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脱出


弾いた。

虚をつかれたとはいえ、戦闘経験の差が顕著に現れる。

そのまま腕を絡め取り、組み伏せたのだが……。


かつん。


自分のすぐ近くに何か、金属でできた何かが落ちる音がした。

やばい。

そう感じた時にはもう遅かった。


強烈な音と光で全感覚を麻痺させる音響閃光手榴弾が投げ込まれてきていたのだ。

ガーネットも雛樹も、風音以外の人間の気配は察知しておらず第三者の介入に意識を向けていなかった。


強烈な音に耳と脳をやられた雛樹は組み伏せていた風音を奪われた事にも気づかなかった。


「ガーネット……!」


ガーネットは雛樹とスタングレネードの間に入っていたためまともに影響を受け、倒れ伏していた。

グレアノイド因子の影響で身体における感覚が強化されているガーネットにとってたまったものではなかった筈だ。


ガーネットが壁となったおかげなのか、感覚が戻るのにそう時間はかからなかった。

ぼやけた視界で風音の姿を追う。


何者かが風音を抱き上げ、メガロマニアのコクピットへ運んでいる。


「待て……!  その人を離せ」


 黒い軍装にガスマスクを装着したその人間の姿は……ある時本土の人間から任務を請け負った際の自分の姿と酷似していた。

 方舟で話題となったガスマスクの男が風音を抱き上げていた。


《その人を離せだぁ? テメェのもんじゃあねえっつうの》


聞き覚えのない機械音声。

しかしその口調から、自分に向けられた敵意はありありと感じ取ることができた。

そのガスマスクの男は風音をメガロマニアのコクピットへ運び終えた後、メガロマニアのシステムを再起動させた。


《はぁー……。だからまだ方舟の連中にぶつけんのは早ぇって言ったのにさぁ。ほんと俺の言うこと聞かないんだから連中は》


 メガロマニアが再起動し、ベリオノイズの拘束から外れ出す。

雛樹はぐったりとしているガーネットを抱き上げ、ベリオノイズのコクピット内へ滑り込んだ。


重力波の異常を検知。

拘束が解けかけている状態ではベリオノイズ周囲の重力を操作されるだけで強制的に弾かれる。

まだ操縦桿も握れていない状態でベリオノイズは宙を舞う。


嫌な浮遊感の中で雛樹が優先したのはガーネットの身体をコクピットシートに固定することだった。

ベリオノイズは凍てついた湖面に投げ出され、衝撃で雛樹は頭を強く打ち付ける。


《重力波異常発生、機体姿勢異常検知》


 追い討ちをかけるようにHUDにアラートが上がり続ける。

 雛樹は操縦桿をやっとの思いで掴み、ベリオノイズの機体姿勢を修正しようとした。


 通信機からは静流の声が聞こえる。

 おそらく救助にきたのだろうが、耳を傾けている場合ではなく……。


 突然、周囲に発生していた重力波異常が消えた。

 以上が正常に戻ったのだから問題は過ぎ去った……かに思えたが。

 反重力で50メートルほど上昇していたベリオノイズがそのまま落下しだしたのだ。

 機体の姿勢制御まで手が回らない。


 50メートルより落下したベリオノイズは分厚い氷に覆われた湖面に落ち、氷を破壊して水中へ沈んでいく。

 

 コクピットの中で身体を固定していなかった雛樹は凍てついた湖面に衝突した衝撃で頭部を打ち付け、制御不能となったベリオノイズは湖底に着底。

 

二脚機甲は水中での稼働も想定されている。

そのためただ水中に落ちただけならば全く問題はなかった。


しかし……想定外の事態が発生する。

先程分厚い氷に叩きつけられた影響かコクピットを形成する装甲が破損し、浸水していた。


浸水している水も、想像を絶するほど冷たい湖の水である。

このままでは溺れる前に低体温症で死ぬ。

ガーネットの意識ははっきりとはしないものの、完全になくなっているわけではない。

しかし、ここから脱出できるほど体を動かせる状態ではなさそうだ。


「しどぉ……」


「大丈夫だからそんな顔すんな」


ひたすら申し訳なさそうにしているガーネットの固定ベルトを外し、自分は服を脱ぐ。

正直、失血が激しく自分もまともに体を動かせそうにないが……、このまま救助を待つこともままならない状況だ。


ここから出て、超低温の湖を泳いで地上に出るしかない。



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