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巫女と騎士と召喚獣?


「光の巫女様、よくぞ参られました。あぁ、この日をどれだけ待ちわびたことか」


聞きなれない声にふと目を開けると、柔らかな光が入ってきた。天井の方から降り注ぐ光が私の周囲を照らしていた。舞っている小さな埃さえもキラキラと輝いている。


その埃を目で追っていると、大理石に似た床の上に幾つもの足があるのに気が付いた。恐る恐る前に目をやると、見たことのない服装をした数人の男女が3m程離れた先に立ち並んでいた。

その真ん中にいた壮年の銀髪の男性が私を見て微笑んだ。


「突然に召喚され、まだ混乱しておいででしょう。まずは休める場所にて心身を楽にされますように」


その人の言葉が終わると同時に、近くにいたこれまた見たことのない服装をした女性が私の前に跪いた。長いエメラルドグリーンの髪を高く結い上げている綺麗な女性だった。


「光の巫女様、これから貴女様のお世話を致しますサリーアと申します。渾身を持って仕わさせて頂きます」


「え、あ、はぁ...」


訳が分からず間抜けな声が漏れてしまう。光の巫女とは一体何のことだろう。私に向けて言っているようだけど、私はそんなものじゃない。

敷石(シキイシ) 莉亜(リア)、それが私の名前だ。

あれ、そういえば結亜(ユア)はどこに?何で私はこんな所に...。


「それから、こちらは近衛騎士団団長ヴィセルです」


カシャリと、重厚な音を鳴らしながら私の前にまた1人跪いた。


「お会いできて光栄です光の巫女様。ヴィセル・オーリアー、近衛騎士団団長を務めさせて頂いております」


とても綺麗な紫色の瞳が私を捉えた。サラサラな見事な金髪に、端正すぎる面立ち。大きな体躯とそれを守る頑丈そうな銀の鎧。まるで西洋の騎士、或いはゲームに出てきそうな戦士のような、信じられないくらい格好いい男性。見た目は20代前半くらいだろうか。


そのあまりの格好良さに私は何も言えず彼を見つめた。


「この度は、貴女様の護衛騎士として拝命仕りましこと光栄至極にございます。いつ何時も貴女様をお守りし、力となる事をここに誓います」


「護衛...騎士...」


私の呟きに彼は小さく微笑んだ。まるで心配はいらないと、宥めてくれるように。



「巫女様、お部屋までご案内致します」


「は、はい」


サリーアさんに促された私はよろよろと立ち上がった。でも足に上手く力が入らず、思いがけずよろけてしまった。


「巫女様」


「ーー!」


よろけたと思ったら、すぐにそれは支えられ倒れることはなかった。ヴィセルさんが優しい手つきで私の背を支えてくれたからだ。

彼の大きな手が布越しに当たり、思わず胸が高鳴ってしまう。


「あ、ありがとうございます...!」


「礼など必要ありませんよ、巫女様。では、参りましょう」


当たり前のことのようにそう告げる彼は、私の一歩後ろに控えて微笑んだ。その微笑みは、私の胸を更に高鳴らせ、動揺を生んだ。


(イ、イケメン過ぎるよ何なのこの人...!!)


最早呼吸困難になりそうなくらい動悸で忙しい心臓と戦いながら、私はサリーアさんの先導に大人しくついて行った。



連れてこられた部屋は、とても広くて豪華なものだった。床に敷かれた絨毯は柔らかく、でも靴に引っかかることは無く不思議なほど安定している。

白い壁には美しい風景の描かれた絵画や、金で作られたのかツヤツヤと輝いた装飾が悪目立ちすることもなく付いており、複雑な模様を描いていた。


いたるところにある高級そうな物に目を引かれながら、ふかふかのソファに案内された。

ソファの後ろにヴィセルさんが控えると、サリーアさんが私の傍に来て恭しく一礼した。



「光の巫女様、この度の我が国ラークへのご来訪、誠に感謝致します。いえ、こちらが勝手に貴女様を呼び寄せた故、ご来訪とはあまりに失礼。...ですが無礼を承知で、我々は貴女様のお力を是非お借りしたいと願った次第であります」


