撤退中の接敵
相変わらず凄まじい力を持った個人だと感心する。
そもそも彼が背負っている自らを飛ばせるほどの推進力を持つブレードを扱えていること自体異常なのだ。
RB軍曹の肉体のいくつかは機械と入れ替わっており、いわばサイボーグのようなものではあるが……あのブレードを持ち振ることができたとしてもβ級のドミネーターを屠れるほど使いこなせる気はしない。
「しっかしよォ、随分手酷くやられたな。あんたならもうちィとうまくやれたんじゃねェのか?」
RBはガーネットを背負って歩く雛樹の負傷具合を確認し、心底不思議そうにそう言った。
彼はセントラルストリートパレードのドミネーター襲撃の際に見せた雛樹の動きを覚えている。
あの巨大な質量を持つドミネーターを単独で止められる力は持っていたはずの雛樹がこれ程の負傷を負っていることが理解できないといった風に。
RBは防寒用のゴツいネックウォーマーをグッと鼻上あたりまで持ち上げ……。
「シドー、あんたはドミネーター因子の適合者なんだろ?」
「ああ……」
「だろうな、じゃなきゃその姫さんを背負うなんざ真似できるわけねェ。まあ正直なところ、初めから気づいてはいたんだがよォ」
雛樹の背中で薄目を開け、凄まじい殺気を飛ばしてきたその姫さんに対し聞こえるように、安心しろ誰にも言わねェよと付け足して。
「あんたには正直、隠し通せるとは思ってなかった……」
「だろうぜ、俺も結構裏の事情には足突っ込んでるほうだ。それにあれだな、姫さんより完成された適合者だろ、シドー。人に触れてもグレアノイド侵食を起こさねェんだろ?」
「完成されてるかどうかは分からないな……。ガーネットは生体に反応しやすく、俺は主に無機物に反応させやすいだけかもしれない……。それに……」
この体のグレアノイド耐性も完全じゃない……。
脳裏に6年後、怪物になった己の姿を浮かべて口籠る。
その会話の直後、RBは背のブレードの柄に手を回し握り込んだ。
雛樹とともに向いた方角は基地を12時方向とし、4時方向。
「ッハ、まだ残ってンなァ」
「任せられるか?」
「そのための俺だっつぅの。位置はっきりわかるか?」
雛樹は振り向いた方向を注視する。
左めの瞳が赤く変色し、瞳孔が縦に裂ける。
「ここから300メートルほど先に3体、おそらく変異型だ」
「いいねェ、例の人型だな?」
RBはおもむろに取り出した、ぱっと見携行型グレーネードランチャーに筒状の機械を押し込み空へ向けた。
「こんくらいか……」
引き金を引き、投射されたそれは大きく弧を描きながら飛翔し……。
そしてその300メートル程の地点へ落ちると一筋の光線を直上へ放った。
直後、雲の向こうから雷の如く飛来した何かがその光の根元へ着弾し、凄まじい轟音と共にその周囲半径50メートル程を吹き飛ばす。
あまりの衝撃が離れたこちらにも襲ってきた為に雛樹は針葉樹を壁にし身を隠したほどの威力である。
「気配が消えた……無人爆撃機を飛ばしてるのか」
「中々イカすだろ? フォトンノイド粒子弾頭を乗っけてるリーパーを一機ちょろまかしてきてやった。合図さえ送れば空対地爆撃でお助けさんってことだ」
「流石GNCだな……」
「あれでも2世代前のブツだぜ。まぁ未だに刃物ふらつかせてやりあってる俺にはちょうどいいバディさ」
3体のドミネーターの気配が消えたことをRBへ伝えると、再び基地へ向かって歩き出す。
背中どころが全面任せられる頼もしい助っ人が来てくれて助かった。
周囲の音を聞く限り、まだ静流たちもドミネーターを相手にあの四脚機甲で立ち回ってるようだ。
「……で、そこの姫さんはいつまで背負われてるつもりだ? 目ェ覚めてんだろ」
「……なにこいつ生意気ぃ……」
雛樹の背中から離れようとするがまだ体がうまく動かないようで、はたりと雛樹の背中にもたれかかった。
「うぅ……ごめんねしどぉ……」
「大丈夫だから大人しくしてろ」
その様子にRBは片眉を釣り上げこれでもかと怪訝な表情を浮かべ……。
「外傷はねェようだが……どっか揺らされたか?」
「多分脳に直接ダメージが入ってる。フィジカルが人並み外れてる分、感覚に対するダメージにはよわいみたいだ」
「あァやっぱなぁ。俺もこいつの暴走止める時ァ似たようなことやってたわ」