ジリ貧
地上200m付近まで跳躍したベリオノイズを追ってきた大口径バルカン砲。
少しでも空中で姿勢制御を崩すと蜂の巣どころではない、当たったところから塵となり消え去るだろう。
だが、当たればの話だ。
ベリオノイズの全身各部に備えられた補助スラスターがそれぞれ機体のバランスを保つため、瞬間的に起動しては推進力を与え、跳び上がったままの姿勢を維持。
そして背面、側面のメインスラスターの推進力で滑空しながら機体を落下させていく。
さながら舞い落ちる木の葉のように向かってきた弾丸の雨を回避し、着氷。
着氷の勢いを殺すため前面のスラスターを使用しつつ脚部のパイルバンカーを氷に打ち込み……しかし完全に静止する前に高速機動状態へ戻りメガロマニアの砲撃に対して回避行動をとった。
回避行動をとりつつも左側面にメガロマニアの姿を捕捉し続ける。
一つ不可解なのはあの機体が一切その場を動いておらず、固定砲台と化していること。
強力な重火器を使用するために静止状態でいなければならないのなら、そこに付け入ることはできそうだ。
だが……一番厄介なのは重力の操作ユニットを積んでいる点だろう。
重火器に対する回避のタイミングを掴むのは難しくはあったがこの度を超えた瞬発力を持つベリオノイズであれば可能ではあった。
だが、一定の間隔で発生する極めて強力な重力の乱れが機体の機動力を削ぎ、攻撃を当てる隙を作り出してしまう。
実際のところベリオノイズは直撃はもらっていないものの数多くの至近弾によりスラスター出力や駆動部の損傷を許していた。
(時間をかければかけるほど不利になるな……)
凄まじい過重力からスラスターを最大出力で噴かす事で抜け出し、ぼたぼたと滴り落ちる鼻血をぬぐいながら相手の虚を突くための考えを巡らせる。
《……どぉ、しどぉー。そろそろお返事しないと本気で怒るけど大丈夫ぅ?》
「大丈夫じゃない」
《はぁぁ……やぁっと返事したぁ。どうせ耳と頭やられて通信に意識割けなかったんでしょお?》
「っと……。ガーネット、お前今どこにいるんだ? 凄まじい音だな」
ガーネットの通信にようやく気づき、会話をすることができた。
ガーネットはどことなく安堵した様子だったが、凄まじい風切り音が常時鳴っているせいで声が聞き取りづらい。
《どこって、しどぉの機体の肩の上ぇ》
「待て待て、お前いつ乗り込んだんだ! 危ないから降りろ!!」
《危ないってぇ……さっきからあの子の重力操作ユニットに反重力当てて軽減してあげてるのあたしなんだけどぉ》
「んん。なんだって?」
決して聞こえてなかったわけではないのだが、にわかには信じ難いことをさらりと言うものであったから聞き返してしまった。
《だからぁ、あたしが反重力を当ててしどぉの機体が潰れるの防いであげてたのぉ》
「お前ほんと……多機能だな」
下手なレーダーや防護ユニットを載せるよりガーネットを載せていた方がはるかに役に立つのだろう……。




