌である。少女の方はやや尖った顔つき、高校生程度の背丈、ショートヘアーの乱れた髪、目は気だるそうに垂れ下がり顔のメイクもされておらず全体的に大雑把な印象を与える。少年の名は天城司、少女の名は城野李梨花という。
「李梨花さん、魔法使いて現実にいると思います?」
李梨花が答える
「はあぁ?魔法使い?何言ってんのよそんなんいるわけないじゃない。あんた漫画やラノベの読みすぎよ」
魔法使い、おとぎ話や漫画などに登場する摩訶不思議な技を使い空を飛び杖から火を出すことも可能と言われる存在、果たしてそんな非科学的なものが実在するのか。そんなものを現実にいるのかと聞く目の前の少年はその類の本やテレビ番組に影響でもされたのか、はたまたどこか頭でも打ったのではないかと李梨花は疑う。
「あながちそうとも言い切れませんよ。ここの組織の装備は魔法使いの技術支援を受けて作られたって噂知ってます?」
「あぁ、それね。てかそれあくまで噂でしょ、うーわーさ」
「じゃあここの装備でやっつけてる魔獣はどう説明するんです?あれこそ正体不明の化物でしょ。生息地不明、他の生物と似てるところもあるけどとても同じ種類の生き物には見えない」
魔獣、いつの時代からか人間の世界に現れ、その度に人間を襲う怪物だ。それを駆逐するための組織が二人が所属する組織である。急速に文明が発達した現代において現れ無法者と化していた魔獣を退治し始めたのだ。
「あー、それね、それ」
歯切れが悪そうにする李梨花。
そこに一人の青年が近づく
「あいも変わらず仲がいいな、君たちは」
「鬼龍さん、こんにちは」
「こんにちは、司くん」
あいさつを交わす司と青年。青年の名は鬼龍十一、メタリックブルーのフレームの楕円形眼鏡にきれ長の眼、髪をオールバックにした長身美形の男である。学校の女子達からも一目置かれているほどだ。
「いや別に仲いいわけじゃないしこいつが勝手に話かけて来ただけだし」
あいさつ代わりの皮肉を返す李梨花。
「で、何の話をしてたんだい?」
十一の質問に司が答える。
「鬼龍さんて魔法使いの存在て信じてます?」
「あー、あの噂ね」
司の意図を瞬時に察する十一。
「だからー、それはただの噂だって。証拠なんてないわよ」
頑なに否定する李梨花。しかし十一は衝撃の一言を口にする。
「それを言うなら我々の目の前にいる司くんこそ神秘の実在ではないのかい?」
「僕ですか?」
「う………」
十一に指摘され言葉に詰まる李梨花。十一が続ける。
「そう、君は人ではない。今こそ人と同じ姿をしているが魔獣と戦う時には全身白づくめのヒラヒラ衣装に白い羽、頭部に浮かぶ黄色い光の輪の付いた格好になって光の剣とかビームとか出して戦う天使そのものだから」
「あー、そうだった。こいつ人の皮被った天使とかいう化物だったわー」
十一の指摘に苦虫をすり潰した表情になる李梨花
「やめてくださいよ。そんな面と向かって言われると照れるじゃないですかー」
「褒めてないわ!」
そう言って司をどつく李梨花。
「ところでその魔法使いなんだが、今日来るらしいぞ」
「は………?」
「ちょ
ちょちょっ、それどういうことですか!?来るってどこに?」
あまりの驚きにとぼけた表情で固まる李梨花と椅子から立ち上がり十一に詰め寄る司。
「この部屋、この班にさ」
「あだ名とかじゃなくて文字通り魔法使いが来るってことですか?」
「そうなるな。さっき班長といっしょにいるところを見たから間違いない」
息を漏らし、椅子に座り直す司。魔法使いは架空の存在ではなく実在する、そしてじきに自分のいるこの部屋に現れる。子供の無邪気な幻想がそのままに現れる時がついに来たのだ。
「で、その魔法使いさんてどういう子なの?」
李梨花の問いに十一が答える。
「少女だ、それも司くんと同じくらいの年の。」
「え、子供が魔法使いやってんの?ちょっと大丈夫かしら?」
「さあな、しかし戦闘力は対魔獣用装備よりは上だろうよ」
