一区切り
RBの空気を読まない発言に苛立っているのか、ガーネットの喉から獣が威嚇する際に発する様な唸り声が聞こえる。
そんな様子を見て彼はケラケラと軽く笑い……。
「う〜さびぃさびぃ、ようやく基地だな。さっさと治療してもらわねぇと俺も困っちまうぜ」
「まだ寄生体がうろついてるかもしれない、油断できないぞ……」
「あァ、あのゾンビみてェなやつな。ありゃあなんだ?もともとニンゲンだっつぅのは予測つくがよ。治療終わったら情報共有頼むわ。とりあえず俺は周辺見廻っとくからよ」
そう言って雛樹とガーネットを医療室へ連れて行った後、RBは基地内外に敵性存在がいないか見回りに出て行った。
ガーネットに関してはほぼ外傷がなく感覚器官の不具合のみだったため、ベッドへ横になっていれば回復する。
しかし雛樹は……。
ロシア語だったために何を言っているのかはわからなかったが、医師が血相を変えて治療準備を整え即手術になったところを見ると自分は随分とひどい有様だったらしい。
寒さのせいで感覚がほどんど麻痺しており、痛みというアラートが機能していなかったため自分の怪我の度合いはほぼ気にしていなかったが……。
…………。
そこから数時間後病室で目が覚めると目の前に葉月が、その後ろで腕組みをしているユーリがいた。
葉月は彼が目覚めたことに気付いてホッとため息をつきつつ……。
「結月少尉から聞いたわよ。意識を保っているのが不思議なくらいの状態だったって」
多量の出血、凍傷、低体温症。
通常なら死んでいてもおかしくないレベルの状態だったと。
「何時間くらい寝てた……?」
「オペを終えてから6時間ほどね。まだ麻酔が効いているんじゃない?」
「ターシャは」
「すでにここから離れて前線に戻ってるわ」
後ろで控えていたユーリは雛樹の目が覚めたことを報告にいくと言い、病室を出ていく。
その直後にRBが病室に入ってきて雛樹に固いパンを投げ渡してきた。
「目ェ覚めたな。そいつ固ェからそこの水に浸して食っちまえ」
確かにとんでもなく固いパンだ。
身近に置いてあったコップ内の水に浸して口に入れ込んでは見たものの、味の薄さといい食感といい食べれたものではない。
「……ガーネットは?」
「引き上げたベリオノイズの修理に当たってるわ。貴方のことひどく心配していたからあとで声かけてあげないとね」
あらかた現状を把握した雛樹はベッドから降りようとするが、腕に装着されたままの点滴針に気付く。
それを半ば強引に引き抜こうとするが……。
「しどぉ! だめよぉ、ちゃんと最後まで落とし切らないと!」
珍しく息を切らせ、長く美しい銀灰色の髪をぼさぼさしたガーネットが病室に飛び込んできた。
身なりの荒れようから、雛樹を心配するあまりいかに自分のことを気に掛けられずにいたかが見て取れる。
ベッドから降りようとしていた雛樹の両肩を押して無理やりベッドへ戻すと、そのままベッド脇にへたり込んでしまい……。
「もぉぉ……心配したぁぁ……」
「悪い悪い。髪荒れてるな、整えてやろうか」
「そんなの今いいからしどぉは休むのぉ。あとでしてぇ」
ガーネット、いや……RBからすればステイシス=アルマの印象が強くそんな二人のやりとりを、彼は目を丸くし驚きを隠せずにいた。
(へぇ、マジで総一郎が言ってた通りだな)
昔のステイシスでは考えられない感情の発露を感じさせる。
元々ステイシスを管理していた高部総一郎曰く今のステイシスの感情、感性は祠堂雛樹に沿って育まれており彼と共にいることで身体的にも精神的にも安定を得ている状態だという。
だが一つ懸念がある。
雛樹の容体が悪化した際のステイシスの憔悴の仕方はひどいものがあった。
もし、祠堂雛樹が何らかの形で彼女の前から消えた場合。
何らかの形で彼女を裏切るようなことになった場合。
ステイシス=アルマはどうなるのか……。