第三話「環境汚染の大罪」
ナマヌルイワァッ!
認められぬ一人の少女
自分に無き力を妬ます
七つの大罪一つの嫉妬
現れる狂気新たな大罪
~第三話~「環境汚染の大罪」
冷たい風が響く中、三匹の狼が走っている。
それだけじゃない、人間が跨がっていた。
メオと、センオウ、一人の少女だ。
その背中は意外に広く、乗っても居心地が良い。
……揺れは気になるが。
月の光のおかげで、辺りを見回せれる程には、明かりが残っている。
残念ながら、あの絶景はもうなくなっている。
二人はだんだんと冷静さを取り戻すなか、センオウは中折帽を軽く押さえて、軽い笑顔でメオに問い掛ける。
「あいつ、少し笑顔だったが、敵意はもう無いのかね?」
どうやら、少女の笑顔は見えていたようだ。さすがに内心までは分かってはいないが。
そして、センオウの問い掛けに自信を持ったかのように、豪快に返答する。
「おうとも! なんだかんだで俺は人を見分けれる力を持っている! 信じろ!」
そう、メオは物凄い「直感」を持っている。
このおかげで、メオの知り合いに悪者は居ない。
無論、何に対してもその直感は生かせられる訳ではない。
戦闘においては、直感に付いていける体も必要だ。
これに置いては、まだらあまり体が出来上がっていないため、役には立ちにくい。
とは言っても、これ以外の事、さっきの「枝を持ってろ」も、戦闘になると思っての直感だろう。
だから、多分、大丈夫だ。
この少女は、きっと、敵意はない。
そう、センオウは思って、
「あぁ、そうだな」
と、メオに笑って、返した。
風が、ピュウ、ピュウ、と耳を凪ぎ払う。
その音のせいで、この声は少女には届きはしなかった。
でも、少女は今も、まだ、少し、笑っている。
声には出てないものの、顔には出ている。
何が理由で笑っているのかは、そこまで、センオウは調べはしない。
もう、興味はないからだ。
そして、二人とも、黙ってこの景色をしばらく、眺めていた。
月の明かりが少し、沈みかかっている。
道無き道を、狼は、上から下へ、横へ曲がって、水辺を飛んで、華麗な移動を繰り返していた。
未知の体験に、この長い移動時間も、二人には短く見えた。
しかし、体感はそうでも、体内はそうにはいかないみたいだ。
何回目かの、森の角を曲がったとき、急にメオの腹の音が鳴る。
ぐぅー、と、かなり大きな音だ。
少し、静寂が続いたあと、大爆笑が響く。
メオも、センオウも、少女も、笑った。
「メオ、お前、笑わせんなよ」
センオウが笑いを堪えながら、メオに話しかける。その顔は、堪えと、冷えで、ほんのりと赤い。
メオは、少し恥ずかしそうに、
「うるせえな! 腹が減ってんだよ!」
と、笑いながら言った。
少女はクスクスと笑っているだけだが、一見、この状況を見ると、とても親密な関係のように見えるだろう。
まるで、さっきまでの戦いが嘘のように。
もしかしたら、このメンバーは本当に、良い関係になるのかもしれない。
「待ってて、もう少しで群れにつく」
少女がメオに振り向いて言う。
その顔には、敵意は無いように見えた。
それに、メオもセンオウも、心に安らぎを覚えた。
しかし、このほのぼのは、長くは続かなかった。
少女の顔つきが、変わった。
それは、怒り、悲しみ、焦り、なんとも言えないが、良くない表情とは言える。
二人は、これに違和感を覚える。
これは、俺達のせいなのか。何か、やらかしたか? 敵意を持ったか。等と、自問自答を繰り返していたが、少女の目線に、メオが気づいた。
少女が見ていたのは、メオ達では無い。
目線は、その上を向いている。
これについて、確認するために、メオが振り向くと、突然、気持ちの悪い、掠れた高い声が静かな森に響いた。
「ナマヌルイ、ナマヌルイワァッ!」
狂気が現れる。
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狼達が、少し、動揺するのが見えた。
そして、センオウが、何事かと、後ろを振り向く。
……おかしい、何もいない。
暗闇と、狼の走る振動で視界が悪いにしても、だ。
後ろに何かが付いてきているには間違いない。
明らかに、後ろから聞こえたのだから。
メオも、センオウも、この異常事態に少し、あせる。
メオは、銃を取り出そうと、仕草をするが、自分を支える手が片手だけだと、バランスがとれなくなったので、やむを得ず、取り出すのをやめた。
しかし、落ちる覚悟で、銃を取る準備はできている。
センオウは、周りを見渡す。が、やはり、何もいない。
「その友情! 実にナマヌルイワよォ!」
まただ、また、あの掠れた高い声が、辺りを包む。
しかし、周りには何もいない。
