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夏、心、蝉の声。  作者: 七誌一朗@7SHIicilOU
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パイセンの居る夏

 01.


 半袖のワイシャツ。半端に崩れた蝶タイ。

張り付く前髪、はためくカーテン。

じっとりとした空気、纏わりつく熱気。

私を取り巻くなにもかもが夏を全力で演出していた。


 太陽はジリジリと肌を焼くし、目を閉じても尋常じゃない位に

己の存在を主張している。そんなにアピールしなくても

あんたの事を忘れる事はないから落ち着けと言ってみたが

残念ながら核融合だか分裂だか忘れたけれどその活動が収まる気配は微塵もない。


「くたばれ」


 お前が私の言葉をないがしろにするならと、

窓の外に向かって中指を突き立てて罵ってみた。

太陽を直視してしまい身もだえする羽目になった。

いつか絶対太陽殺す。生涯の目標がたった今決まった。


「絶対殺してやるかんなぁぁぁぁぁ!!!」


 両手で目を覆いながら怨嗟の声を全力で上げてみた。

約1億5千万km離れた憎いあんちきしょうに届けとばかりに。


「相田」


 その私の言葉に心を揺さぶられたのか、腹を立てたのか。

低い声が私の名を読んだ。自分の声で頭がぐわんぐわんして上手く判別できないが

多分中年の男っぽい声だ。太陽は寿命の半分を既に過ぎてると聞いた事がある。

なるほど中年だ。


「太陽か!?」


 両手を顔からどけて未だにチカチカする目を必死に声の方に向けてみた。


「違う」


 知ってる顔があった。つうかほぼ毎日見てる顔だ。

具体的にはウチの担任だ。……あ、やべぇぞこれ。


「校庭走ってこい。20周だ」


 どうやら担任教諭はさっき私が上げた怒りの咆哮を

自分に対しての物と判断したようだ。強い言葉を使う時は主語を飛ばしてはいけない。

良い教訓になったね。


「さっさと行け」

「あいあいさー!」


 それもこれも太陽の所為だ。ぜってぇ太陽死なす。


02.


 私には付き合いの短い。でもそこそこ密度の濃いやり取りを交わしてる気がしてる先輩が居る。

苗字は確か飯田とか言った。「私のパチモンみてーな苗字ッスね」って言ったら

「お前が俺のパチモンなんだよ」と返された覚えがあるから多分そう。

仮に違っても香田とか早田とか、そんな感じ。如何せん普段はパイセンとしか呼ばないから

記憶が曖昧でいけない。下の名前に関しては知りもしない。

一回は聞いた覚えがあるのが余計いけない。今更聞きづらいし、それに。


「おー頑張ってるなぁ、このクソ熱い中ご苦労さん」


 制服姿でえっちらおっちら日陰の無い校庭をグルグルと

ハツカネズミみたいに必至こいて走り回ってる後輩を見て

ジュース片手に窓から小馬鹿にしてくるパイセンに

記憶力が無いとか思われるのは癪に障る。すげぇムカつく。

お疲れさん。じゃなくてご苦労さんってのが上から目線を存分に表してて

なんかもう……なんだこいつ? ってなる。とりあえず

後でノートに名前書いておこう。太陽の下にパイセンの名前書いておこう。

……あ、名前わかんねー。やっぱ後で聞いとかないとダメだ。


―――


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