第2節8部ー最高戦力と一般人ー
「……」
「ぅはは、似合ってるぞガーネット」
マントで身を隠しフードで頭を、赤いマフラーで口元を隠したステイシスだったのだが……。もともと低い身長のせいで、どうもちんまりとした風体になってしまっていた。
普段は少女らしからぬグラマーな体つきのせいでそうそう子供っぽさはないのだが、こうも体を隠してしまうと可愛らしい見た目になってしまう。
その落差に、雛樹は思わず笑ってしまったのだが……。
「はづはづぅ、結構落ち着くわぁこのかっこぉ」
「え、そう? それは良かったわ……息苦しくない?」
「前はもっと息苦しいところにいたしぃ」
ステイシスはフードを外してくるりと回って見せた。軽く翻るマントと、長く艶のある白い髪。新しい服を買ってもらい、喜ぶ子供のようで微笑ましい。
「でもしどぉ、あなたなんで笑ったのぉ?」
「いや、笑ってないよ」
マントの間から、首を軽く刈る拘束衣の袖が覗いている。その一点に視線を集中させ、警戒しつつも雛樹は決してちんちくりんなのをバカにしているわけではないと説明した。
じりじりと間合いを詰めてきて、向かい合った状態で雛樹の腹部とステイシスの胸が接触するほどの距離になると、下から見上げるように向けられるじとりとした視線が痛く感じてしまう。
すると、雛樹ではなく別のところから笑い声が聞こえてきた。隠すつもりもない、随分気の抜けた笑い声が。
「はづはづぅ?」
「いや、あはは。ごめんなさい。ついね、安心して笑っちゃったの。方舟の最高戦力なんて言われてるから、もっと怖い人なのかと勝手に思っていたの。そうじゃなくて安心したわ」
「……ふぅん。まあ、怖がらないのはいいけどぉ。あんまり近寄ったりはしないことぉ」
「どうして?」
葉月の疑問に答えるように、ステイシスは袖に隠れた自分の両手を上げて見せた。
「アルマの肌に直接触れると、黒い塊になって死んじゃうわよぅ?」
ドミネーター因子を、その小さな体躯に宿していることが原因である生体へのグレアノイド強制侵食。
通常の人間が彼女に直接触れたりすれば、その部分からグレアノイド侵食が始まり死に至ることになる。
一応は、侵食部分を大きく切断することで止めるといった方法もあるのだが、あまり現実的ではない。
「祠堂君は触れても平気なのね?」
「全然平気」
ぴったりと体をくっつけて見上げてきていたステイシスの額を覆うように右手を当て、くりくりと撫でてやった。
鬱陶しそうに目を閉じ、小さく唸ったステイシスだったが、案外、満更でもなさそうだ。
「ただ、力は人間のそれを遥かに超えてる。じゃれつかれるだけで首が飛ぶ勢いでさ」
「しどぉはすぐ避けるから面白くなぁい」
「受けたら死ぬようなことをするからだろうが」
そのやりとりに、葉月の表情はおもわず引きつった。見た目は少女だが、やはり生きてきた環境が違う。他人の命に対し軽薄で、常識、倫理観などがズレているのだろう。
それについていけているのは、本土で兵士として過酷な環境を生きてきていた雛樹だからだろうか……。
ステイシスの言動を真っ向から否定しようとはせず、あくまでも保護者のような立場から、うまく受け止め咎めていた。