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短いお話したち

幼稚園のパティシエ

作者: marron

ひだまり童話館「開館1周年記念祭」参加作品です。

 明日は月に一度のお誕生日会の日です。

 どんぐり幼稚園ではお誕生日会の日にはいつも給食にケーキが出るのです。子どもたちは自分の誕生日でなくても、その日を楽しみにしていました。


◇◇◇


 かずなり君は一人で「秘密基地」にいました。

 そこは園舎の靴箱と階段の間にあって、階段の影になるためにちょっと隠れているのです。それで秘密基地と呼ばれていました。秘密基地には滑り台があって、他には大きな積み木がたくさんあります。滑り台と大きな積み木を組み合わせて、自分だけの秘密基地が作れます。

 だから、かずなり君はそこがお気に入りでした。

 だけどその時間、かずなり君は一人でした。いつもは仲良しのお友だちと一緒ですが、今は延長保育が6時までなので、かずなり君は一人だったのです。

「つまんないや」

 かずなり君はポツリと言いました。他の子はみんな遅くても5時には帰ってしまうのに、かずなり君だけはいつも6時までお母さんを待っているのです。だから最後はいつも一人ぼっちです。ちょっとだけ寂しくなって、隠れるように秘密基地の中でじっとしていました。



 かずなり君がぼんやりしていると、何か歌が聞こえてきました。楽しそうな声です。でもそれは、幼稚園の先生やお友だちの声ではありませんでした。

「なんだろ?」

 かずなり君はちょっとその声が気になって、秘密基地から出てきました。子どもの声にも聞こえますが、なんか違う。それに他の子たちは帰っちゃったし。

 かずなり君は声を探すように歩いて行きました。階段下から出てきて事務室の前を通って、たどり着いたのは、給食室の前でした。いつも給食室に牛乳をとりに来ます。給食室には給食を作ってくれるおばさんが3人いて、かずなり君もよく顔を知っていました。

 給食のおばちゃんの歌声?かずなり君はそっと給食室の扉を開けてみました。



♪さあさあ、お誕生日おめでとう~

 ゆうかちゃん、さとる君、おめでとう~

 ともひろ君、ひかるちゃん、おめでとう~♪


 賑やかな声が給食室の中に響いていました。だけど、給食のおばさんはいません。かずなり君がよーく見てみると、机の上に小さな人が立っているではありませんか。その人は机の上を行ったり来たりしながら、大きなボウルに何かを放り込んでいました。

「さあ、かき混ぜて!」

 その人が歌うように叫ぶと、あと二人、やっぱり小さな人が机の上に上がってきて攪拌機かくはんきでシャカシャカ混ぜはじめました。


♪さあさあ、お誕生日おめでとう~

 美味しいケーキになりますよ

 食べたらみんな幸せよ、おめでとう~♪


 最初の小さな人が菜箸で指揮をするように踊っています。ボウルの中はみるみるうちに混ざって、今度はケーキ型に流されました。そしてオーブンで焼きはじめると、ケーキの焼ける甘い匂いが漂ってきました。

 かずなり君は夢見心地で見つめていました。ケーキ作りはなんて楽しそうなのでしょう。それにあの小さな人たちは、なんて可愛らしいのでしょう。かずなり君の半分くらいしかないのに、とても力持ちで、大きなケーキをあっという間に3つも作ってしまいました。



 ケーキを焼いている間に、クリームを作っていました。

「おや大変、アレがないよ」

「おや大変、アレがないって?」

 何かが足りないようで、小さな人たちは冷蔵庫を開けたり、上の戸棚を覗いたり、パタパタと探し回りました。

「大変大変、大事なアレがない」

「何がないの?」

 かずなり君は思わず聞いてしまいました。

 3人の小さな人たちは一斉に入口の方を向きました。みんな似ている顔に見えますが、頭にかぶった白い帽子はみんな違う形をしていました。首に巻いた白いスカーフも長さが違いました。

「おや君は、かずなり君」

「やあ、かずなり君、ようこそ」

「いいところへ来てくれたね、かずなり君」

「僕のこと、知ってるの?君たちだあれ?」

 小さな人たちはかずなり君のことを知っていました。

「私たちが誰かって?」

「私たちはパティシエだよ」

「ケーキを作るパティシエだよ」

 小さな人たちは歌うように教えてくれました。



「さあ、ここに立ってくれたまえ」

 小さな人は、かずなり君を足台の上に立たせました。

「さあ、一緒に歌ってくれたまえ」

「歌うの?」

「そうさ、さあ一緒に歌おう!」

 小さな人たちは楽しそうに歌い出しました。

♪ラーラー、ララー♪

 かずなり君もつられるように歌い始めました。

♪ラーラー、ララー♪

「上手、上手。もう一度!」

♪ラーラー、ララー♪

 かずなり君が歌うと、小さな人たちはケーキにクリームを塗って、イチゴを乗せていきました。イチゴを乗せているはずなのに、他にもチョコやアラザンや、なにかキラキラしたものがたくさんかかっていました。

 そうして素晴らしいケーキが出来上がりました。

「やあやあ、かずなり君のおかげで幸せいっぱいのケーキができたよ」

「ありがとう、かずなり君」

「うん!」


◇◇◇


 6時にお母さんが迎えに来ました。かずなり君は大急ぎで給食室から出て行って、先生にご挨拶をして、お母さんと一緒に帰りました。

「お母さん、幼稚園にはね、小人がいるんだよ」

「まあ、そうなの?」

「お誕生日会のケーキは小人が作ってるんだよ」

「あら、そういえば、明日はお誕生日会の日ねぇ」

「僕、お手伝いしたんだ」

「そうなの」

 お母さんとかずなり君はニコニコして手をつないで帰りました。

「僕、大人になったらパティシエになるんだ!」

 初めて作ったケーキは、かずなり君の歌声入りの幸せケーキ。大きくなったらまた素敵なケーキを作ってくださいね。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 男子的にはですね…… 「秘密基地」 これに、身も心も奪われてしまいます。 階段下、森の木の上、そして、私が子どもの頃――積み重ねられた廃自動車の10段目くらいのところにある、今から考えると…
[良い点] こびとのくつ屋さんみたい♪ でも歌いながら一緒に楽しく作るところがまたいいですね。 近々うちの息子の誕生日なので、うちにはこびとはいませんが代わりに私が歌声入りの幸せケーキを作ってあげよ…
[良い点] 幸せを呼ぶケーキの小人の素敵な歌☆ミわたしも、ケーキの妖精に導かれていれば、かずなりくんのように健やかに育てたでしょう( TДT)ちいさな奇跡が呼ぶ忘れられない記念日。たのしく拝見しました…
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