プロローグ2話
目が覚めた。
身体を起こして辺りをみまわすと洞窟だった。
「起きたかい」
声のする方を見ると洞窟の入り口近くにあの熊もどきがいた。
「おっと、そんなに身構えなくてもいいよ、危害を加える気はないから。」
俺の身体が強張るのをみてそいつは言う。
「いや、それとも熊が喋ったことに驚いたのかな?」
「いや、最初のであってる」
俺はとりあえずこいつと会話することにした。
「へぇ、じゃあ熊がしゃべっていることに関しては驚いてないの?」
熊が意外そうに言う。
「ああ。その事に関しては特に。だってここ異世界やろ?そんくらいで驚いてられんよ」
「へぇ、そんなものかな?」
「まぁ、俺は自分でもちょっと特殊だと思うわ。俺の場合、異世界に行けたらなって何回も妄想にふけったからな。」
「ふぅん。ところでさ君って関西の人?」
唐突に熊が尋ねてきた。
「あ、ああ。そうやけど?それがなにか?一応標準語もいけるけどな」
「いや、特に何もないさ。気になったんだよ。」
そこで会話が止まる。
「じゃあ、起きてもらったところ悪いんだけどもう一度寝てもらえる?」
その瞬間俺はとてつもない眠気に襲われ、あっさり眠りにおちた。
「やあ、夢の中にようこそ。」
また、あの熊が目の前にいた。
「まぁ、この夢は君のなんだけどさ。僕の精神干渉魔法で僕が夢の中に干渉しているだけ」
「ちなみに、君と会話できるわけではないから。この魔法じゃあ、自分のイメージを一方的に押し付けることしかできない。」
「ああ、あと君が起きる頃には僕はその場にはいないだろう。置き手紙を残しとくから読んでね。」
「さて、ここからが本題だ。いまから君には戦いのやり方を覚えてもらう。」
「始めは魔力操作スキルを習得してほしい。じゃないと戦闘としてまず成り立たない。魔力で肉体強化しないと運動性能に差があるからね、レベル差があれば別だけど。」
「魔力操作ってこんな感じ?」
身体の中の血を腕に集めるようにイメージする。
「まずは魔力…マナを感知できるように訓練する。目を閉じて身体の中に血液がめぐっているのをイメージしてみて」
おっと、華麗にスルーされてしまった。こいつの言うとおり会話はできないのか。
俺は言われた通りにやってみたが、よくわからない。
(って言うか、さっきやったのに、感覚的には似てるな~)
そんなことを考えながらも訓練は進んでいく。
「まぁ、最初はよくわからないだろうけど、しばらくやってたらわかるようになると思うよ。」
10分くらい経過しただろうか、しばらく瞑想っぽいものをしていると、
「んじゃ、あとは実戦でビビらないで回避する練習しよう。魔力で強化しないとかわせないスピードで攻撃するから。早く習得しないと痛いおもいをたくさんするよ。」
次の瞬間、俺は腹部に痛みを感じて見下ろした。
俺の腹には三本の大きなエグられたようなキズがあった。いや、キズというレベルではない大怪我をしていた。
おそらく、あの熊の爪でやられたのだろう。そして、その怪我を見た瞬間、身体が痛みを思い出した。
「うぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!?」
あまりの痛みで転げ回る。内臓がキズから出てくる。
「あとコンテニューありだから、遠慮なく死んで身体に覚えさせてくれ」
うすれていく意識でやつがなにか言っている。
「この魔法の名前はナイトメア。俺を倒すまで目は覚めない。」
何回、いや何百回一撃で殺されただろう。相手の攻撃が見えるようになってきた。だが、身体が追いついてこない。
さらに数回殺された時、身体が軽くなり前よりも怪我が浅くなった。と感じて油断していたら、二撃目がとんできて殺された。
それを何十回か繰り返した頃、ようやく初撃を完璧にかわせるようになった。だが、二撃目を少しくらい三撃目か四撃目で殺される。
そして、いつの間にかすべての攻撃を完璧にかわせるようになっていた。だが、夢は終わらない。
というわけで、次は攻撃することにした。かわしながら、カウンターの隙を伺う。だが、なかなか熊は隙を見せない。
…攻撃の前にまず隙を作らせるところから始めないといけないようだ。
かなり苦労するだろうと予想していたが、案外早くそれは終わった。振るわれる腕を横から殴りつけて軌道をずらすと、重心がぶれて隙ができた。そこを全力で殴りつけた。
その瞬間、熊が大きく後方にとんで間合いをとって言った。
「うん。ここまでできるようになったならそう簡単には死なないだろう。OK 、これで終わり。」
これで終わりか。長かったような短かったような…、て言うかどれくらいの時間現実では経ってるんだろう。
そんなことを考えているうちにいつの間にか俺は寝転んでいた。起き上がると、そこはあの洞窟のようだ。
ステータスウインドウを出すとスキル欄に魔力操作スキルが増えていた。技術的なものは夢で経験したら現実でも習得しているみたいだ。まぁ、そうじゃないと熊も夢で訓練とかしないだろう。
ウインドウで時間をみるとこの世界に来てから、まだ1日も経っていなかった。
周りをみると焼き魚や木の実が葉っぱの上に置かれている。ご丁寧にも俺が起きることを見越して用意してくれていたらしい。
とりあえず、それを食べることにした。魚を食べながら洞窟の外に出ると、川のそばに着いた。
辺りの見回りを終えて洞窟内に戻ると、やつの言っていた手紙を読むことにした。そこには日本語でこんなことが書かれていた。
この手紙を僕に渡されたものは魔王大陸に来てほしい。詳しい説明は来てくれたらする。僕たちを信用して裏切らないと心に決めてから来てくれ。
あと、この世界では勇者であることは言わない方がいいだろう。待遇はよくなるが政治的に利用されたり戦争の前線に送り込まれるだろう。この川の下流にそこそこ大きな街がある。そこでしばらく暮らすといい。
追記
この手紙のことは他の勇者に教えないこと。特に一目で君を勇者だと見抜いたやつには、行き先すら伝えないようにしてくれ。最大15年まで待つ。こっちは危険だからしっかり準備してくれてかまわない。
こんな内容の手紙だった。
ぶっちゃけよくわからん。
手紙の内容は全部、相手の本当に伝えたいことが書かれてないように感じた。
「まぁいい。とりあえず街に向かうとするか。」
そして、俺は街に向かって走り始めた。