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第2節2部ーステイシスデーター

「腹減ってたんならそう言えばいいのに」

「んぅ……久々にこんな感覚を味わったわぁ。空腹って……こんな感じだったかしらぁ」


 随分間抜けに腹を鳴らしたことに対しては、なんとも思っていないらしい。それどころか、空腹という長らく縁のなかった生理現象に感動すらしているようだ。

 それもそのはず……。ステイシスのデータが載せられた冊子。それによると彼女の食事は特殊な液状栄養剤を一週間に一度、点滴で投与されるだけで済まされていたのだ。

 それで腹も減らず活動もできるというのだから驚きである。ステイシス自身の燃費は良くないらしいので、その液状栄養剤がどれだけ高カロリー高栄養だったのか、想像に難くない。


「ねえ、その箱からいい匂いするぅ」

「ん、ああ。これか……」


 退院祝いにと葉月からもらった白い化粧箱を指差したステイシスは、その箱を開けようとする雛樹の手元を目で追った。

 開けられたその箱の中に収まっていたのは、三つのケーキだった。色とりどりの果物が乗ったものや栗が乗ったクリーミーな外見のもの。

 葉月のセレクトだろうが、えらく中途半端な数だ。一つが小さいため、足りないとでも思ったのだろうが……。


「ケーキだな。へえ、本場のケーキはここまで綺麗なものなのか……本土じゃホットケーキくらいしか食べられなかったもんだけど」

「綺麗な食べ物ぉ……ね、ちょおだい」

「皿とフォークを出すから、好きなの選んどきな」

「じゃあこれにするぅ」


 袖だけを脱いで、手を露出させ箱からひょいと持ち上げたのは、モンブランケーキだった。自分の肌の色と同じという理由で真っ先に手を出したとのこと。

 食器を出そうとする雛樹を尻目に、お世辞にも上品とは言えないかぶりつき。

 口の中に広がる、柔らかなモンブランクリームと甘み、鼻腔を抜けてくる香ばしい栗の香りに感銘を受けたのか、目を見開きたまらず唸って一言。


「美味しぃ……!」

「せっかちだな。口元にクリームがついてるぞ」

「拭いなさいよぅ」


 せっかく取り出した食器を置き、モンブランケーキを平らげたステイシスの口を拭ってやった。

 ステイシスは指についたクリームも、丹念に舐めとった。やけに尖った長い舌でねっとりと舐めるものだから、ずいぶんと艶めかしく映るが……一応見た目は少女だ。

 呆れつつも、雛樹は残った二つのうち一つを手に取り皿に乗せた。


「これも貰うわよぅ」


 最後に残ったフルーツタルトをも頬張ったステイシスは、ひとしきり咀嚼して飲み込むと一言。


「これも美味しぃ……けど、初めのがいちばぁん」

「食べ終わったんなら、洗面所で手ぇ洗ってきな」


 ぱたぱたと走って行ってしまったステイシスを横目に、雛樹は自分のケーキを口に入れつつ、彼女のデータが載っている冊子に目を通していく。


 めぼしい……というか、目についた情報を幾つか記憶しておくことにした。


 現在より30年前、最も適正値の高かった被検体001番にドミネーター因子核を移植。実験が成功し、ステイシス・アルマと命名された。

 身体の成長が異常に遅い。ドミネーター因子の影響と仮定されているが、確定に至る根拠なし。

 生体に対してのグレアノイド侵食率が異常に高い。常人が彼女の肌に直接触れればそれだけで侵食され、死に至る。

 

「俺より随分年上なんだな……これを見ると」


 見た目からは考えもつかないが、もう十分大人らしい。確かに、少女然とした見た目と華奢な体格にそぐわぬふくよかな胸には違和感があったが……。


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