司も一つ尋ねてみる
「じゃあ僕と比べてどれくらい強いんですか?」
「それは分からない、しかし戦い慣れしてる君の方が多少は強いんじゃないか?」
「へー、へーへーへー。僕の方が強いだー」
だらしないくらいにやける司。
「うわっ、こいつキモッ、顔キモッ」
司の顔に思わず引く李梨花。
「ちょっとみんないい?」
オフィスに20代後半と見られる女性が現れる。
女性は長い髪を後ろに束ねパンツスタイルのスーツを着込みおとなしめのメイクに口はきつくしまり活動的なキャリアウーマンを思わせる。榊佳代子、司達が所属する班の班長だ。一緒にいるのは先ほど司達が噂していた中学生の少女だ。
佳代子の元に集まるメンバー達。
「紹介するわね、この子が……」
佳代子が言い切る前に少女が自ら名乗る。
「私こそが現代に生きるリアル魔法少女、海浦美海です。平凡なる人間のみなさん、この私が来たからもう安心ですよ。全て、全てこの私におまかせください。魔獣など私が全てやっつけて見せます!」
胸に手を当て大仰に言い放つ美海と名乗る少女。その言葉は自信と自負にあふれている。
「あのー、班長、この子大丈夫ですか?どこか調子悪そうですが」
「中二病じゃねーでございますよ!立派な魔法使いですぅ。」
あまりに独創的な美海の自己紹介に突っ込まざるを得なかった李梨花に反論する美海。
「大丈夫よ、ちゃんと上層部のお墨付きはあるわ。狂言とかは断じてないわ」
「ならいいですけど……」
佳代子の返事にもやや不安げな李梨花。
そこへ司が手をスッと手を上げる。
「すみません、やっぱこの班天使いるんでいいです。魔法少女ならよその班行ってください。後で戦闘データとか映像回してくれればそれで充分なんで」
「え、天使?!名画を見たらあの世からお迎えに来るていうあの?わ、私、死んじゃうですか?!」
天使の姿になった司が突如美海に近づき言う。
「うん、そろそろかもね……」
そしてにこやかな顔で南無三と手を合わせる。
「あ、あわわわ……」
ガクガクと膝から崩れ落ちる美海。
「あいたっ!」
そこへ佳代子が持っていたファイルで司を叩く。
「いきなり何するんですかー。痛いじゃないですかー」
「あんたこそ何してんのよー、この子怖がってるじゃない」
「すいません、反応が面白かったんでつい……」
佳代子は怒るがあまり詫びる様子のない司。
「それにこの子を入れるのは単独で魔獣とやり合えるあなたと連携させることで魔法使いがやられた時のバックアップが出来るの、分かる?」
美海の解説に美海が反応する。
「え、もしかして私信用されてないですか?」
「信用はしてるけど実戦投入は初めてだから組織の総帥さんも色々不安みたいよ」
「やっぱ信用されてないじゃないですか」
そこへ十一が話に加わる。
「もしかして班長、その子以外魔法使いがいないのではないですか?だからお上の連中は迂闊に危険な目に合わせて失うわけにはいかない。ゆえに司くんのいるこの班の入れたのですね?」
「ま、大体そんな感じね」
十一の指摘に佳代子がうなずく。
「お、私大事ですか?貴重がられてるですか?」
目を輝かせる美海。
「班長、やっぱりこの子入れるのやめましょう。怪物退治は出来ても性格がめんどくさい人が二人も入るとなるとちょっと……」
李梨花が辟易する。
「それくらい我慢しなさい。この程度でうだうだ言ってたら任務に支障が出るわ」
「はい……」
しぶしぶ納得する李梨花。
突如オフィス内に警報が鳴り響き天井からスクリーンが現れる。そこには地図が表示されその中で魔獣の出現を示す赤い丸が点滅している。オペレーターが場所の名前を知らせる。
「総員戦闘準備よ!」
佳代子の号令で戦闘服と武器の準備を始めるメンバー。
「あ、司はまた一人で勝手に行かないように。あんたいつも先に一人で行って倒しちゃうから」
「え、気づいてたんですか?」
