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第5節11部—任務遂行に賭ける心—

 複数のムラクモを艦底に突き立て、ブルーグラディウスも艦底を支えた。

 それぞれのムラクモの持つ推進力と、機体自身がもつ推進力を持ってこの潜水艦を持ち上げようというのだ。


 まだ艦内にいるであろう雛樹のことが気にかかって仕方がない。今の爆発の規模は相当なものだった。艦の内部からはじき出されてきたドミネーターのことも考えると、相当危険な状況に置かれていることは間違いないのだ。


「小型潜水艇の準備はどうだよ」

「滞りなく、完了してるわぁ。早く脱出しましょ」 

「ったく、損害を出さずうまくやるつもりだったんだけどよー。くそ、面倒な事になっちまったぜ、あの野郎のせいで……」


 装甲を内部から破壊され、浸水しつつある中でもステイシスを運ぶ彼らに焦りの色はない。

 元からこの艦は使い捨てる手はずだったのだ。ステイシスを拉致したところで、方舟に配備されているウィンバックアブソリューターという人型兵器が追ってくることになる。

 この大型艦の速力では到底逃げ切れるものではない。


 ならば、逃げ切れるものに乗り換えて離脱すれば良いだけの話だったのだ。


 ここまで入り込んできた祠堂雛樹の存在は完全に予想外の出来事だったが、ドミネーターをけしかけ、目の前であれだけのダメージを負った祠堂雛樹がここまで追ってこれるとは思えない……。


「おぅっ」

「ふあっ」


 後方で銃声。ステイシスを運んでいた兵士の二人が連続して頭部に弾丸を受け、倒れこむ。

 支えを失った担架がおもむろに落下し、拘束されたステイシスが受け身も取れず床に叩きつけられ悲鳴をあげた。

 すぐさま、真月と飛燕の二人は遮蔽物に身を隠し……。


「うそぉ、追ってきたのぉ!? 隔壁はぁ!?」

真月まがつ。ステイシスの血液は採取しただろーな?」

「ここにあるわぁ」


 真月はハードケースを見せ、飛燕の問いに答えた。そして、飛燕は自動拳銃を抜き出しスライドを引きながら……。


「それ持ってさっさと行けや。真月、ドミネーター研究第一人者のお前がいねーと、どれだけ遅れるかわかったもんじゃねー」

「そうねぇ、まあ、実験を遅らせるわけにはいかないものねぇ」

「血液だけじゃ不足かもしれねーが……」

「いいえ、器は用意してあるものぉ。本体がいれば勿論それに越したことはないけどぉ。まあ、お達者でねぇ」

「お互い様じゃんよ。そら行け!」


 遮蔽物から身をさらけ出し、小型艇を用意してある場所まで走り出した女の背中に、後方から追ってきた雛樹は右手だけで構えたガバメントの照準を合わせるが……。


「逃げる女の背中に鉛玉打ち込もうってかぁ!?」

「……!!」


 遮蔽物から飛び出してきた飛燕がハンドガンの引き金を引く。数回の発砲音。

初弾が雛樹の左腕をかすめ、その痛みに反応してすぐさま身を隠し、遮蔽物から腕と銃口だけを出して威嚇射撃を行った。


 狙いが定まっていない弾丸は、全く的外れな場所に着弾。飛燕はそのまま雛樹の隠れた場所へ向かって、銃を構えながらゆっくりと歩き続けた。


「ははっ、おいおいボロ雑巾状態ってのは今のテメーのことを言うんだろーぜ? 折れた左腕ぶら下げて、よく追ってこられたな! 俺たちの生物兵器の味はどうだったよ、なぁ!?」

「はぁっ……クソ……」


 遮蔽物に隠れたはいいが、ガバメントのスライドが引かれたまま戻っていない。スライドストップ機構が作動した。弾切れだ。予備弾倉はない。


「ゴキブリ並みの生命力じゃん、CTF201! いやあ、まいったぜ! でもここまでだろ! なぁ! もう楽になろうぜ!」


 雛樹が隠れている遮蔽物を回り込むようにして、引き金に乗せた指に力を込めた。

 そして、雛樹の姿が視界に少しだけ入った瞬間、その獲物は弾かれたように飛び出してきた。


 驚き、二発三発を明後日の方角へ撃ってしまった。雛樹による、腰下を狙ったタックル。

 飛燕は勢いで床へ押し倒され、握っていた銃が手から離れて床を滑り、遥か向こうへ。


 マウントを取った雛樹は、まだ健在な右腕を使い、何度も飛燕の顔面を殴打した。血しぶきが飛ぶ。拳が痛み、軋む。頬骨を砕く音。自分の拳にヒビが入る感覚。


「ぶあっ……は!! ばはっ……!! はは! やけに軽いじゃん! おい!」

「……ぐ!!」


 決死の殴打を、掴まれて止められた。力任せに払いのけられ、腹部を蹴られて床を転がった。


 立ち上がった飛燕は、口に溜まった血液を床に吐き出した。同様に、溜まった鼻の中の血を、かんで外へ排出。


 変形した顔を物ともせずに、床に仰向けで倒れた雛樹の折れた左腕を力任せに踏みつけた。


「あっ……ぐぁああ……!!」

「なぁおい、そんなに大事かこのバケモンはよ! 自分の体壊れもんにしてまで回収しねェといけねーもんかよ!」

「ぐぅう……盗人猛々しいとはよく言ったもんだ……!! お互いさまだ、そんなものは……!!」

「こっちはな!! 目的があんだよ! そいつがあれば本土の人間は救われんだ!! 平和ボケした方舟の連中にゃあわかんねーだろーがな! その点お前はなんなんだよ! ついこないだまで本土暮らししてたんだろォが! わかんだろその辺の事情はよ!!」

「これは俺の仕事だ……俺に課せられた任務だ……。任務は遂行し、成し遂げてこそ金がもらえる……それで誰かが助かり、俺は飯が食える……それだけだ」

「この野郎は……!! 何言っても無駄じゃねーか! ボケが!」


 床に倒れ、痛みに悶える雛樹の顔に唾を吐きかけ、踏みつける足により一層のトルクをかけた。


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