「あ、あのちょっと待って下さい!光の巫女って私のことですか?呼び寄せたとか一体どういうことなんですか?」


突然訳の分からないことを言われても困る。

光の巫女?召喚?一体何なの?それよりもここはどこで今何が起こっているのだろうか。

混乱する頭をフル回転させて今まで何があったか必死に思い出そうとする。落ち着け、大事なことを忘れてる筈だ。


「申し訳ありません巫女様。詳しい話は後ほど大神官様がご説明に参りますので、今はお体をお安め下さいませ」


「い、いや...少しくらい教えてください。ここがどこかとか。日本じゃないですよね?」


「ここはエリーシャ城。ジェイラ王が治められるラーク王国にございます」


「ラーク王国...お城...」


周りにいる人達からして日本ではない事は容易に予想できたが、ラーク王国とは一体何処なのだろう。海外...にしては言葉が通じているし、召喚という単語からして色々と不可解な世界に感じられる。

私は今どういう状況にあるのだろうか。


「やはり混乱しておいでです。今はどうかお休み下さいませ巫女様。後で温かい飲み物でもお持ちいたします」


「.......」



巫女様というのも理解出来ないけど、私はどうやら偉い立場にいるらしい。聞き慣れない呼び名に全身がむず痒くて仕方がない。



「部屋の物は自由にお使い下さい。...では巫女様、ごゆるりとお過ごし下さいませ」


「え、あっあのもう一つだけ!」


一礼して去ろうとするサリーアに、私は今一番大事なことを聞こうと呼び止めた。



「結亜は.....私に似てる女の子は見てませんか?」


「...異世界からいらした巫女様に似ている者などいるはずがありません。申し訳ありません、お役に立てず」


「...い、異世界...」


またとんでもない言葉が出てきてしまった。異世界という事はここはやっぱり日本じゃない。

そして結亜はここにはいない。


「嘘でしょ...」


先程とは違う、嫌な汗を伴う動悸が始まった。

疎外感というのだろうか、ここにいることがいけないようなとても怖い感じがして苦しくなる。

ドクドクと心臓が鳴り響くのを全身で感じる。


「巫女様、どうなさいました?」


「サリーア殿、彼女を休ませた方が宜しいかと」


震える私の後ろからヴィセルさんの優しい声がした。でも嫌な汗が全身から溢れ出るような感覚に何も言えない。


「えぇ、元よりそのつもりです。...巫女様、あちらに寝台がございます。しばらく横になりましょう」


「.......」


心配そうにサリーアさんが私に近付き声を掛けてくれるけど私は動けない。

震える手を強く握りしめた。いつもなら隣にいる筈の大切な妹を想う。



「...ゆ...ぁ」


どこにいるの?どうして私は1人なの?あの時、一緒にいたよね?隣にいるの分かったよ?結亜も、車に轢かれたんだよね?それでその後、その後に.....。


ーーあぁ分からない!でも......!



(.....会いたいよ、結亜...ーーーーーー!!)





突然、真横で眩い光が煌めいた。驚きに目を開けると、床に幾何学的な模様が描かれた円が金色の光を放ちながら浮かび上がっていた。


「...魔法陣!.....それにこれは召喚...!?」


ヴィセルさんが驚愕の声でそう言った。

瞬時に私を守るようにして前に現れ、その腰にある長い剣を手にした。

サリーアさんもどこから出したのか短刀を手に構えている。


「.......」



眩い光が徐々に弱まって来ると、その魔法陣の中心に誰かがいるのが分かった。

ヴィセルさん達も分かったようで、辺りは緊張した空気が流れ始める。

思わずその空気に飲まれそうになった時、魔法陣の中心にいるそれが声を発した。



「ーーあ、莉亜!?莉亜でしょ!?」


「...え?その声...」


聞き間違う筈もない。

いつも聞いていた、大好きなあの子の声だ。




「結...亜?」


「ちょっと莉亜、金髪になっちゃってイメチェンかよ〜?...て、一番のイメチェンはあたしなんだけどね!!」



ようやく光が収まった頃、驚く私の目の前にいたのは紛れもない私の妹の結亜。

でも声と顔は同じなのにそれ以外は結亜ではなかった。


「結亜...なの?」


「あはー、引くよねぇコレ?どう見てもバケモノ」


口調も結亜だ。顔も同じなのに。

目の前の女の子は全身の肌が薄い水色で、目と背まである髪の毛は氷のような白銀色。背は変わってないのか小さい方。でも人ではないそれに私は空いた口が塞がらなかった。



「もう、何が何だか...」


「混乱するよねぇ?えーとまぁ、一応言っとくね莉亜。ーー何かあたし、召喚獣になったっぽい」



私はそこで意識を失った。









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