今にも一人でオフィスを出ようとしてるところに釘を刺される司。なぜ自分の心を読まれたのかと戸惑っている。司は組織に入る前までは一人で魔獣を倒していた、ゆえに組織の一員になってもその癖が抜けず単独で魔獣を倒しているのだ。
「いい?組織は集団行動が大事なの、いくら強くても単独行動してるようじゃ組織の一員失格よ」
学校の先生よろしく司を説教する佳代子
「僕そういうの苦手なんですけどねー。学校でもクラスの人といっしょに何かするとか嫌なんですよー」
信条でなく生理的に無理という顔をする司。
「向こうに着くまでの辛抱だから、ね?」
「了解です」
佳代子の説得になんとか納得する司。
「よし、いい子いい子。美海、そいつ見張っといて」
司の頭を撫で美海に司のたづなを握らせる佳代子。
「あいあいさー!」
「僕は落ち着きのない子供か何かですかっ!ちょっと、班長、はんちょー!」
司の抗議をよそにその場から立ち去る佳代子。そこへ美海がにゅっと近づく。
「にひひ、立場が逆転してしまいしたでございますねぇ」
イタズラ小僧のように笑う美海。
「さっきから気になってるけど敬語だけど敬語になってないやつなんなのさ」
「え、敬語てこんなものですよね?」
首をかしげてとぼける美海の肩に手を置く司。
「えっと、学校で敬語とか習わないのかい?」
「私は天才なので学校の授業など受けなくても大丈夫です、テストでいつも満点です」
あっけんからんと答える美海。
「あ、そう」
司は察した、自分の目の前にいる少女は自分と同じくらい社会に溶け込むのが苦手だと。だが本人には敢えて指摘しないことにした。
魔獣の出現場所に到着する司達。乗り付けたワゴン車から降り規則正しく並ぶ佳代子率いる部隊の一員達。その時にはもう魔獣が人々を襲っている。
「撃て」
佳代子の号令で部隊が構えた小型特殊銃から弾丸が一斉に発射される。弾丸は人工的に作られた魔力で構成されているため魔獣という通常の動物より強固な存在にも容易に効くのだ。魔獣がひるんだ隙に司が魔獣に襲われていた人を救助、魔獣から遠ざけ救急車を呼ぶ。命に別状はないがかなりの怪我だ。
「司、美海、頼むわね」
「行きます!」
佳代子の命令で司は自らの姿を天使のものに変化させる。
「はぁっ」
気合いと共に駆け出す司。一方、美海は動こうとしない。
「美海?ちょっと美海!」
美海の肩を揺する佳代子。
「はっ……。は、班長?」
しばし周囲が見えていなかった美海。
「大丈夫?ここは戦場なのよ、しっかりしなさい」
「すみません、もう大丈夫です」
美海は首から下げているペンダントに手を伸ばす。ペンダントは拳大の大きさをしており中央に大型の宝石がその周囲に小型の宝石がそれぞれ散りばめられており横にボタンが付いている。美海がペンダントのボタンを押し叫ぶ。
「魔法演奏!」
言葉と共に美海の姿が学生服から豪奢なリボン、フリフリなスカートの付いたファンシーな衣装に変わる。ダッと魔獣の元へ駆け出す美海。
「これって……、魔法使いていうかまんま漫画とかアニメによく出る魔法少女?」
変身アイテムで姿を変えた美海見て李梨花が言う。そこへ佳代子が解説する。
「そもそもあのペンダントは中世ヨーロッパの魔法使いが魔法使いをより戦闘に特化した姿に変えるものらしいわ。肉体強化や武器の収納、大掛かりな仕掛けなしで多数の呪文使用が可能になるとか」
「何か胡散臭そうな代物ですね。オーパーツじみてません?」
十一も聞く。
「それも気になりますがなぜヨーロッパの遺物がこの極東の日本にあるのか不思議ですね」
「そこはほら、魔女狩りの生贄とか御免だから逃げて来たて感じよ」
「うわ、現実感一気に増したんですけど……」
驚きを隠せない李梨花。
「そしてあの魔法使いのペンダントを解析して作られたのがこの銃というわけですね」
さきほど魔獣を撃った特殊銃を触りながら十一が言う。
「そゆこと」
魔獣の姿は頭部が狼に近いが角が上と横から後ろへ尖り椀部や脚部にも同様の爪が生え人間を超えるほどの体躯を持ち毛はなく黒い肌が露出している。
