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第2節3部ー驚愕の社長ー

 水道の使い方がわからなかったのか、ステイシスがリビングに顔を覗かせて雛樹を呼んだ。それに答えて洗面所の方へ行った雛樹が使い方を教えると……。


「その腕、使いづらくなぁい」

「ん……ああ、固定してあるからな」

「んー」


 何が不満なのか、ステイシスは洗った手をタオルで拭いたあと……。人差し指の爪を赤い刃に変え、一閃。

 あまりに自然な攻撃に、雛樹は唖然としていたが……、ステイシスは両手の親指をギプスの切れ目に入れて、パンでも二つに割るかのように外してしまった。


「くさぁい……」


 ギプスから解放されたばかりの腕は、洗えていないために酸っぱい臭いがする。そのにおいでステイシスは顔をしかめるが……。


「これで使いやすくなったでしょお?」

「まだ骨が繋がってなかったらどうするんだよ……」


 先ほどまで不自由だった手を握ったり開いたりして感触を確かめる。しっかり動き、痛みもない。問題はないようだ。


 臭いと言われたため、風呂に入るかと思い立ち湯船に湯を張った。

 本土では、川まで行きドラム缶に水を貯めて湯を沸かし風呂に入っていたが……ここではボタンひとつだ。手間をかけることがない分、少し物足りなさを感じたが。


 風呂に入った雛樹は、脱衣所に戻ると驚きで一歩後ずさった。入り口でステイシスがしゃがみこみ、拘束衣の両袖を顎付近に当てながら、じっとこちらを見ていたのだ。怖い。


「リビングでおとなしくしてろって言ったろ、ガーネット!」

「オトコの体ってどうなってるのか気になってたのよねぇ。アルマのとすごい違い。それが筋肉ってやつぅ?」


 彼女は随分と異性との体の違いに興味を持っており、じっとこちらを見つめて目を離そうとしない。


「そのタオル取ってみせなさいよぅ。一番重要なとこでしょぉ」

「一番必要ないところだよ!」


 その場から動かなかったステイシスを、脱衣所から押し出した後にようやく着替えられた。随分容赦のない箱入り娘だったのだろう。それに羞恥心も足りていない。

 一般常識とはかけ離れた世界で生きてきていた彼女にそういうものを求めようというのは間違いなのだろうが……。


「……これは、大変だぞ」


 風呂から上がった雛樹は、通信端末に着信があったことに気づいた。確認してみると……10回ものコールがあったようだ。

 自分が風呂に入っている短い間にこれだけの着信があったのも、まあ、履歴から察することができた。


 葉月からの連絡であり、その内容はもちろんステイシスを任務で預かることになったことに対してもの。

 通信をつないだ直後の葉月は混乱しているようで、何を言っているのかわからなかったのだが……。


「何を言ってるのかわからないぞ! とにかく落ち着いてくれ」

《落ち着けって!? 無理な相談だわ!》

「んーうるさぁい。なぁにしどー、その女ぁ」


 ホログラムモニターの向こうで冷静さを欠いている葉月の顔を見て、ステイシスは気だるげに問いかけたが……。


《ほんとだ……ほんとうにステイシスがいるじゃない……方舟の最高戦力が……!》

「はろぉ。んーその反応は嫌いじゃないわぁ。おもしろぉい」


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