第3節最終部ー新たな生存者の可能性ー
侵食体を撃てる兵士とは言うが、それは何も兵士らの腕のことを言っているわけではない。
精神面の問題である。侵食体は人体が変異しているという特性上、ドミネーターのように怪物然とした見た目ではない。
人としての部位をいくらか残している上、とある行動によりこれを相手にする兵士の多くは引き金を引けなくなるのだ。
警戒範囲の強化を依頼された夜刀神葉月は、他の艦の高性能レーダーとこちらのものリンクさせ、より正確で広範囲を索敵できる状況を作った。索敵範囲は広がったが、リンクさせたために第一、第二、第三輸送部隊の周囲を各個警戒していたレーダー網が一つになってしまった。
そのため各オペレーター間でのやり取りが増え手間は増えたのだが、集落の中心から全ての輸送部隊周辺を警戒できるほどの網を張れた。
《第一輸送部隊、目的地点へ向けて進行中。周囲200メートル圏内にドミネーター反応なし。第一護衛艦から第二護衛艦へ、北側の空白エリアはこちらで面倒をみましょうか?》
「第二護衛艦から第一護衛艦オペレーターへ。よろしくお願いします。こちらで東、南側の空白エリアを警戒します」
《第三輸送部隊、グレアノイド粒子反応発生地点を迂回します。目的地点到着まで、約10分の遅延が生じました》
「第一輸送部隊側了解」
《第二輸送部隊了解》
夜刀神葉月は他の部隊のオペレーターと滞りなく連絡を取りながらも、集落を映したレーダーを逐一確認していた。点滅する集落の生命反応は初めと変わりない。
ただ、この反応以外にもう一つ、気になる反応を発見した。集落北側にある山、そこから微弱ではあるが幾つかの生命反応が点滅しているのだ。
集落にあるような、幾つもの反応が固まったものではない、多少の動きがある反応点。
これは、レーダーの有効範囲を広げたために偶然見つけたものだったのだが……。
「北側の山に誰かがいるの? ……それとも」
夜刀神葉月はこの山に現れている生命反応がどうしても気になった。この護衛艦の設備に遠隔投射型の解析機が搭載されていたはずである。その使用許可を取り、葉月はその遠隔投射型解析機を護衛艦の砲から撃ち出した。
小型の解析機は低空を進み、島の北側、山の周囲に展開し地面に刺さった。
「さてと……。地下30メートルから地上30メートルまでの解析結果……と」
葉月の目の前に現れたのは、その山の構造解析結果だった。
普通の山ならば、岩や土、木などが積み上がったものなのだが。その山はそれだけではなかった。
まず、生命反応が現れているのは、地上から約15メートル付近。
そして、明らかに人工的な構造物が山の中に建造されている。
「これって……もしかして、シェルターなのかしら……」
と、なるとその構造物の中に反応を示す生命反応は……。