魔獣はさきほどの銃撃が来た方向にいる司に狙いを定める。地獄の生物のような低く恐ろしい唸り声を上げながら司に接近する。肉迫し魔獣が強靭な爪を振り上げる。
「はぁっ」
司は気合いと共に魔獣の腕を受け止め膝蹴りを食らわす。衝撃でゴロゴロと転がる魔獣。直後、司の頭上を魔法使いの姿にマントを携えた美海が飛ぶ。
「空を飛べるのか、流石魔法使い!」
感嘆の声を上げる司。
「はぁぁぁぁっ!」
相手の遥か頭上から魔法使いの力として装備されている剣を手に魔獣へと振り下ろす美海。その時魔獣が吠える。
「ひゃっ」
吹き飛ばされる美海。ただの吠え声ではない、エネルギーを伴った振動波である。司が駆け寄り声をかける。
「ちょっと君、大丈夫?」
美海は返事もせず立ち上がり再び魔獣の元へ向かう。剣を振るうが魔獣に攻撃を防がれてしまう。それでも諦めず剣を振るうが防がれ当たらず。いくらか避けられた後剣が魔獣に掴まれる。そのまま力で美海の腕ごと剣を捻り放りなげる。さらに美海の首へと手を伸ばし締め上げる。美海は手を伸ばし自分の首から魔獣の手を引き離そうとするが力が思うように入らない。
「まずいっ」
美海の危機に魔獣の横に周り込もうとする司。それに気づいた魔獣は司に美海を投げる。とっさに美海を抱き留める司。美海の息はかなり苦しくまともに戦える状態ではない。
「そんな、美海が歯が立たないなんて」
人間を超え戦闘力を持ち単独で魔獣を倒せると聞いていた魔法使いの美海が苦戦を強いられる状況に佳代子は唇を噛むしかない。
「あれ、これって……かなりヤバイ状況?」
司に狙いを定めグルルと唸る魔獣、司は美海を抱えており戦闘を行える状況ではない。李梨花が佳代子に尋ねる。
「班長、こっからどうするんです?」
「待って、今考えてる」
「いや待てないですって、このままじゃ司もやられちゃう!こうなったら……」
李梨花は単身魔獣に突っ込み特殊銃から弾丸を魔獣に当てる。さらに司の真横まで走って移動、美海の胸元に目をやる。そこには魔法使いの変身に使ったペンダントが付随している。
「李梨花さん?」
司の怪訝な声。美海はそのまま美海の胸元にあるペンダントに手を伸ばし美海の身体から外す。同時に美海の変身が解け元の学生服に戻る。
「え、まさか李梨花さん……?」
「そのまさかよ」
司の予想通り李梨花はペンダントのボタンを押しボソリと言う。
「変身した!まさか魔法使いの家系でもないのにあのペンダントを使えるなんて!」
驚嘆する佳代子。
「魔法演奏。て、結構恥ずかしいわねこういうの」
さきほどまでの美海と同じヒラヒラした衣装に変わる李梨花。
「いやいや、しっかり言ってる上にそんな格好しててよく恥しいとか言えますね」
思わず指摘する司。変化した自らの服を一通り眺めた李梨花は言う。
「はっ、こんなん戦えればあんま気にならなくなるわよ。武器は腰のこいつね」
腰に下がった剣を取り出して確かめる。そして剣の刃と柄の間にある関節部分をトリガーがある方向に倒すとさきほどまで剣だったものが銃に変わる。
「じゃ、援護頼むね」
「まさか倒す気ですかあれ、さっき同じ格好して負けた人がいるのに?」
元々魔法使いの力を持っていた美海でさえ歯が立たなかった魔獣を李梨花が倒せるのかそもそもまともに戦えるのか、司は不安で仕方がない。
「まあ見てなさい」
言うや否や李梨花は魔法使いの銃で魔獣を撃つ。エネルギーの塊が飛び魔獣に当たる。組織で一般的に使われている特殊銃をはるかに上回る威力だ。司はその威力に感嘆する。
「すごい、これならいける!」
魔獣の身体に傷が増えていくが致命傷にはならない。李梨花は弾丸を撃ち続ける。
「これじゃあキリがない、やっぱ近距離戦しかないか」
李梨花は銃を剣に戻しトリガーを押す。すると刃にオーラが纏われる。体の横に構えそのまま助走を駆ける。
「はぁっ」
気合い一閃、剣が魔獣の身体を裂き消滅。魔獣は死んでも肉体は残らず消滅するのだ。