第5節7部ーさらなる追撃、反撃の一手ー
いくらか体のどこかの骨が砕けた。内臓もやられたらしい、腹の底からこみ上げてきた血液を吐き出し、床を赤黒く染めながら痙攣する体に鞭を打ち、壁に手をついて立ち上がる。
格納庫の壁に開いた穴の向こうで、防護服の兵士たちに運ばれていくステイシスの姿が見えた。
そして、割り込んでくるドミネーターの姿。
「がふっ……」
湿り気の混じった咳。虚ろな瞳で、揺らめくドミネーターの巨体を捉えた。そして同じく、そのドミネーターも立ち上がった雛樹を認識。不自然なでの動きの加速。
格納庫内を揺らしながら蛇行しつつ雛樹の横っ面を殴りつけた。
目で追えなかった。ノーガードで殴りつけられ、格納庫内の空間を舞う。上下左右の感覚もわからないまま、きりもみ回転した己の体を律することは叶わない。
だが、己に落ちてきたプレッシャーだけは感じ取れた。空中に飛ばした雛樹への、さらなる追撃。跳躍し、縦横無尽に動き続ける複数の眼をピタリと雛樹で止め、大木のような腕を振り下ろす。
体がくの字に折れ曲がったかと思うと、隕石を思わせる速度で格納庫の金属床へ叩きつけられ、跳ねた。体がバラバラになったのではないかと思うほどの衝撃と、痛み。
だが、まだだ。打ち落とし、落ちてくるドミネーターの影を感じた。
床に着いたことで上下感覚が瞬間的に戻った。右腕に仕込んだアンカーをどこでもいい、とにかく射出し固定。己の体を引きずらせ離脱した。
その直後、おおよそ生物と思われるものが下りたとは思えない、それこそ隕石がぶつかったような音を立ててドミネーターが着地した。
何かに固定されたアンカー。そして、ワイヤーの巻き上げにつられて引きずられていく己の体。
床に血の跡を残しながら、力無く床を這い、停止。
まるで弱々しい隙間風のような呼吸が口から漏れ、少しでも気を抜けば意識を手放してしまいそうになる中……。
最後に見た、ステイシスの口の動きを思い返す。
“うわあ……頑丈ねぇ”
「う……げほ……もっとなにかあるだ……ろ」
確かに、ひき肉のようにされていてもおかしくなかった攻撃をもろに食らって、形を保っている己の体はつくづく丈夫だと思うが……。
あまりにも楽観的すぎるというか能天気というか……ステイシスはどこか、他人事のようにこの物事を見ているようなのだ。
もっと悲壮感のある言葉を発してもいいはずなのだが、そんな感想を言うということは……。
(捕まったことに対して、いや、この世に対しての諦め……なのか)
自分のことを対して大事に思っていない。この先自分がどうなろうと、自分が知ったこっちゃないという、慢性的な自暴自棄。
そんな心境を、ステイシスに見たのだ。
「クソ……絶対助けてやる、待ってろ生物兵器……」
頭上を見上げると、そこには黒い二脚機甲。量子コンピューターは破壊した。今ならば動かすことが可能なはずだ。