おかしい、明らかにおかしい。
二人は、恐怖を感じる。様々な、不安が脳を横切る。
少女は、しばらく、メオの頭上、その一定の場所を見つめ続けると、こう呟く。
「少し、遠回りする。速度もあげる。しっかり、捕まって。」
この声は、ギリギリ二人に届いた。
二人は、同時にうなずいて、後ろを警戒しながら、三人共、狼の首に捕まる。
なぜ呟いたのか、それは、作戦だ。
遠回りするのは、恐らく、このまま声の奴と、群れとやらに、遭遇させるのを避けるためだろう。
恐らく……驚異的な力を持っている可能性が、高い。あの、少女が注意をしているのだから。
「あれ? あれれれれれれれれあれれあ? 急に! 速度を!! アゲタ、ヤ、ぁあああ!!!」
にしても、気味が悪い。言葉になっていないような言葉を淡々と、耳が痛くなる大声で喋っているのだ。
しかも、話し方がバラバラ。
掠れた高い声で早く喋ったと思ったら、重低音で、遅く喋ったりと。
まるで、人間ではないかのような。まさしく狂人だ。
この不安定な声を、メオ達は無視し続ける。
そうでもしなければ、こちらも狂いそうだからだ。
「ナマヌルイワァッ! そんな速度で、逃げられ、ると、思うな、ヨ?」
絶えず、この声が続いてくる。
狼達は、ちゃんと速度を上げているが、若干、ふらふらと、バランスを取れなくなっている。
乗り心地が悪くて、メオとセンオウは、ふらふらと揺れているが、少女は、あまり動かない。
狼達に、慣れている証拠だろう。
この少女を信頼する限り、狼達には、噛まれるなどの心配は、しないでよさそうだ。
メオが、落ちないように、狼の首を掴んだ瞬間……
突然、笑い声がする。
カラカラカラカラと、狂気の笑い声。
「喰らいなさい。環境汚染……あなたたちのアヤマチヨ」
それは、ただ、静かに放たれた言葉。
さっきの狂気とはまるで別。ささやくかのように、小さい音量。
しかし、この声はちゃんと、メオ達には届いた。
……理解できなかった。
その言葉の意味が。全く分からなかった。
環境汚染? 喰らえ? 何を言ってるんだ? と、少々疑問に思いながらも、絶えず無視する。
センオウは、今までと変わらない、少し険しい顔で無視をする。
だが、メオだけは、額に汗を浮かべながら……肩を震わせていた。身体だけは、勘付いていたのだろう。
メオの目は少女を見る。その背中には、焦りはなかった。
相変わらず俺達と違って、揺れが少ない。安定している。
もしかしたら、ずっとこんな生活をしているのか?
冷静に考えたら、さっきの声が聞こえた時に、少女は、何かに気づいていた。
まるで、その声の正体が誰なのかを知っているように、その強さを知っているかのように、遠回りの指揮を下した。
このような生活に、慣れているかのように速やかに指揮を下していた。
そう、気を紛らわせるために、深々と考えていると、突然、メオは気づく。
目以外に沈んでいた顔を上げて、目を見開く。
――そういえば、この少女は、何かを見ていた。
俺の上……その一点だけを見つめていた。
もしや……声の正体が見えている?
目を見開いていたせいか、風が目に入り、涙が出る。
目をつぶった後、拭く余裕も無く、急いで後ろを見渡す。
涙でぼやけて、よく見えない。
スフマートみたいに、ぼやける視界の中でも、ずっと変わらない夜の森が映し出されている。
……やはり、どこにもいない。
この不可解な出来事に、メオは眉を曲げる。
少女は、見えているのか?
そうだ、直接聞けばいいのではないか。
メオは、小回りに前を向いて、少女に問おうとした。
……臭い。腐敗の匂いがする。
この異常にはすでに二人は気づいていたらしく、片手で鼻を塞いでいる。
いつの間にか、狼に乗るのに慣れているらしい。片手で体制を保っている。
単純にメオがバランス感覚がないと言う事は、メオは、考えていなかった。そんな性格だから。
しかし、そんなことどうでもいい。まずはこの疑問から解決しなければ。
この少女は声の正体が見えているのかを。
少女の方に軽く身を乗り出して、小声で問う。
「おい、お前」
爆音がなる。
とたんに音がなくなる。
木が何本も、倒れてきたのだ。
風が囁く中、メオ達の姿が無くなっていた。
そこには、狂気の笑い声が、ただ、ただ、響いていた。
ケタケタケタケタケタケタケタケタと。
三話「環境汚染の大罪」完
~今回の初登場人物~
???
狂人。オネエ口調。しかも、アンバランスな音量で喋る。
なにやら少女と同様、特別な力を持っているらしいが。
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あまり、納得のいく回ではありません。