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第2節9部ー食物ー

「世辞や冗談に対しての返し方は覚えないとな」

「せじぃ? じょーだんー?」

「言葉の意味から教えてあげないといけないわね、祠堂君」


 雛樹は流石にうんざりしてはいるが、ステイシスはどことなく楽しそうである。そんな方舟の守護者の反応を見て、葉月は思った。

 彼女は人と会話することに幸せを感じているのではないかと。自覚しているのか自覚していないかは別として、知らない言葉の意味を問う時の彼女はひどく純粋で、好奇心にあふれている。

 穿ったものの見方だが、彼女はこれまでまともに人と会話をしてこなかったのではなかろうか。

 彼女が発する言葉一つ一つに、こう、わくわくというか、気分が高揚している感じが見受けられるのも、初めてこういったなんでもない話をすることにある種の緊張と喜びを感じているからではと。


(感情や言葉を持った兵器って……考えてみると凄まじく危険よね……)


 その感情や言葉が危険だからこそ、彼女は薬剤をもって制されていた。金属球状の檻の中で、裏切りなどの行動を起こさせないよう世間から隔離された状況の中、飼い殺されていた。


 今までうまく運用できていたはずだ。数十年間、彼女は様々な事件を起こしながらも、曲がりなりに方舟を護り続けてきた。

 なら何故、何故兵器局は……高部総一郎はその生物兵器ステイシスを檻から出し、祠堂雛樹に与えたのか。


「ぷえ! なぁにこれ! 美味しくなぁい、苦ぁいっ」

「ははっ、珈琲は流石に口に合わないか? 苦いものは苦手なんだな……一応食べ物の好みも把握しておきたいから、わかりやすくていい反応ありがとう」

「しどぉ! おいしくないものアルマきらぁい!!」


 ステイシスは袖の上から持ったコーヒーカップを雛樹に投げつけ、ぷりぷりと怒っていた。

 少女らしからぬ力で投げつけられたカップを受け止め、テーブルに置いた雛樹は笑いながらも真剣にステイシスが食べるものについて考えていた。


 前日の夕食において、雛樹は食料の買い出しをしておらず、家に備蓄されていた保存食や、企業連正規軍のレーションの封を開けて夕食としていた。


 CTF201にいたころに食べていた、お粗末な乾パンやレーションと比べるとまだ悪くない味だった。

 パッケージのマークに触れると温められる白米やスープ類などは感動さえ覚えたほどだ。 

 ただ、まともに食物を口にしたことのないステイシスの感想はというと……“よくわかんなぁい”の一言だった。

 味を感じる器官が未熟なのか、ただ食物を食べたことがないからどう言い表せばいいのかわからないからなのか、まともな感想を述べることはなかった。


「なんでも食べれないとダメだぞ。食は人が生きていく中でも重要なもんだ」

「こんな苦いの、やぁ」


 ぶかぶかの袖を上下に振って拒否感を現してくるステイシス。味についての“よく分からない”を克服させるために極端な“苦い甘い辛い酸っぱい渋い”を教えたかったのだ。


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