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第1節ー朽ち果てた実験機ー

《祠堂君、今日で退院でしょう? 何時いつ?》

「今から出るところ」


 結月恭弥から、退院しろと言われた雛樹は少ない荷物整理を終えて病室を出ようとしていた。

 テーブルに置きっぱなしだった通信端末が鳴り、繋いでみると相手は夜刀神葉月だった。


《家の場所は教えてもらった? 一応私から伝えることもできるけど》

「ちゃんと教えてもらったよ。この端末に場所のデータも入れてもらったし」

《ならいいわ。それより、途中で事務所に寄ってもらえる? 見せたいものがあるんだけど》


 これは、新たな住居で雛樹が壮絶な表情を浮かべる3時間前の出来事。

 葉月からの連絡を受けて、雛樹は夜刀神民間軍事会社の事務所へ足を運ぶことになった。

 ここから徒歩で40分ほどかかるため、空を走るタクシーを病院のフロントで呼んでもらった。事務所までの運賃1200円を端末で払い、走り去っていくタクシーを見送ると目の前には事務所があった。


 あいも変わらず寂れた場所だ。


 左腕にはまだギプスがはめられている。とんでもない勢いで開いた扉に対処ができず、激突してから中へ入った。


「退院おめでとう。待ってたわ」

「あの扉をそのままでか。ひどい歓迎の仕方だ。いいか、もらった報酬で真っ先に玄関扉を直してくれ」

「そこに回すお金があればね」

「まず回してから他のことしようか」


 あの殺人扉にやられ赤くなった額をさすりながら、悠々と書斎机につき良い香りを立たせるコーヒーを啜る葉月に抗議したが……それは受け入れられるどころか軽く流されてしまった。


「私が、二脚機甲の所有許可をもらった理由を見てもらいたいの」

「ああ、うん。そんなことだろうとは思ってた。あの扉直す気ないだろ」

「ついてきてもらえる?」

「……はいよ」


 そうし、案内されたのは事務所、廊下の突き当たりにある部屋に隠された地下へのハシゴだった。床板を外し、思い鉄扉を開けて、随分狭苦しい入り口に立てかけられたハシゴだ。


「ギプスしたままだけど、降りられる?」

「大丈夫」


そうは言ったが。このハシゴ、かなり長い。下に降りていくと、白い照明に照らされた広い空間が現れた。しかし、どうも瓦礫や鉄くずやらが積もった地下空間だ。

 ところどころ飛び出た鉄骨のようなものは……鉄道のレールだろうか。


「ところどころ、水が溜まってるからはまらないよう気をつけて」

「ここ……地下鉄か何かのホームか? 本土にもいくつか埋もれてない残骸があった」

「そうよ。ここは昔、本土の一部だった場所だから……こういう名残が幾つか残ってるの。それより、これ……なんだけど」


 葉月が指をさした先には……瓦礫に横たわった人型の機械があった。

 片腕がもげて内部機構が丸出しに。この地下空間の湿気にやられて装甲の塗装は剥げ、錆びてしまっている。

 ところどころ、黒く変質してしまっているのはグレアノイド侵食が進んでしまっている証拠だろう。

 

「なんだこの機体……」

「これにお金をつぎ込まなくちゃいけないの。今はボロボロだけど、これからオーバーホールして運用できる状態にするわ」

「二脚機甲の所有許可をもらった理由って……こいつを隠し持ってたからか」

「別に隠し持ってたわけじゃないんだけど。こんな状態じゃ鉄屑と一緒だし。都市への登録もされていない、試作実験機プロトタイプなのよ」

「試作実験機?」

「ええ。今流通している二脚機甲、そして特殊二脚機甲の前身となった機体。量産化される以前に製造されたワンオフ機。はっきり言って、総合的に見た性能は今量産されている機体の一回りも、ふた回りも下なの」


 性能云々の話はわからないが。葉月が言いたいことはわかっていた。

 


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