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第4節4部ー純粋な人間ー


「なんっ、なんだこいつはぁああッ!!」


 引きずり寄せられる兵士がたまらず声を上げた。ドミネーターだと思っていたその怪物の姿はあまりに生々しく、ひどい外見を呈していたからだ。

 グレアノイド侵食によって増殖し、肥大した人間の部分と鉱物化した異形の部分が体表の大部分を占めている。

 だが人であった部分の変異が激しく、山のような形状の体躯にはおびただしい数の歪な腕、脚……目や髪、見慣れない内蔵器官などが露出している。

 各部に見られる瘤状の異物からは一定の間隔でグレアノイド粒子が、まるで菌類の胞子のように吐き出されていた。


 だが、何よりも……その怪物は人の言葉らしきものを話すのだ。その醜い体躯に埋もれたいくつもの空洞から、高音低音がめちゃくちゃに入り混じった声調で。

 

“ようやく迎えが来たぞ、助かった”と。そう聞こえるような言葉を、吐き出したのだ。


「なんだ……あれ、は……。言葉を話したぞ……」

「聞かないほうがいい。侵食体の末期症状です。あれは自分がどんな姿になっているのか、何をしているのか正確に把握できていないんだ」


 増殖した脳細胞によって、人としての意識が侵食末期になって再起するという。


「あれに声をかけないよう部隊に通達してください。あれが己の状態を自覚した時のほうが厄介です。増援到着まであと1分……と、荒木一等!?」


 ここに来て、先ほどまでじっと待機していた荒木一等兵が茂みから身を乗り出し、担いでいた粒子性兵器のチャージを開始。狙いを、捕らえられた兵士に絡んだ触腕へ向けたのだ。


「すまない、祠堂君。やはり見捨てては行けない!」


 だが同時に、粒子性兵器に反応した侵食体の意識がこちらへ向く。


「流石に見過ごせないか……、人がいいな!」


 粒子砲の射出にはタメが必要であり、その携行型である荒木一等のものも例外ではない。高濃度フォトンノイド粒子に反応し、侵食体の触腕がこちらへ伸び、鋭い槍のように形を変えて向かってきた。


「はや……ッ」


 反撃してくるのが早すぎる。携行型粒子砲の射出が間に合わない。このままでは……と、泡を食った荒木一等のすぐそばから、前へ飛び出した雛樹がその触腕の前に身をさらした。


 触腕の挙動を過去の経験から予測していた雛樹は担いでいたライフルの側面でその触腕を防いだのだ。

 だが、その触腕が本気で人体を貫く気で襲ってきていたのなら、このライフル程度、貫通して見せていただろう。

 

 その触腕の先が変異し、細胞の増殖を急激に行った。現れたのは、ブドウのように実った人間の顔。

 真っ黒でただれたようなその頭蓋は一斉に言葉を話しだす。


『助けてくれ、あなたたちは救出部隊ダロう! 子供らも助けを待っていル、腹も空かせているのダ! シェルターから化け物が逃げダシた! 頼ム、帰りたいのだ、あのハコブネへ! 助けてクレ! 助けてくれ!』


 荒木一等、来栖川准尉から一斉に血の気が引いた。この怪物は……いや、人間なのだ。姿形は異常な様相を呈してはいるものの、紛れもなくこれは人間なのだ。

 自分がどのような姿になっているかも自覚できておらず、ただただ純粋に助けを求めて縋ってきているだけだったのだ。

 人間の食料を貪っていたのも、人の意識がそうさせていたのだろう。


 なら、今、自分が兵器の砲口を向けているのは……。


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